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期待のアーティストに聞く! 大田黒衣美が見つめる素材と身体性

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1980年生まれの大田黒衣美(おおたぐろ・えみ)は、チューインガムに加工を施した平面作品や、絵具に代わりに石膏を用いたドローイングなどの作品を制作してきた。KAYOKOYUKI(東京・駒込)にて開催中の個展「channel」では、チューインガムのシリーズを写真として展開した新作を中心に発表。さまざまな素材を用い、ときには大量生産品を作品へと転化させてきた大田黒に、作品について聞いた。

海を隔てた対岸の奥にあるイメージ

 木のそばで横たわる人、あぐらをかく人、または無造作な身体の一部。大田黒衣美が制作するシリーズ作品「sun bath」は、くつろぐ人々の姿をチューインガムでかたどり、微かな表情を切り込みが見せる平面作品だ。

「ガムは栄養を得るものでも飲み込むものでもない、ただリラックスするために食べる、人間ならではの嗜好品だと思いました」。しかし、その表面はしだいに褪色し、切り込みは失われる。はかなく変容する様は人間の肉体そのものを示唆する。KAYOKOYUKIにて4月23日より開催される個展「channel」では本シリーズの新たな展開として、写真を中心としたインスタレーションを展示する。

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大田黒衣美 sun bath 2016
Courtesy of the artist and KAYOKOYUKI

 作家はこれまで、絵具の代わりに石膏を用いたドローイングや、ウズラの卵の殻を用いた平面作品などを制作してきた。石膏、殻、ガム、そのすべてに当てはまるものは、絵具のなめらかさとは対をなす、粗く厚い質感だ。大田黒はそうした素材のほうが、より「自分の描きたいイメージを出しやすい」と話す。そして、そのイメージの在りかは個展タイトルの「channel(海峡)」で示されている。「制作時は、水面の様子を刻々と変える海の向こうにある島の、さらに奥を眺めているような感覚。人間の内なる動物性は、そのくらい遠い場所にあるのかもしれません」。

 素材の状態変化によって本来の姿から遠のいていくと同時に、じょじょに前景化する「sun bath」の身体性は、そのような遠い場所から、時間をかけてもたらされているようにも見える。「あくびやくしゃみといった意志で制御できない反応は、隠された動物性の一端だと思う。そんなふうに、一見すると普通だけど、割り切れない可笑しさを作品を通して見せたいです」。

文=野路千晶
『美術手帖』2016年5月号「ART NAVI」より)

大田黒衣美「channel」
会期:2016年4月23日~5月29日(会期延長のため、6月5日まで)
会場:KAYOKOYUKI
住所:東京都豊島区駒込2-14-2
電話番号:03-6873-6306
開館時間:12:00~19:00(日〜17:00)
休館日:月、火、祝、5月2日〜8日

ヒュー・スコット=ダグラスがブーケをテーマに栃木県美で個展

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ヒュー・スコット=ダグラスは1988年にイギリスで生まれ、現在ニューヨークを拠点に活動している若手アーティスト。日本の美術館では初となる個展「ヒュー・スコット=ダグラス展」が、栃木県立美術館(宇都宮)で6月19日まで開催されている。本展では「ブーケ」をテーマにした新作シリーズを発表している。

 イメージや素材を巧みに利用して新しい価値の創造を試みる作品をこれまでに制作してきたヒュー・スコット=ダグラス。ニューヨーク在住の新進アーティストとして欧米のアートシーンから注目を集めている。

 今回の展覧会では「ブーケ」をテーマにした、35mmスライド・プロジェクターの作品やダネージバックでブーケを構成した立体作品、写真撮影に使われる照明パネルを用いた大型写真の作品《ボケ》を展示。3つの異なる作品シリーズによって、ブーケの形状と象徴的な意味合いを再現している。

 「ブーケ」とは、根から茎へとつながる線形モデルであり、また個々の要素が束ねられることによって部分が全体に統合される形状を表している。また本展では、社会経済をつかさどる複雑なネットワークのシンボルとして機能している。

 2014年にはアジア初となる個展「A Broken Mule」がカイカイキキギャラリー(東京・元麻布)で開催され、今回が満を持しての美術館での初個展となった。なお、スコット=ダグラスは開催直前まで予定されていた展示プランを急遽変更し、現在では事前に配布されているフライヤーの情報とはまったく異なる展覧会となっている。会場に足を運んで実際の展覧会をぜひ確かめてみてほしい。

ヒュー・スコット=ダグラス展
会期:2016年4月16日~6月19日
会場:栃木県立美術館
住所:栃木県宇都宮市桜4-2-7
電話番号:028-621-3566
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月休
入館料:一般 800円/大高生 500円/中学生以下 無料
※6月11日、12日、15日(栃木県の日)は入場料無料
URL:http://www.art.pref.tochigi.lg.jp/exhibition/t160416/index.html

究極の静物画を描く ナティー・ウタリット個展がメグミオギタで

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タイのバンコク出身のアーティスト、ナティー・ウタリットの個展「Optimism is Ridiculous」がMEGUMI OGITA GALLERY(東京・銀座)で5月8日から開催される。日本初個展となる本展は、動物が描かれた静物画5点を披露。また、アメリカNY在住のサディー・レベッカ・スターン新作絵画展「GREEKING 文字化け」もメグミオギタギャラリー プロジェクトルームにて同時開催される。

 ナティー・ウタリットは1970年にタイのバンコクで生まれ、1992年にシラパコーン大学を卒業、現在もバンコクを拠点に活動している。初期の頃は、ドイツ表現主義と抽象画の影響を強く受けており、ペインティングにおいて写実的な表現と伝統的な西洋絵画の融合を試みてきた。

 代表的な静物画のシリーズ「Illustration of The Crisis」では、人間のエゴや感情のメタファーである動物のモチーフに加え、ハサミやスプーンといった日常生活品とともに、ブッダの頭部やプラスチックでできた軍隊のフィギュアなどを描き、タイにおける政治的な動乱、急激な経済発展、そして文化的変革をオブジェクトに投影した。

 本展では、前述のシリーズと同様に動物を題材にした「究極の静物画」とも言える5点を発表。近世ヨーロッパの様式をなぞらえつつ、現代のアジアの価値観で描く円熟したスタイルが体現されている。

 ウタリットは、シンガポール美術館やクイーンズランド美術館(オーストラリア)に作品がコレクションされ、国際的な注目を集めている。日本でも2014年に東京都現代美術館で開催されたグループ展「他人の時間」に参加した。

 また、同ギャラリーのプロジェクトルームでは、1985年アメリカのノースカロライナ出身で現在ニューヨーク在住の女性アーティスト、サディー・レベッカ・スターンの新作絵画展「GREEKING 文字化け」が5月28日まで同時開催される。ニューヨーク近代美術館のローマ彫刻をモチーフにギリシャ神話から日本神話に与えた影響をテーマにした油彩画と、フランスの現代思想家、ロラン・バルトの「punctum(プンクトゥム)」からアイデアを得た樹脂作品を展示。会期中にはアーティストの来日も予定されている。

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サディー・レベッカ・スターン 無題 2015 パネルに油彩 20.3x20.3cm
Optimism is Ridiculous
会期:2016年5月8日~6月4日
会場:MEGUMI OGITA GALLERY
住所:東京都中央区銀座2-16-12 銀座大塚ビルB1
電話番号:03-3248-3405
開館時間:11:00~19:00
休館日:日、月、祝
URL:http://megumiogita.com


サディー・レベッカ・スターン 新作絵画展「GREEKING 文字化け」
会期:2016年5月10日~5月28日
会場:MEGUMI OGITA GALLERY プロジェクトルーム

モノと身体、世界のはざまで ナイル・ケティング インタビュー

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「センシング(感覚、感知)」をテーマに、映像、パフォーマンス、インスタレーション、サウンド・アートなど、多様な表現形態の作品を発表している若手アーティスト、ナイル・ケティング。森美術館(東京・六本木)での「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」にも参加し、注目を集めている。同時に開催中の個展「ホイッスラー」の会場である山本現代(東京・白金高輪)にてインタビューを行い、2つの展示や自身の活動について話を聞いた。

──現在、山本現代での個展「ホイッスラー」と、森美術館(東京・六本木)で開催中の「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」において、連動するテーマで作品を展示されています。まずは、この2つの展覧会について聞かせてください。

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山本現代での展示風景。右端がヘンリー・モレーの「モレーコンバーター」を再現した作品 © Nile Koetting Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

 2つの展示の共通のキーワードは「エネルギー」です。普段からさまざまな場面で目にする言葉ですが、まつわるイメージは人間の解釈や想像によってつくられたもののように思えます。それから、私たちがサプリメントや栄養ドリンクでチャージしようとする「エネルギー」と、電気や資源にまつわる「エネルギー問題」の「エネルギー」は、似ているようで違う。なじみ深い言葉ですが、実はとても曖昧な概念なんです。そういった疑問をきっかけに、特定のイデオロギーやその賛否を主張するのではなく、「エネルギーとはどういったものなのか」「どう私たちと関わっているのか」という問題について、考える契機となるような展示を目指しました。

