「REVALUE NIPPON PROJECT」展は、日本工芸と現代美術、デザインのコラボレーションによって実現したこれまでに類を見ない展覧会。このプロジェクトでは、毎年「陶磁器」「和紙」「竹」「型紙」「漆」といった、ひとつの素材をテーマに選び、批評家などの専門家を中心としたアドバイザリーボードが工芸家およびアーティストなどのコラボレーターを選定、各チームが自由な発想で制作。本展覧会はその集大成。中田英寿が現役引退後、力を注いできた「新たな日本工芸の発見」と「伝統的工芸の再編集」をレポート。
元サッカー日本代表・中田英寿が今注目する「工芸の未来」。
サッカー選手としての中田英寿を知らない人はいないだろう。その中田が現役引退後、全国各地を自ら訪れ日本の文化や技術の価値、可能性を再発見し発信していくプロジェクト「REVALUE NIPPON PROJECT」を立ち上げ、活動していることは知っているだろうか?
イタリア、イギリスなど海外生活を長く経験し、さまざまな国の人々と交流のある中田は海外でまず自分のことを聞かれ、次に「日本の文化」を聞かれるという。でも、実際どこまで日本の文化を知っているのだろうと思ったことが、47都道府県を巡るきっかけだったという。4月9日よりパナソニック汐留ミュージアムにて開催されている「REVALUE NIPPON PROJECT展 中田英寿が出会った日本工芸」は、中田が旅のなかで心動かされた「日本工芸」の展覧会なのだが、これが少し変わっている。
伝統工芸にスポットを当てた展覧会ではなく、伝統工芸に脈々と流れる技術を受け継いだうえで、現代における工芸に再編集された新しい工芸の展覧会なのだ。そして、それは「日本工芸の未来」を見据えた試みでもある。

会場入ってすぐに展示されている、有機的で謎めいたUFO鍋のかたちのモデルは「タジン鍋」だそう!
作品を工芸家、コラボレーター、アドバイザリーボードの三者でつくり上げる
このプロジェクトから生まれる作品がとても刺激的なのは、その作品の生まれ方にある。工芸家とデザイナーなど、コラボレーターとの共同作品は昨今よく見受けられるスタイルだ。ただその場合、工芸家よりもデザイナーが前に出ることが多いなど、両者にとって幸せな結果にはなりにくい、と中田は指摘する。ここに双方の間に立ち、バランスを取ることのできるアドバイザリーボードの出番がある。
そのアドバイザリーボードを担う人物も多様だ。中田の他に音楽プロデューサーの藤原ヒロシやクリエイティブディレクターの佐藤可士和、中川政七商店の代表である中川淳らが選出されている。各分野の専門家であるアドバイザリーボードのメンバーが工芸家とコラボレーターを選定し、チームを結成する。

例えば、陶磁器作家・新里明士(工芸家)、現代美術家・宮島達夫(コラボレーター)、音楽プロデューサー・藤原ヒロシ(アドバイザリーボード)による作品「光器」(2010)がある。成形した器に透かし彫りを施し、その穴を半透明の釉薬で埋める蛍手(ほたるで)という技術で制作を行う新里の作品にデジタルとリンクする感覚を覚えた藤原が、デジタルカウンターの作品で知られる宮島をコラボレーターに選出した。
作品を見ると、白磁の器に浮かび上がるデジタルカウンターの数字があまりに柔らかく光ることに目が奪われる。「光器」のデジタルカウンターは安らぐように美しい。
茶筅師・谷村丹後、デザインエンジニア・田川欣哉、アートディレクター・佐藤可士和による作品《TakeFino》(2013)。流れるように美しい字体、近寄って観てみると実は竹で形づくられていることに気付く。
お茶を点てる時に用いる茶筅をつくる過程に必要とされる「味削り」という技法と田川欣哉がデザインしたオリジナルフォント「TakeFino」が合わさって生まれた「竹の詩」は、エレガントの一言に尽きる。日本人にとって太古から馴染み深い「竹」という素朴な素材が、工芸家のもつ研ぎ澄まされた技術とコラボレーターの発想によって新たな表情を見た瞬間だ。
日本工芸における後継者不足をどう乗り越えるかという課題
日本の伝統工芸は全国的に後継者不足が深刻である。本展覧会の図録の巻頭インタビューで美術史学者、青柳正規も「工芸がきちんと継承されるという意味においては、今が最後のときだと私は感じています。というのも、作家はこの先も出てくるだろうけれども、材料や工具の生産者がどんどん厳しい状況に追い込まれているからです」 と指摘しているように、これまでの伝統的な枠組みのなかでの発展は厳しいのが現状だ。