 ここでの私の最終的なクエスチョンは、地球や環境と人間との関係性。例えば、かつて原子力発電所の事故が起こったチェルノブイリはいま、放射性環境耐性のある植物や生物が生息する、とても美しい場所になっています。私の活動の根底には、「そもそも私たちはどこにいるべき存在なのか」「地球は私たちに適応しているのか」という疑問があるんです。

 山本現代で開催されている「ホイッスラー」展の軸となっているのは、1920〜30年代の科学者、ヘンリー・モレー(Henry Moray 1892-1974)のストーリーです。モレーは「フリーエナジー」の思想に影響を受け、宇宙空間に漂うエネルギーを電気に変換し、集めるための機械「モレーコンバーター」を発明した人。電気を無償にするというアイデアを持っていたために、政治的な理由で身を隠していたし、機械は最終的になぜか共同開発者によって破壊されてしまい、その仕組みは謎に包まれている。彼のストーリーは、科学だけでなく、ファンタジーや政治など、多くの要素を含みます。

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開催中の2つの展示では、液晶画面に使われるリキッドクリスタルを用いたシリーズを展開。「昔、光は神だった。それを考えると、至るところに液晶画面がある現代は、至るところに神様がいる時代であるともいえます」 © Nile Koetting Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

「ホイッスラー」展では、モレーにまつわる資料から発想した作品群を軸に、バイオエネルギーと関わりをもつコーンなどのオブジェクト、液晶画面に使われるリキッドクリスタルを用いた作品などが配置されています。そして、それらすべてのスカルプチャーをつなぐのが、会場内に流れる地球の超低周波。この展示空間自体が、「地球のエネルギーを聞く部屋」でもあるんです。

 災害や、不安な世界の情勢のなかで以前に比べて多くのアーティストやクリエーター、メディアがダイレクトに政治的なメッセージを表現するようになってきていると感じます。しかし、そういった活動は、表面的なパフォーマンスで終わってしまう危険性もある。そのなかで私は、問題自体にダイブし、そのなかで「プレイ」する手段を探したいと思っています。

──森美術館で展示されているインスタレーション《マグニチュード》でも、19世紀末の科学者であるエジソンなどがモチーフとなっています。人間の知覚や現代社会のさまざまな要素に言及しつつ、過去のもの・歴史的なものに注目しているのはなぜなのでしょうか。

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「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」での展示風景。科学者などをモチーフとしながら、個人の物語自体に価値を求めるのではなく「歴史を発泡スチロールのような『軽い』オブジェクトとしてとらえている」という
撮影=永禮賢 写真提供=森美術館

 電気をはじめ、新しい技術やものが発明されて間もない時期には、未知のものと人間との関わり方を探っている状態があります。そこに、私が関心を持っている、マテリアリティ(物質性)の問題をひもとくヒントが隠されている気がして。

 さらに過去のものは、アーカイブされているという点で共有可能なものです。そういった意味で客観的なオブジェクトとして扱うことができるし、私たちがそれと呼応して、違う環境を生み出す手段になり得るはずです。軽快な見方で自由に歴史を扱うことで、現在や未来の社会環境との関係性を見出すことができると思っています。

──人間の知覚では感知できないものを作品としてビジュアル化しているのも、ナイルさんの作品に特徴的な点のように思います。

 ずっと、私がいま生きている「現実」と、自分の「リアリティ」は違うと感じてきました。知覚できないものや不確かな存在のものをかたちづけていくことで、誰も定義していない新たなリアリティを生み出し、他の人と共有できるのではないかという気持ちがあります。

 このような方向性は、2012年にベルリンに移住し、バックグラウンドを含め「自分」について考えるなかで生まれてきたものです。自分が抱えているのは、ジェンダーや身体といった要素ではなく、「私」という「モノ」に対しての疑問なのではないかと思い至った頃、イタリアの哲学者マリオ・ペルニオーラの『無機的なもののセックス・アピール』(平凡社)に書かれていた、「人間を感覚するモノとしてとらえる」という考え方にすごく共感して。自分が感じ取っていたことが、西洋哲学の世界で理論として成立していることに感動しました。それから、もしかしたら見えない存在をモノとしてとらえるためのアプローチが、リアリティを再構築する手段になるのかもしれないと考えるようになったんです。

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「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」に出品されている《マグニチュード》では、エネルギーや電力についてのリサーチをもとに、映像作品やオブジェクトを配し、近代科学の歴史と神話や宗教のイメージを結びつける
撮影=永禮賢 写真提供=森美術館

──現在はベルリンに在住されているというお話がありましたが、1989年に鎌倉で生まれ、逗子で育ったそうですね。どういった子ども時代を過ごされ、どのようにしてアートの道に進んだのでしょうか。

 本当に大変な子どもでしたね......。いわゆるハイパーアクティブの傾向があり、学校では問題児。いま考えると、自分の中に制御しきれないエネルギーがあって、それとどう関わっていけばいいのかがわからなかったんだと思います。親も私に何をさせたらいいのか思い悩んだようで、いろいろな習い事をさせてくれたのですが、結局全部ダメ。私にとって、子ども時代は暗〜いものだし、記憶もあまりないんです。先が見えないジャングルの中で迷っているような感覚でした。

 アートに興味を持ったのは、小学校6年生のとき。たまたま親と一緒に「横浜トリエンナーレ2001」を見に行って「あ、こういう世界があって、こういうことをしてもいいんだ」と、動物的な感覚で直感しました。それから、「アート」を知るためにたくさんの展覧会に足を運びました。

 そうして、多摩美術大学に進学したのですが、周りに美術館や舞台にあまり興味のない人が多く、同級生や先生と話が合わなくて。学校が楽しいと思えず、あまり行かなくなってしまったんです。そんな私を見かねて、当時、多摩美の助手だった秋山さやかさんが勧めてくれた、フィンランドのアールト大学に留学したのが転機となりました。

 フィンランドでは、大学と同時期にシベリウス音楽院の音楽テクノロジー学部にも通い、サウンド・アートを勉強しました。そこが本当に面白いところで。ただでさえ人口が少ないまちで、サウンド・アートを学ぶ人なんて本当に少なくて、生徒は私を含めて3人。いちばん最初の授業は、1時間窓を全開にしてみんなで外の音を聞き続け、どう思ったかを話し合うというものでした。私は、解を与えたり、答えを探すのではなく、体感すること、迷うこと、発見すること、そのときのリアリティで判断することを大事にして制作していますが、そういった部分には、シベリウス音楽院での経験が反映されているように思いますね。

──サウンド・アートのほか、パフォーマンス作品も手がけられています。自分の身体を使ってパフォーマンスを行うことについては、どのように考えられているのでしょうか。

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ナイル・ケティング パフォーマンス「First, Class」 3HD Festival、HAU2、ベルリン © Nile Koetting
Photo: Catalina Fernandez / Eva Pedroza Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

 パフォーマンスを始めたのは2011年、ドイツ旅行中にたまたま参加したコンスタンツァマクラス & ドーキー・パークのワークショップで、ダンサーとして誘ってもらったのがきっかけです。偶然の巡り合わせだったのですが、ダンスやパフォーマンスを始めてみたら、本当にいろいろな発見がありました。

 ステージ上で動いていると、自分が「アライブ!」と感じる瞬間があるし、疲れたときには水や食べ物を欲するというように、身体はものすごく高度にプログラムされていることも実感する。さらに、自分が「生きている」と感じる瞬間って、演出家からの指示など、何かしらそう感覚するための道筋が引かれているんです。それに気付いたときに、身体ってなんて人工的で、なんて自然なものなんだろうと気づきました。

 そこからおのずと、こういった感覚をかたちにするにはどういう方法があるのか考えるようになりました。インスタレーションは自分たちと異なる存在としての「無機的なもの」に肉付けする作品が中心だったので、パフォーマンスでは逆に、私たちが肉付けされていると思っているものをモノ化するような作品をつくり始めました。ある意味、ペルニオーラの「身体とモノを水平にとらえる」という考え方にも通じますよね。ひとつのシーンや世界、生態系にアプローチするために、身体を装置・オペレーターとして扱う。私のパフォーマンス作品は、「モノ」なんです。

──最後に、今後扱っていきたいテーマについて聞かせてください。

 いま興味があるテーマは、今回の個展で使っているUVプロテクトの素材やヘルメットなどのオブジェクトから派生した、「防御」や「防衛」の概念です。ミシェル・セールの『世界戦争』(法政大学出版局)を読み、「人類と世界の戦争」における防御やシェルターとは、どういったかたちをとるのだろうかと考えていました。同時に、タコとかイカ、カメレオンのように「自分を環境に同化するよう変化させて隠れる」という防御もありますよね。世界に溶け込んで「私」が見えなくなることは、人間にとっても防御でありうるのか......。こういった様々な切り口で、「防御」の概念とマテリアリティやパフォーマティビティにアプローチしたいと考えたりしています。

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山本現代の入り口に配置されているのは、地球の滅亡などのカタストロフを描いた映画のDVDとポップコーン。「災害や危機的状況をエンターテイメント化して消費する、消費社会のメタファーとしてのシネコンを表現しています」 © Nile KOETTING Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

 それから、「資本主義」もずっと関心を持っているテーマのひとつです。作品の制作のきっかけとなる要素はスタジオよりもむしろ、消費社会の現場や株式市場、研究所などにたくさんあるように思います。例えば、美容のためのビタミン剤、感覚や神経に働きかけるリラクゼーションオイルなど、身体に直接的に作用するものが経済システムのなかで商品として扱われていることに、とても興味をひかれます。だから、テレビ番組よりもコマーシャルやテレフォンショッピング、映画よりも予告編が好きなんです(笑)。

 私は、アートワールドの中で特定の立場をとるものではなくて、世界の中で自足できる何かをつくりたいと思っています。作品そのものがエコロジーを持っていて、自分で生きていられる作品をつくりたい。手法や方法論は、「fail(失敗)」して自分ができないことを確認するためにある、発見の手段だととらえています。目指すのは、人に向けてつくるものや人の手に渡るものというよりも、外界に対して何かを伝えたり、つながることができる作品。そういうものは、最終的には人間にもきちんと届くと思うんです。近代以前には、届ける対象は神様だった。宗教が科学に置き換わった現代に、科学を題材としているのは、そういうことなのかもしれないですね。

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Photo by Anna Reutinger © Nile Koetting Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

PROFILE
ナイル・ケティング 1989年神奈川県出身。2012年多摩美術大学卒業。在学中にフィンランドのアールト大学に留学し、メディア、サウンドアート、 パフォーマンスを学ぶ。主な個展に「Hard In Organics」(山本現代、2015)、アートフェア東京での「ESSE」(東京国際フォーラム、2014)など。パフォーマンス作品やキュレーションも手掛けるほか、コンスタンツァ・マクラス&ドーキー・パークなどのダンス、シアターカンパニーにパフォーマーとして参加。ZKM(ドイツ)で開催中の「GLOBAL-New Sensorium: Exiting from Failures of Modernization」にも出品している。現在はベルリンを拠点に活動。

ナイル・ケティング展 「ホイッスラー」
会期:2016年4月16日~5月14日
会場:山本現代
住所:東京都港区白金3-1-15-3F
電話番号:03-6383-0626
開館時間:11:00~19:00
休館日:日、月、祝
入館料:無料
URL:http://www.yamamotogendai.org/japanese/exhibitions


六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声
会期:2016年3月26日〜7月10日
場所:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:月・水〜日 10:00〜22:00/火 10:00〜17:00(いずれも最終入館時間は閉館の30分前まで)
入館料:一般 1800円 / 高校・大学生 1200円 / 子供 600円 / 65歳以上 1500円
休館日:会期中無休
URL:http://www.mori.art.museum/

聞き手=編集部、構成=近江ひかり

生誕300周年を記念した伊藤若冲の大回顧展が都美で開催中

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京都生まれの天才画家、伊藤若冲。現代では日本美術に欠かせない存在として名をとどろかせているが、その魅力はまだ汲み尽くされていない。東京都美術館(上野)では現在、生誕300年記念「若冲展」が5月24日まで開催されている。本展は代表作を一挙に鑑賞することのできる、またとない機会だ。

 人気とともに、近年ますます注目が集まる江戸時代の画家、伊藤若冲。今回の大回顧展では初期から晩年までの代表作89作品が一堂に会し、とりわけ同時展示は東京では初となる大作「釈迦三尊像」3幅と「動植綵絵(どうしょくさいえ)」30幅は見どころの一つとなっている。

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伊藤若冲 動植綵絵 梅花群鶴図 明和2(1765)以前 絹本着色 1幅 宮内庁三の丸尚蔵館

 若冲の鮮やかな写実の世界は、独学の絵画技法によって生み出されている。青物問屋の町人階級に生まれた若冲は30歳過ぎから狩野派に絵を学び、のちに中国の名画を模写したり数十羽の鶏を飼って写生し続けたりと独学で自由な絵画技法をつくり上げていった。いくつものマス目で描く構図の取り方や当時珍しい人工の青色プルシアンブルーを使う色彩のこだわりは、現在でも色あせない画面に定着されて見る者を驚かせている。

 さまざまな技術が駆使された作品から感じられるのは、敬虔な仏教徒でもあった若冲の「生きとし生けるものへの愛」だ。また若冲は生前に「千載具眼の徒を竢つ(自分の作品を理解する人が現れるまで1000年待つ)」と言い残している。

 若冲が1000年先まで伝えたかったものは何か? 本展で「釈迦三尊像」と「動植綵絵」の全33幅がぐるりと並べられた会場で若冲の描いた世界に浸りながら、そのメッセージを確かめてみてほしい。

生誕300年記念 「若冲展」
会期:2016年4月22日~5月24日
会場:東京都美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園8-36
電話番号:03-3777-8600
開館時間:9:30~17:30
特別展休室日:5月9日
入館料:一般 1600円 /大学生・専門学校生 1300円/高校生 800円 65歳以上 1000円

 2016年4月16日発売の『美術手帖』2016年5月号では、「伊藤若冲」を特集。さまざまな角度から若冲の実像に迫りつつ、紙面1.6メートルでたどる「若冲画年譜」では、若冲の画業を一望の下に見ることができます。

山本富章の個展が豊田市で開催中 「ドット」の魅力とは?

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1980年代以降、国内外の展覧会で活躍し続けている画家、山本富章(やまもと・とみあき)。豊田市美術館(愛知・豊田)で開催中の個展では、作家の主要なモチーフである「ドット(色斑/粒)」を用いた新作が展示されている。新作、旧作を織り交ぜた構成で、「ドット」の魅力にせまる。

 これまでに強烈な色彩と大きなスケールの作品を発表し、国内外で高い評価を得ている1949年生まれの山本富章。初期の頃より愛知を拠点に活動し、現在は豊田市西中山町の昭和の森近郊にアトリエを構える。今回、長年追求してきた「ドット」を用いた新作2点を含む作品を展示する。

 会場の吹き抜けのアトリウムにある、高さ10m、横20mのガラス面に約1万4000 個の《bugs》を整然と配置し展示空間を活かした新作は、圧倒的な存在感を放っている。もう一方の新作では、立ち枯れの切株を鉛筆で写し取ったフロッタージュ作品で、自然の中に「ドット」を見出した。

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山本富章 bugs on glass wall(豊田市美術館アトリウムガラス壁のためのプラン) 2016 写真、コラージュ

 本展は新作のみならず、「ドット」の発生が見られる70年代末から80年代にかけての初期コラージュも展示。とりわけ高さ 4.1m、横13mの超巨大絵画《Festival on the Stage》(1989)は、1990年に幕張メッセで開催された「ファルマコン'90」に出展され、壮大なスケールの山本作品を体感することができるだろう。

 また、2016年10月15日〜12月4日まで愛知県碧南市藤井達吉美術館にて、本展とは別内容の個展「山本富章ー創造の原点から色斑空間へー」の開催が予定されている。本展とともに、山本のゆかりの地である愛知の展覧会を併せて楽しみたい。

山本富章|斑粒・ドット・拍動
会期:2016年4月16日〜6月26日
会場:豊田市美術館2F展示室1、アトリウム(吹き抜け)
住所:愛知県豊田市小坂本町 8−5−1
電話番号:0565-34-6610
開館時間:10:00〜17:30(入場は17時まで)※5月13日、20日、27日及び6月中の金曜日は20:00まで開館(入場は19:30まで)
休館日:月休
入館料:一般 300円 / 大高生 200円 / 中学生以下無料※市内在住及び在学の高校生。障がい者、市内75歳以上は無料(要証明)
URL:http://www.museum.toyota.aichi.jp

【関連イベント】
アーティストトーク
日時:2016年4月30日 14:00〜15:00

ダンス・パフォーマンス「黒沢美香×太田 惠 資」
日時:2016年 6月19日
※詳細は豊田市美術館HPをご参照ください。

ワークショップ「ジャンボクレヨンで影を描こう」
日時:2016年6月11日 14:00〜16:30(申込締切 5月18日)
講師:山本富章
対象:小学生〜大人
※詳細は豊田市美術館HPをご参照ください。

学芸員によるギャラリートーク
日時:2016年5月5日、6月5日 14:00〜15:00

『祖父江慎+コズフィッシュ』ついに刊行! 祖父江慎に聞く

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手に取った人々をあっと驚かせる本を生み出してきた、祖父江慎(そぶえ・しん)。近年では、展覧会のグラフィックやアートディレクターも務めている。11年ごしという作品集がついに刊行になった祖父江に、ブックデザインに対する思いをインタビューで語ってもらった。

祖父江慎のブックデザインの核心は、一冊ごとの個性を引き出す「助産婦」魂

「昔は文章をスラスラ読めない子でした。明朝体はオバケの呪いがかかったような形に見えて怖かったし、ほかにも色んなことが気になって1行ごとに立ち止まっちゃう。ダリの画集を写真と勘違いして"こんな国あるの!?" と震えたことも(笑)」。