滑らかな革に施された型紙による転写および刻印。工芸が羨望の対象となるような、ラグジュアリーな価値観を併せもった作品
しかし、工芸を新たな形に落とし込むことができれば、その「技術」と「精神」は継承することができるのではないだろうか? その可能性を特に感じたのが「型紙」エリアの展示。
型紙とは小紋や浴衣などの柄のもととなる工芸用具を指す。自転車のサドルやホイール、サドルバッグに至るまで型紙によって模様が転写・刻印されている起正明による《風雲波輪》(2014)。インダストリアルデザイナー・新立明夫とプロデューサー・白洲信哉がチームを組むことで、染物の道具のひとつである型紙が「動く型紙」としてラグジュアリーな存在感を放っている。
型紙エリアで幽玄な美しさを放っていたのが《風雲波輪》(2014)。型紙自体を貼りつけて照明にしているのだが、直径100cmもあるサイズに合わせて伝統工芸士・兼子吉生が新たに型紙を彫っている。このサイズは一般的な住居には大きいかもしれないが、空間に吊るされている姿を想像してみると、シンプルでモダンな家具ともすんなり馴染みそうだ。
妹島氏と長谷川氏が型紙を選定した。幻想的なモチーフは伝統的でありつつも、モダンに映る
工芸のもつ「その土地らしさ」を再編集し、未来へ繋げていく。
本展覧会でのユニークで強固なチームから生まれた作品を目の当たりにすると、まず伝統的な日本工芸の高度で繊細な技術に驚き感動するだろう。中田は日本工芸が根付いているその土地に出向き、時には自らものづくりを体験することでその魅力を味わってきた。
制作に必要な環境や作品づくりに最も適した素材の調達を条件とする特性上、工芸はそれぞれの地域の風土に根ざしている。それは都会との距離感も相まって、現代的な生活様式との乖離にも繋がっているように思う。工芸家が備えた技術とその伝統的な美しさは混じり気のない日本文化だが、新しいアイディアを吹き込み続けなければいずれ過去のものになってしまうだろう。私たちの文化に根付く工芸は、長い歴史のなかで少しずつ変化を重ねながら生きながらえてきた柔軟な強さを持ち合わせている。
日本工芸に興味を持つ人が増え、実際に地方に足を運ぶ人や本展覧会のように刺激的なチームが各工芸分野で発生していくことで、つぎつぎに開かれる表現力の引き出しが工芸の未来を変えていくにちがいない。
展覧会招待券を5組10名様にプレゼント!
「REVALUE NIPPON PROJECT」展の招待券を、抽選で5組10名様にプレゼントいたします。ご希望の方は、お名前・メールアドレス・ご住所・「bitecho」の感想を記入のうえ、件名を【bitecho 「REVALUE NIPPON PROJECT」展プレゼント】とし、bitecho@bijutsu.pressまでメールをお送りください。応募締切は2016年4月24日。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
会場:パナソニック汐留ミュージアム
住所:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
お問い合わせ:03-5777-8600 [ハローダイヤル]
開館時間:10:00~18:00 (ご入館は17:30まで)
休館日:水 (ただし5月4日は開館)
入館料:一般 1,000円 / 大学生 700円 / 中高学生 500円
URL:http://panasonic.co.jp/es/museum/
http://nakata.net/rnp/ (REVALUE JAPAN NIPPON 公式ウェブサイト)