 破天荒なブックデザイナーの意外な少年時代。だが祖父江慎が「本という妖しフシギな存在」の魅力を一冊ごとに最大限引き出す原点は、そうした繊細すぎた感受性にこそあり? 小説が苦手だった学生時代、「ポケットに入るよう文庫本の余白をカットして持ち歩いたり、手書きの豆本をつくったりしてなんとか読もうとした」のも興味深い。

 自分たちの仕事を35年ぶんまとめた大著『祖父江慎+コズフィッシュ』には、本を読む・見る楽しさの可能性が詰め込まれた。不条理ギャグマンガ『伝染るんです。』(吉田戦車)の単行本に乱丁や誤植と見まごう要素を確信犯的に盛り込み、ミステリー小説『ユージニア』(恩田陸)では本文を斜めに1度だけ傾け、読むほどにつのる不安を陰で演出。貴重な設計資料や本人のコメントからは、これらが単に奇抜さ狙いでなく、本の個性を引き出すため、書体や組版から製版・製本技術まで考え抜いた産物なのがわかる。

「著者や作者が違えば本も一冊ずつ違うのは本来フツーなことのはず。本は装幀やレイアウトだけでなく、匂いや柔らかさ、重さなど色んな要素でできている。だから、著者や編集者になるべく話を聞きながら相談します」。

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『祖父江慎+コズフィッシュ』より。『伝染るんです。①』(吉田戦車著、小学館)の中ページとカバー
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『祖父江慎+コズフィッシュ』より。小説『ユージニア』(恩田陸著、角川書店)の本文組設定のための祖父江による指示書(部分)

 そんな自分の仕事を助産婦や巫女にたとえる一方、「本は原稿が揃っただけでは世に出ない」の一言にはつくり手の矜持も。「頑張った割に、読む人には気づかれないんだけどね、クフフ」と笑う祖父江たちの無茶と戦いの記録でもある同書は、世の常識もまた人がつくり上げたものに過ぎないことを教えてくれる。

 同書の主対象となる2005年までの仕事以降も、挑戦は続く。《明日の神話》を 巨大な両観音開きで収めた『岡本太郎爆発大全』、カバーがポスターに変身する畠山直哉の『BLAST』、自らの漱石本研究を活かした『心』新装版。近年は梅佳代、岡崎京子、ミッフィーなどの展覧会空間デザインでも活躍する。

 「紙に字や絵を載せて重ねた(だけの)モノ」である本が、なぜ人々を魅了し続けるのか? 答えは鬼才にとってもいまだ謎だというが、構想11年、遂に祖父江自らの手で「取り上げられた」本書を繰りつつそのことを考えたい。

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『祖父江慎+コズフィッシュ』の表紙

内田伸一=文
(『美術手帖』2016年5月号「AUTHOR」より)

『祖父江慎+コズフィッシュ』
祖父江慎=著
パイインターナショナル|8800円+税
「コミックス」「飲み物」「ビジュアル」「コズフィッシュ以前」の4カテゴリーで主要な仕事を一挙掲載。祖父江による解説や造本設定書、2016年現在までの全仕事を網羅した巻末ブックリストも。1〜3月に日比谷文学館で開催の「ブックデザイ」展で先行販売を行い、即日完売となった。全412頁。

伝統美とアートを体感し未来を想う ツアーイベントを金沢で開催

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北陸新幹線の開業で、さらに観光地としての人気を集める金沢で、「体感! 金沢の旅」をテーマに、金沢の伝統美と現代美術を巡るツアーが開催される。加賀藩の時代から、加賀友禅や金箔工芸などの豊かな伝統工芸を育み、2004年にオープンした金沢21世紀美術館を中心に現代美術の振興に力を入れる金沢で、これからの金沢と日本のアートについて語り合えるイベントだ。

 このツアーはまず、石川県立美術館からスタートする。学芸課長の解説で、同館がコレクションする加賀藩ゆかりの古美術や多くの重要無形文化財保持者(人間国宝)の手による伝統工芸品の数々を鑑賞。続いて、金沢21世紀美術館でも学芸員の解説を受けながら作品を鑑賞することができる。

 ハイライトは江戸末期に加賀藩12代藩主の前田斉泰により建築され、金沢21世紀美術館の敷地内に移築された松涛庵での茶話会だ。茶話会には秋元雄史金沢21世紀美術館長が同席する。

 金沢の工芸や芸術を、時代を超えて考察できる1日になりそうだ。この夏、金沢旅行を計画しているアートファンには、早めの問い合わせをおすすめしたい。

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金沢21世紀美術館外観
「体感! 金沢の旅」金沢の伝統美と現代アートを巡る
会期:2016年7月9日
会場:石川県立美術館、金沢21世紀美術館
電話番号:076-232-5555
定員:20名
参加費:5000円
問い合わせ・申込は下記ホームページをご覧ください
URL:http://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/

京都だからできる写真祭を KYOTOGRAHIE開催中

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4月23日からKYOTOGRAHIE開催されている。KYOTOGRAHIEは写真の芸術的な可能性を伝えることを目的とした、まちなかの各所で展覧会を同時開催するイベントで、その展示手法にも定評がある。京都ならではの赴きある建築空間に作品を配すことで、スペクタクルな空間体験とともに写真表現に親しめるのが魅力だ。

 4年目を迎えるKYOTOGRAHIEは、京都市内15の会場でメインプログラムを展開している。京都市美術館や、春にリニューアルオープンしたばかりのロームシアター京都に加え、かつて呉服卸商が営まれていた京町野・長江家住宅や普段は非公開の誉田屋源兵衛 黒蔵も会場となる。

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古賀絵里子作品の展示会場、京都市指定有形文化財 長江家住宅

古賀絵里子やサラ・ムーンの作品展示のほか、マグナム・フォトによる難民と移民を題材とするテーマ展示や、フランス国立科学研究センター名誉ディレクターであるクリスチャン・サルデが美しいプランクトンを撮影してきた作品に、高谷史郎がインスタレーション、坂本龍一がサウンドを手がけるコラボ展示も行われている。

今年はテーマを「Circle of Life いのちの環」とし、展示以外にも、トークやワークショップ、キッズプログラムに力を入れている。関連イベントの48の展覧会からなるサテライトイベントKG+や野外マルシェ「サスティナビレッジ」などもあわせると、かなりの充実度だ。

まち歩きがてら、展示を見るのもいいが、今年は各種イベントと併せて訪れてみてほしい。

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2016
会期:2016年4月23日〜5月22日
会場:虎屋 京都ギャラリー、京都市美術館、ロームシアター京都ほか
開館時間:会場により異なる
休館日:会場により異なる
入館料:パスポート一般3200円、学生2000円ほか
URL:http://kyotographie.jp

キセイは規制である。 沢山遼が評する「キセイノセイキ」展

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日本の若手作家を紹介するシリーズ「MOTアニュアル」の14回目、「キセイノセイキ」展が、東京現代美術館(東京・清澄白河)で開催されている。アーティスト組織「ARTISTS' GUILD」との協働企画として実現された本展は、現代の表現と社会のあり方についての問題提起を目指すもの。複数の作品が展示見合わせ、または作家の意図とは異なるかたちでの展示となり、議論を呼んでいる。同展について美術批評家・沢山遼がレビューを寄せる。

「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」展
沢山遼=評

 今年のMOTアニュアルは、「ARTISTS' GUILD(アーティスツ・ギルド)」と担当キュレーターの協働企画として開催された。アーティスツ・ギルドは、アーティストによる、作家活動や環境の向上を目指す芸術支援システムである。すでに本展に先だって「生活者としてのアーティスト」と題したイベントが同館で実施されており、準備段階では、アーティストの労働環境や生活に焦点が当てられた企画が準備されていたと推測する。しかしその後、周知の「会田家」作品撤去・改変騒動が勃発し、同館の作家への規制や圧力が問題となった。そこで企画内容が急遽練り直され(自主)規制や検閲をテーマとした内容に変更されたのだと推測する(以上はあくまで推測である)。

 すでに話題になっているように、本展では、展覧会がオープンしたあとの現在も、複数の作品が過剰に検閲され、展示されていないか、部分的に改変されている。

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藤井光《爆撃の記録》(2016)の展示風景 撮影=椎木静寧

 この事態に関して、展覧会タイトルを「キセイノセイキ」としてしまったことは致命的な欠陥である。タイトルが事前に決定されたものである以上、彼らの作品が、自覚的にキセイ(規制)を取り上げるものであり、それをある程度まで見越したものであることは明らかである。その結果、相も変わらず作家に過剰な検閲をかける東京都現代美術館の異様な体質が改めて可視化されているわけだが、一方で、この検閲自体、事前に予告された、演劇的なインストラクションの体をなす。

 このことが、遡って会田家や鷹野隆大の作品改変問題と混同されることがあってはならない。会田家と鷹野にとって、規制や介入は予期せざる「事件」であり、それは作者の主権と作品の権利や欲望をともに損なうものだ。そこに一切の不透明性はない。だが本展においては、作者の主権と作品の欲望とが奇妙に乖離したまま放置されている。たとえば小泉明郎は、白い壁面に照明を当て、そこに《空気》という題名をつけ、空虚=無を展示した。小泉はこのような作品を展示すべきではない。なぜなら、規制の痕跡であり、展示室内のそこかしこにある無=不在の現前に対して「作品」と同等の超越性を与えてしまうことになるからだ。規制すら、作品のアレゴリカルな函数として構造化されるのである。その結果、今後起こりうる様々な規制や摩擦が、作者の意図とは裏腹に作品が密かに欲望するところのものであると見なされるようになってしまえば、それは結果的に作者の主権を著しく損なうことになるだろう。

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上下2点とも、小泉明郎作品の展示風景より。上が《空気》(2016)、下は《オーラル・ヒストリー》(2013-) 撮影=椎木静寧

 美術館に展示されれば、有用なものもただちに無用な鑑賞物と化し、あらゆる行為が作品化される現況にあって、展覧会に先立ちタイトルをキセイとしてしまったこと、さらには規制や検閲の痕跡である無・空虚と作品を記号的に連関させてしまったことは、明らかな戦略上の失態である(キセイという語にさまざまな読解可能性があると言ったところで手遅れである)。すべてが予期されたパフォーマンスになってしまうのであれば、いまやあらゆるものをフィクションとして呑み込む美術館の権能がかえって強化されるだけだ。そのことに、彼らはどれほど自覚的なのだろうか。

PROFILE
さわやま・りょう 美術批評。1982年生まれ。

『美術手帖』2016年5月号「REVIEWS 04」より)

MOTアニュアル2016  キセイノセイキ
会期:2016年3月5日~5月29日
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
電話番号:03-5777-8600 (ハローダイヤル)
開館時間:10:00~18:00
休館日:月休(5月2日、5月23日開館)
URL:http://www.mot-art-museum.jp/


日本の若手作家の潮流を紹介する目的で継続的に開催されている企画展の14回目。今回は芸術表現の環境の向上を目的とし、映像機器の共有システムを基軸に活動するアーティスト組織「ARTISTS' GUILD」との協働企画とし、テーマや構成からともにつくりあげた。小泉明郎、橋本聡、藤井光、ダン・ペルジョヴスキ、横田徹ら10組の作家が参加。出品作のなかには作家と主催者側との協議により展示見合わせ、あるいは作家の意図とは異なるものであると表示がされている作品がある。企画担当は同館学芸員の吉﨑和彦。

 2016年5月17日発売の『美術手帖』2016年6月号では、「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」展に寄せて行った企画者と参加作家による鼎談を掲載。「アートと自主規制」について、小泉明郎、増本泰斗、藤井光に話を聞いた。なお、出品不可となった当初の《空気》(2016)は、小泉明朗展「空気」(無人島プロダクション、4月29日〜5月15日)で展示された。

「悪ノリ」アート集団・じゃぽにかが宗教国家をテーマに個展開催

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「炎上アート」で話題を呼んだアート集団・じゃぽにかによる、宗教国家をテーマにした個展「じゃぽにか国真理教 〜TAVサティアン 僕たちを追い出さないで〜」が、TAV GALLERY(東京・阿佐ヶ谷)にて開催される。会期は5月14日〜29日。

 じゃぽにかは、有賀慎吾、坂上卓男、杉田陽平、鈴木大輔、永畑智大、村山悟郎らにより2002年に結成され、悪ふざけやパロディを含む作品やプロジェクトを展開してきたアート集団。2014年には、SNSにおける「炎上」をテーマに、コンビニを模して歴史的な美術作品をモチーフとした作品を展示し、メンバーがセンセーショナルな扮装でパフォーマンスを行う《悪ノリSNS『芸術は炎上だ!』》(2014)で、「第17回岡本太郎現代芸術賞」において特別賞を受賞した。

 一方、メンバー全員が1983年生まれの同級生で、美術予備校で知り合った「友達」であることに着目し、アート業界における「友達」に関する論考を発表。「炎上」についても、ネット上で「女子中学生の投稿」というかたちをとった本格的なテキスト「じゃぽにか論考Ⅱ ポストメディア時代の広告化するアート」(2014)を公開している。

 たんなる「悪ノリ」ではなく、軽いテンションを演出しながら、鋭い視点で現代社会に切り込む活動を繰り広げてきた、じゃぽにか。「宗教国家」をテーマとした本展では、架空の宗教団体をモチーフに社会とメディア、アートの関係性を再考し、「ネットを介した現実に迫る」新作を発表する。

じゃぽにか国真理教 〜TAVサティアン 僕たちを追い出さないで〜
会期:2016年5月14日~29日
会場:TAV GALLERY
住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷北1-31-2
電話番号:03-3330-6881
開館時間:11:00~20:00
休館日:木休
URL:http://tavgallery.com/


オープニング・パーティー
日時:2016年5月14日 17:00〜20:00
会場:TAV GALLERY

櫛野展正連載:アウトサイドの隣人たち ⑤時代を集めた男

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ヤンキー文化や死刑囚による絵画など、美術の「正史」から外れた表現活動を取り上げる展覧会をキュレーターとして扱ってきた櫛野展正。自身でもギャラリー兼イベントスペース「クシノテラス」を立ち上げ、「表現の根源に迫る」人間たちを紹介する活動を続けている。櫛野による連載企画「アウトサイドの隣人たち」第5回は、時代の面影を残した品々を蒐集し展示する、坂一敬(さか・かずたか)さんを紹介する。

 北海道の札幌市西区にある私設博物館「レトロスペース・坂会館」。ここには、昭和30年代、40年代のものを中心に、一升瓶のラベルやマッチ箱、オモチャなど数万点におよぶ昔懐かしの品が、所狭しと並べられている。

「ここにあるのは、昔はどの家庭にもあったような一般的なものばかり。ごく普通のものってさ、5年もしないうちになくなってしまいがちだからね。だから保管するんだ」。そう話すのは、今年で72歳になる館長の坂一敬(さか・かずたか)さんだ。

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坂会館には、昭和の趣きを残す品々が並べられている

 坂さんは3人兄弟の長男として、1944年、北海道上川郡上士別村(現・土別市)に生まれた。上士別村の村長だった彼の父親は、太平洋戦争の戦時中に軍からの召集令を受け、千島(ロシア語ではクリル)列島最東端の「占守島(しゅむしゅとう)の戦い」に参加。物資を確保する輜重兵(しちょうへい)として小樽まで買い出しに行っているときにちょうど終戦を迎え、無事に帰還することができたそうだ。その父親が30歳を過ぎて地元で始めたのが、「坂栄養食品」というビスケットで知られる菓子工場だった。「祖父が馬鈴薯からでんぷんをつくっていたので、製造の下準備はもとからできていた」と坂さんは語る。戦後は食べるものも少なかったため、店は繁盛したようだ。

 いっぽう、坂さんは18歳で上京し明治大学文学部に進学した。時代は安保闘争の前後。文学部から法学部に入り直し、在学中から学生運動に参画した。「当時は月に1万8000円くらいあれば東京で暮らしていける時代だからね。生活費はパチンコで稼いでいた」と、都内で定職に就くことはなかった。40歳になった頃、父親が体調不良になったため札幌に戻り、会社の仕事を手伝うようになった。

 そして平成6(1994)年6月6日に、元レストランの一階部分を改装し「レトロスペース・坂会館」をオープン。開館のきっかけは、マネキン人形だった。ある日、電車の中でシルバーシートに座っていたお婆さんに「電車に乗っている人のなかで、あんたがいちばん年寄りに見えるから座りなさい」と言われ、坂さんは自らの行く末を案じた。そのとき偶然目にしたのが、ゴミ捨て場に捨てられたたくさんのマネキン。「用がなくなれば人間でさえも捨てる国に、日本はなっているんじゃないか」と、自分の将来とマネキンが重なって見えたそうだ。

 すぐにマネキンを拾えるだけ拾って帰り、それ以降、廃棄されているものを集め始めた。ちょうどゴミの処分が有料に切り替わり始める時期だったため不用品を捨てる人が多く、戦争を経験した人たちが大事にしていた古い物までが、たくさんゴミとして出されていた。大量消費社会に反旗をひるがえすように、坂さんはそうした品々を持ち帰っては館内で大切に保管するようになった。自分の足で本州や沖縄まで足を運ぶうちに次第にネットワークが生まれ、蒐集を始めてから20年以上経ったいまでは、提供者も現れるようになったという。

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札幌市西区にある「レトロスペース・坂会館」の外観

 坂会館入口近くの通路にはたくさんの人形が縛られていて、多くの人を驚かせている。「どれも髪が短いし汚れているでしょ。リカちゃん人形やバービー人形を大量にくれる人がいたけど、中古品だから髪の毛が切られていたり、カッターで削られていたりするのが多かった。だからそれを隠すために、知り合いに頼んで縛ってもらったんです。ひどいものは包帯でぐるぐると巻いて、隠しました。人形は滑るから、人間を縛るほうが楽だって彼は言っていたよ」。

 館内に陳列された物はどれも、かつては誰かの所有物だった。そうした持ち主のライフストーリーが見え隠れするのが、この館の魅力かもしれない。実際、来館者が物との対話をじっくりと楽しめるよう、坂会館の展示物には解説文がない。

 そして、開館以来一貫しているもうひとつの特徴が、入館無料ということだ。「入館料をとる施設は多いけど、ここに来る人たちが金持ちとは限らないし、みんなきにくくなるでしょ。時間が経ったから珍しく感じるけど、ここの物は金をとるほどではないんだよ」と坂さんは謙遜する。「いただいた物も多いから、それを右から左に売るのは道徳に反しているだろう」と、展示品の販売もしていない。そんな坂会館には年間6〜7000人もの来館者が訪れていて、同館の存在意義を立証している。

 いっぽうで、これだけの物量を誇るだけあって盗難が絶えないのも事実だ。「いちばんひどかったのは、オリンピックの記念硬貨や明治時代からの古銭がケースごと盗まれたことだね。警察が来て調べたけど犯人がわからなくて、いまだに行方が知れない。でも、監視している環境で見せたくないから、仕様がないなと思ってやっているんだよね」。

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汚れや傷を隠すため、と坂が言う人形の縛り方には、異質なものを感じさせる

 そんなレトロスペース・坂会館はいま、土地と建物を所有する坂栄養食品との対立で閉館の危機を迎えている。いつどうなってしまうかわからない状態だと坂さんは言う。僕らにできることは、なくなってから「行けばよかった」と嘆くことではなく、まず足を運ぶことだ。「家族のいない独居老人だったから、ここまでできたんです。多くの人と知り合いになれたし、全国にいろんな人がいることを、知ることができました。あなたが来てくれて二人で話をするというのは、普通に生活していたらありえないことだからね」と語る坂さん。ゴミ捨て場でマネキンを見つけたことで彼の蒐集が始まったように、今度はレトロスペース・坂会館の存在がきっかけで、何かに情熱を傾ける人たちがきっと出てくるにちがいない。

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写真左から、坂会館副館長の中本尚子、坂館長、筆者

(文=櫛野展正)

PROFILE
くしの・のぶまさ アール・ブリュット美術館、鞆の津ミュージアムキュレーター、ギャラリー兼イベントスペース「クシノテラス」主宰。2015年12月13日まで開催された鞆の津ミュージアム最後の企画展「障害(仮)」では、「障害者」と健常者の境界について問題提起した。クシノテラスWEBサイト:http://kushiterra.com/

死刑囚による展覧会がクシノテラスにて開催中

櫛野展正が運営するアートスペース、「クシノテラス」(広島県・福山市)では、4月29日〜8月29日、確定死刑囚による絵画を中心に紹介する「極限芸術2 死刑囚は描く」展を開催。5月29日には、都築響一によるトークイベントも予定されている。詳細は下のバナーより。

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21世紀美術館に架空の都市国家が出現! 「西京人」展が開催中

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金沢21世紀美術館(石川県)にて、小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソックによるコラボレーションチーム「西京人」の個展「西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。」が開催されている。アジアの架空の都市国家「西京」をめぐるシリーズの集大成として、ユーモアあふれる視点で社会や国家をとらえた作品群を展示。

「西京人」とは、それぞれ日本、中国、韓国で活動するアーティスト、小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソックによって、2007年に結成されたコラボレーションチーム。アジアのどこかにある架空の都市国家「西京」をモチーフに、ユニークな視点で社会や国家について考える、プロジェクトベースの作品を発表してきた。

 本展ではこれまでの作品の中から、北京オリンピックにあわせて制作された《第3章:ようこそ西京に─西京オリンピック》(2008)、メンバーそれぞれが大統領として西京の国政を担う様子を描いた《第4章:アイラブ西京─西京国大統領の日常》(2009)、教師と生徒の間のヒエラルキーを排する西京の教育システムを表現した《第4章:アイラブ西京─西京国の学校》(2013)などを展示。また、日本と韓国において西京人の過去作品と同じテーマでのワークショップを実施し、その様子を映像作品としてまとめた最新作《第5章:西京は西京ではない》(2016)が発表された。

「西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。」というタイトルは、仏教の思想から影響を受けて着想されたものだという。彼らによれば「西京」とは、固定された境界をもたないが、それゆえに開放された自由な空間として成立する存在。架空の都市国家を通じて、ユーモアを交えながら現代社会の様相を浮かび上がらせる企画となっている。 

 3人は、1960年代生まれの同世代。本展では、それぞれの作品を紹介する「部屋」も設けられる。《なすび画廊》(1993)や《ベジタブル・ウェポン》(2001)で知られる小沢は架空の従軍画家の人生をモチーフとした近作《帰って来たペインターF》(2015)を、チェンは歴史的な出来事にまつわるインターネット上の写真をもとにしたインク画による映像作品を、ギムホンソックはパブリック・アートについての新しい提案のためのテキストとドローイングによる作品などを、あわせて展示する。

西京人──西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。
会期:2016年4月29日〜8月28日
会場:金沢21世紀美術館 展示室7〜12、14
住所:金沢市広坂1-2-1
電話番号:076-220-2800
開館時間:10:00~18:00(金、土〜20:00)
休館日:月休(5月2日、7月18日、8月15日は開場)、7月19日
入館料:一般1,000円/ 大学生800円/ 小中高生400円/ 65歳以上800円
URL:http://www.kanazawa21.jp 

イギリス発、LGBT映画祭をオンラインで世界に発信

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ブリティッシュ・カウンシル主催のLGBT映画祭「fiveFilms4freedom」が2016年3月16日〜27日に開催された。この「fiveFilm4freedom」は、期間限定で世界中どこからでもインターネットを通じて作品を鑑賞することができるグローバルなオンライン映画祭であり、オーディエンスが感想をツイートするソーシャルメディアを使ったキャンペーンも話題となった。今年が2回目の開催となった本映画祭を紹介する。

「LGBT」はレズビアン・ゲイ・バイセクシャル、トランスジェンダーという性的少数派を表す言葉であり、近年日本でも広く知られるようになった。LGBTに対する偏見への課題は残るものの、多様性のある社会の実現へ関心が向けられ、映画やアートの世界でも重要なキーワードになっている。

 オンライン映画祭「fiveFilms4freedom」では、同時期に開催される英国映画協会(British Film Institute, BFI)主催の「フレア・ロンドンLGBT映画祭」の参加作品から選出されたショートフィルム5作品を上映。2015年に開催した第1回目の反響を受けて、2016年から毎年開催される運びとなった。

 今年は3月16日から27日までの12日間、イギリス、ブラジル、アイルランド、スペイン、フィリピンの監督による作品が世界に公開された。父子のやり取りをコミカルに描いたものや、女の子たちの恋愛関係にフォーカスした叙情的な作品、主人公の心理をきめ細やかに追った作品など、さまざまなラインナップとなっており、たんにLGBTにフォーカスするだけでなく、どの作品も多様性への気づきを促す内容となっている。また、公式サイトでは作家のインタビューを見ることができ、作品に込めた思いや自国におけるLGBTをめぐる課題についても公開している。

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左上から時計回りに、映画『Swirl』(Peterson Varga、2015)、映画『Breathe』(James Doherty、2015)、映画『Take your Partners』(Siri Rodnes、2015)、映画『The Orchid』(Ferran Navarro-Beltán、2015)

 映画祭と連動して行われたキャンペーンは、ハッシュタグ「#FiveFilms4Freedom」をつけて映画の感想をソーシャルメディアで発信するというもの。ツイッターでは個人や性的少数者の団体からの感想や、映画祭のサポートを表明するツイートが多く見られた。ブリティッシュ・カウンシルによる調べでは、ハッシュタグリーチは8560万、YouTubeおよびfacebookでの視聴回数は計157万回となった。また、作品は179の国と地域で視聴された。性的指向を表明する「カミングアウト」が社会的にリスクになる人々が多く存在するなか、本映画祭のメッセージに勇気づけられる人も少なくないはずだ。

 「fiveFilms4freedom」は、LGBTの理解を声高に訴えるアクションではないが、ショートフィルムというかたちで他者への理解を深めさせてくれるチャンスだったといえるだろう。ブリティッシュ・カウンシルによると来年もオンラインでのショートフィルムを公開する予定とのこと。次回は日本からの応募やノミネートを期待したい。

fiveFilms4freedom
会期:2016年3月16日~3月27日(終了)
URL:https://www.britishcouncil.jp/programmes/arts/fivefilms4freedom

台湾を愛した近代の画家、立石鐵臣の個展が府中市美術館で開催

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府中市美術館(東京)にて、画家・立石鐵臣(たていし・てつおみ)の回顧展「麗しき故郷〈台湾〉に捧ぐ─立石鐵臣展」が開催。統治下の台湾で若手画家として活躍したのち、戦後は国内で絵画や挿絵の制作を続けた立石の画業を振り返る。会期は5月21日〜7月3日。

 立石鐵臣は、1905年に台北に生まれた画家。8歳で帰国後、岸田劉生や梅原龍三郎のもとで洋画を学んで再び台湾にわたり、優れた色彩感覚を活かした油彩作品を発表した。台湾最大の在野油絵団体「台陽美術協会」の創立時には唯一の日本人として参加していたほか、民俗研究、装丁、批評などの分野でも幅広く活躍。戦後は大量の作品を残したまま日本国内に移るが、台湾への望郷の念を抱き続けたという。

 日本国内では、国画会に絵画作品の出品を続けるかたわら、昆虫図鑑や児童書の挿絵なども制作した。立石作品の特徴は、台湾時代に習得した独特の細密画法。標本細密画を描く際には1匹の昆虫図に数週間をかけ、1ミリ四方に10以上の点を打つこともあった。1960年には、新美南吉の児童書『ごんぎつね』(1960)の挿絵も手掛けている。

 本展では、立石による絵画や挿絵を総覧するほか、「幻の画帖」と呼ばれる『台湾画冊』を日本初公開する。上下2冊のこの画帖は、戦後再び訪れることのなかった台湾への思いを募らせた立石が、台湾時代に見聞したいろいろな風物を墨と水彩で描いたもの。日本統治期の台湾の世相が反映されていることに加え、立石の台湾への深い愛情がうかがえる。

麗しき故郷〈台湾〉に捧ぐ─立石鐵臣展
会期:2016年5月21日~7月3日
会場:府中市美術館
住所:東京都府中市浅間町1丁目3番
電話番号:042-336-3371
開館時間:10:00~17:00
休館日:月休
入館料:一般700円、高校生・大学生350円、小学生・中学生150円
URL:https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/

名作紹介から原画展まで 明大で開催中の「マンガと戦争」展レポ

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現在、明治大学 米沢嘉博記念図書館(東京・神田)にて、「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から +α」が開催中(6月5日まで)。エンターテインメントとして成立することを前提とするマンガは、どのように「戦争」を表現してきたのでしょうか? 貴重な原画やマンガ本を集めた展示は、直接的に戦争を知らない世代の私たちにも、さまざまな視点を提示してくれます。入場は無料。関連イベントも充実の本展の、見どころを紹介します。

 

 2つのコーナーから構成される本展では、マンガという表現ジャンルに大きな足跡を残す巨匠たちの作品を多数展示しています。手塚治虫、石ノ森章太郎、水木しげる、ちばてつや、松本零士、本宮ひろ志、里中満智子、小林よしのり......。もちろん、「戦争マンガ」を語るうえで欠かすことのできない田河水泡の『のらくろ』シリーズ、中沢啓治『はだしのゲン』も。展示ではネームも読むことができ、ついつい見入ってしまいます。

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コンパクトな展示ながら、情報量はかなり豊富。見応えある展示となっている 撮影=ハセガワアツノリ

「戦争マンガ」ににじむ、それぞれの人生観・戦争観

 「6つの視点」のコーナーでは、【戦中派の声】【特攻】【原爆】【満州】【沖縄】【マンガの役割】という6つの視点をさらに4つのベクトルに分け、24作の「戦争マンガ」を展示。戦争にはさまざまな描き方があることを再認識させられます。

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6つのテーマを4象限に分けて展示しているコーナー 撮影=ハセガワアツノリ

 【戦中派の声】では、『総員玉砕せよ!』(水木しげる)、『ロボット三等兵』(前谷惟光)、『紙の砦』(手塚治虫)、『くだんのはは』(石ノ森章太郎、原作は小松左京)を展示。実際に過酷な時代を生き延びた作家たちが、どのように戦争体験を表現したのかを知ることができます。

 【特攻】では、『君死に給うことなかれ』(花村えい子)、『積乱雲』(里中満智子)、『音速雷撃隊』(松本零士)、『ゼロの白鷹』(本宮ひろ志)を展示。玉砕を前提とする「特攻」をめぐり、生死のドラマを印象的に描いたマンガが揃います。

 【原爆】では、『はだしのゲン』(中沢啓治)、『地獄』(辰巳ヨシヒロ)、『夏の残像 ナガサキの八月九日』(西岡由香)、『夕凪の街』(こうの史代)を展示。1965年生まれの西岡由香、68年生まれのこうの史代ら、昭和40年代に生まれた作家が「原爆」をどう描いているかも、注目のポイントです。

 【満州】では、『家路1945~2003』(ちばてつや)、『のらくろ探検隊』(田河水泡)、『フイチン再見!』(村上もとか)、『虹色のトロツキー』(安彦良和)を展示。『フイチン再見!』は現在も連載中の作品。膨大な資料と緻密な取材により、当時の満州の日本人の暮らしを見事に描き出しています。

 【沖縄】では、『ひめゆりたちの沖縄戦』(ほし☆さぶろう、原作は与那覇百子)、『cocoon』(今日マチ子)、『沖縄決戦 血に染まった珊瑚の島』(新里堅進)、『祖国への進軍』(三枝義浩、取材・脚本は横山秀夫)を展示。国内で唯一、地上戦の舞台となった沖縄。「戦場」としての沖縄を生々しく描いた作品が並びます。

 【マンガの役割】では、『年代早覚え 日本まんが年表』(監修・田代靖、マンガ・菊池英一)、『劇画太平洋戦争 神風特別攻撃隊』(原作・水谷青吾、作画・葉剣英)、『新ゴーマニズム宣言スペシャル 戦争論』(小林よしのり)、『永遠の0』(原作・百田尚樹、マンガ・須本壮一)を展示。ここでは、教材やメディアとしてのマンガの機能もクローズアップされます。

 マンガ週刊誌が続々と創刊し、マンガが大衆文化として定着し始めたのは、まだ戦争経験者が多かった昭和30年代のこと。当時に比べて戦争を知る人が減っているいま、戦争マンガは身近に「戦争」に触れることのできる、貴重なメディアのひとつといえます。

原画で味わう、新しい「戦争マンガ」の世界

 「3人の原画から」のコーナーは、会期を分けて4人の作家の原画が展示されます。掲載誌より一回り大きい原画には圧倒される存在感があり、印刷されたマンガとはずいぶん印象が異なることも。作家の筆づかい、修正の跡、指示書きなどから、創作のプロセスを垣間見ることができます。

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「3人の原画展+α」コーナーの展示風景。写真は第1期のこうの史代の原画(展示終了) 撮影=ハセガワアツノリ

 第2期(3月11日~4月11日)に展示されたのは、おざわゆき『凍りの掌』『あとかたの街』。作者の父親がシベリア抑留を生き延びた経験をもとにした『凍りの掌』は、いままでほとんどマンガで描かれることのなかった歴史の断面にスポットを当てている作品です。会期を区切って、こうの史代、今日マチ子、西島大介の原画を展示しています。

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おざわゆき『凍りの掌』の原画。3月11日以降は「3人の原画展+α」コーナーに展示  撮影=ハセガワアツノリ

 また、本展が開催されている明治大学 米沢嘉博記念図書館では、展覧会場2階の閲覧室の一角で「マンガと戦争展」の展示に関連するマンガや書籍を集めたコーナーを設置。展示を見たあとには、じっくり作品を読み込んでみるのもいいでしょう(会員登録が必要。1日会員は300円、18歳以上限定、要身分証明)

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米沢嘉博記念図書館2階閲覧室にある「マンガと戦争展」の関連資料コーナー。一般の見学者でも1日会員としての利用(閲覧)が可能  撮影=ハセガワアツノリ

 本展キュレーターのヤマダトモコさんは、「(古書の街である)神保町という場所柄、50~60歳代の来場が多いのではと予想していたのですが、若い世代の方にも足を運んでいただいています。研究者によると、戦争をテーマにしたマンガはすでに1000タイトルほどあるそうです。今回の展覧会が、戦争とは何かを考えたり、歴史に目を向けるきっかけになってくれれば幸いです」と話してくれました。

 現在でも世界各地で戦争・紛争・テロが続いています。「へえ、あの人がこんなマンガを描いていたのか」「パッと見、面白そう」など、きっかけはなんでも大丈夫。気になったマンガを手に取り、戦争について考えてみませんか。

マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から+α
会期:2015年2月11日~6月5日
場所:明治大学 米沢嘉博記念図書館
住所:東京都千代田区猿楽町1-7-1
電話番号:03-3296-4554
開館時間:月・金 14:00~20:00、土・日・祝 12:00~18:00
休館日:火・水・木(祝日の場合は開館)※特別整理日などで休館する場合があります。事前にお確かめください。
URL:http://www.meiji.ac,jp/manga/yonezawa_lib/

■関連イベント1(終了)
 吉村和真、宮本大人トークイベント:僕たちの好きな「戦争マンガ」
  出演:吉村和真(京都精華大学マンガ学部教授)
     宮本大人(明治大学国際日本学部准教授)
  司会:ヤマダトモコ(米沢嘉博記念図書館スタッフ)
  日時:2016年3月18日 18:00~19:30
  場所:明治大学 米沢嘉博記念図書館2階閲覧室
  料金:無料 

■関連イベント2(終了)
 おざわゆき(マンガ家)、こうの史代(マンガ家)トークイベント
  日時:2016年4月16日 16:00~17:30
  場所:明治大学 駿河台キャンパス
  料金:無料

■関連イベント3
 西島大介(マンガ家・イラストレーター他)トークイベント
 「『ディエンビエンフー』:本当のマンガの話をしよう」
  司会:宮本大人(明治大学国際日本学部准教授)
  日時:2016年5月21日 16:00~17:30
  場所:明治大学 米沢嘉博記念図書館2階閲覧室
  料金:無料。但し別途会員登録料(1日会員300円~)が必要

美術手帖 2016年6月号「Editor's note」

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2016年5月17日発売の「美術手帖 2016年6月号」より、編集長の「Editor's note」をお届けします。

 今号の特集は「コンテンポラリー・アート・プラクティス」と題して、社会に関わっていく実践としての芸術を取り上げてみたい。

 これは経済のグローバル化やインターネットの普及にともなって社会が複雑化し、「コミュニケーション」や「社会への関与」がアートにおいて一つの争点となり、1990年代から2000年代にかけての「関係性の美学」の理論や「ソーシャリー・エンゲージド・アート(SEA)」といった動向として現れてきた流れの上にある。

 2016年、世界は混迷の度合いを強めているようだ。2010年に中東で起こった民主化運動「アラブの春」では希望が見えたと思えた国々が、現在では民主的とは言えない政府による抑圧や周辺地域の思惑が蠢く内戦にあえいでいる。それは難民の受け入れ問題となって、EUの理念さえも大きく揺るがす事態となっている。そんな状況に対して、巻頭で取り上げた艾未未(アイ・ウェイウェイ)、ヴォルフガング・ティルマンスはすぐに応答した。具体的な行動として、実際に状況を改善しようとするものだ。これはアートの実践というには一歩踏み込んでいるように思うのだ。インタビューで彼らにその思いを聞いた。

 アートと政治の関係について、ヒト・シュタイエルは政治的な問題を表現としてリプレゼントするのではなく、アートという分野のなかの政治性(具体的にはアート界の労働環境や搾取の問題等)に焦点を当てている。これもアートフォームの一つとしての「制度批判」から踏み込んでいるように見える。

 こうした動きの背景には何があるのか。そして、この「アート・プラクティス」を見定める言説はまだ追いついていない。引き続き、今後も取り上げていきたい。

 翻って、日本の状況はどうだろうか。艾未未がインタビューで「いまの日本は、世界の片隅に行ってしまったよう」と言うように、世界での存在感を良くも悪くも示せていない。が、例えば、国境なき記者団が発表した「報道の自由度ランキング」では、180か国・地域の中で72位となった。2010年の11位から年々順位を下げているように、徐々に見えない圧力が高まっていることは間違いない。

 小特集では、アートにおける自主規制をテーマとして、物議を醸している「キセイノセイキ展」の企画者・参加アーティストに企画の真意や起こっている問題などについて、当事者の立場から話をしてもらった。そこにはアーティストや美術館が政治を扱うこと、またアートの内部の政治性について、日本の最前線の状況が活写されている。

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編集長 岩渕貞哉
美術手帖 2016年6月号
編集:美術出版社編集部
出版社:美術出版社
判型:A5判
刊行:2016年5月17日
価格:1728円(税込)

石内都、森山大道らが「日本」を表現 VICEマガジン写真特集

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デジタルメディア「VICE」によるフリーマガジン『VICE MAGAZINE』が4月28日に発行された。今号は日本完全オリジナルで制作された「THE PHOTO ISSUE(写真特集)」。森美術館(東京・六本木)で開催中の「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」にも参加している石川竜一、ファッション写真を中心に活動する1992年生まれのMonika Mogiら写真家19名が、それぞれの視点で日本を表現した作品が掲載されている。

「VICE」は、タブーに挑むスタイルで支持を集め、世界37カ国で独自の映像コンテンツを展開しているデジタルメディア。雑誌版の「THE PHOTO ISSUE」は、オペラシティアートギャラリー(東京・初台)で個展を開催中のアメリカの写真家、ライアン・マッギンレーの提案によって2001年に始まった。これまでも著名な写真家が多数参加し、フリーマガジンとしては異例のクオリティの高さを誇る人気企画として知られる。

 日本完全オリジナルで制作された今号には、国内外の写真家による「日本」をテーマにした作品が掲載されている。巻頭を飾るのは、深瀬昌久の写真集『鴉』(蒼穹舎)をトリビュートしたアレックス・ソスによるフォトストーリー「TO THE NORTH」。総勢19人が政治から性、食、オカルト、ファッション、伝統に至るまで、幅広い事象を介して日本のさまざまな側面を写し出す。

 参加している写真家は、Alec Soth、水谷吉法、名越啓介、大森克己、Monika Mogi、Great The Kabukicho、Antoine D'agata、森山大道、間部百合、石川直樹、山谷佑介、石内都、鈴木育郎、Jesse Lizotte、立木義浩、石川竜一、山内聡美、HOIKISYU、山本渉。雑誌は全国のギャラリー、ホテル、書店、アパレルショップ、レコードショップなど約1000か所で配布されている。

VICE MAGIZINE THE PHOTO ISSUE
Vice Media Japan株式会社=発行|無料
URL:http://jp.vice.com/vicemagazine/vice-magazine-cover-story

瞬間の写真表現 若手写真家のスナップショットにみる現在

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京都の現代美術ギャラリー「eN arts」で、写真評論家の清水穣がキュレーションする若手写真家、麥生田兵吾(むぎゅうだ・ひょうご)、カワトウ、迫鉄平の3名によるグループ展が開催中である。テーマは日常の風景に対し、反射的にシャッターを押すことで切り取った「スナップショット」だ。

 スマートフォンのカメラ機能などで、誰もがごく日常的かつ手軽に楽しむようになったスナップショット。この最も身近な写真表現に焦点を当てたグループ展が京都で開催されている。

 本展キュレーターの清水穣によれば、写真につきものである、「被写体」と「写し方」のどちらを際立たせることなく、両者のバランスの中において成立するのがスナップショットであり、写真家の才能が最も露になる写真表現なのだという。

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カワトウ Chocomint Pinksalon 2015 ラムダプリント

 参加作家は、いくつかの制約のもと毎日撮影した写真をwebで発表するプロジェクト「pile of photographys」を2010年から継続している麥生田兵吾、フォトタブロイド誌「Noiz」や、インディーズ写真集レーベル「CITYRAT press」の立ち上げに関わってきたカワトウ、京都を拠点に活動する美術家ユニットTHE COPY TRAVELERSとしても活動中の迫鉄平の3名。いずれも日常の風景を主題とする若手だ。

 今回公開される彼らの作品群からは、2016年現在の、スナップショット表現における最新の実験成果が見えてくるだろう。

showcase #5 "偶然を拾う- Serendipity"
会期:2016年5月6日〜29日
会場:eN arts
住所:京都市東山区祇園町北側627円山公園内八坂神社北側
電話番号:075-525-2355
開館時間:12:00〜18:00 (月、火、水、木は予約制)
入館料:無料
URL:http://en-arts.com/

人工知能(AI)と人間の未来を読み解く おかざき乾じろ展

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築200年にもなる古民家を修復してオープンした現代美術館、風の沢ミュージアムにて、造形作家で批評家のおかざき乾じろが展覧会を開催中だ。宮城県栗原市にある同館での「POST /UMUM=OCT /OPUS(ぽすと。うむうむ。おくとぱす。)」展は、おかざきにとって東北地方での初個展であり、地方のための新作が公開されている。

 個展開催に向けて執筆されたおかざきのテキストは、2045年問題ともいわれる「人工知能が人間の知能を凌駕する」という俗説に言及している。人工知能が自ら学習し、自分よりさらに優秀な人工知能をつくり出し、それがさらにもっと優秀な人工知能をつくり出すと予測される未来では、ある時点から人間が追いつけなくなってしまう、技術的特異点(シンギュラリティ)が起るとされている。

 そもそも人間が自らを人間であるとみなしている定義も根拠も疑わしいが、アリストレスの考えたアニマやあるいは仏教でいうところの阿頼耶識(心の真相部分)に主体の座をゆずって考えれば、問題はなんなく解決するだろうとも、おかざきは示唆している。

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おかざき乾じろ post/umum/dessin/neko 2016


 本展では、こうしたおかざきが予測する未来や、2045年問題が起きた先の、人間の姿を考えさせる契機とっているだろう。震災後の宮城において、このテーマがどのように表現されているのか、会場を訪れて確かめてみてほしい。

おかざき乾じろ「POST /UMUM=OCT /OPUS」展
会期:2016年4月14日~10月13日
会場:風の沢ミュージアム
住所:宮城県栗原市一迫片子沢外の沢11
電話番号:0228-52-2811
開館時間:11:00~17:00(10月は16:00閉館)
休館日:水、木(祝日は開館)
入館料:一般700円 / 未成年者無料 / 20名より団体割引600円
URL:http://kazenosawa.jp/

【関連イベント】
おかざき乾じろワークショップ

開催日時:2016年7月23日、24日、10月22日(全3回)各回14:00より

風の沢ミュージアムに作品を展示してくれているおかざき乾じろさんの関連ワークショップという名のトークイベント。テーマは『美術と歴史』、『人間のはじまりと芸術のおしまいについて』『暮らすことと働くこと、考えることと働くこと』『果てしない話とあてどない話』(以上、例)など、毎回、予測不能の異なるテーマでトークが展開される。
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