アルゼンチンで生まれ、タイ、エチオピア、カナダで育ち、グローバル時代の条件下に過ごしたリクリット・ティラバーニャ。スーパー16mmで撮影された154分の映画作品《Lung Neaw Visits His Neibours》(2011)では、自身が国籍をもつタイのチェンマイへと帰省。退職し、年老いた一人の農夫の生活を追う同作は、東南アジアのある質素な共同体を支える精神性を映しだしている。なお本展では、これまでも多国語に翻訳し、発表してきたポスター作品《Do not Ever Work(決して働くな)》(2016)の日本語版をあわせて発表し、来場者に差し出す試みも。ティラバーニャは、1950年代から70年代初頭にかけ、ヨーロッパで活動した前衛集団「アンテルナシオナル・シチュアシオニスト 」の創設メンバー、ギー・ドゥボールの落書きを引用したこのスローガンによって、労働力と資本関係の批判に取り組んでいる。
リクリット・ティラバーニャ Lung Neaw Visits His Neighbors 2011 スーパー16mm video color/sound 154分 Courtesy the artist.
なお本展では、参加作家の協力により、オノ・ヨーコの代表作である詩集『グレープフルーツ』(1964)を参照したトリビュート・パフォーマンス と、リクリット・ティラバーニャの指示書レシピ(ハンス・ウルリッヒ・オブリスト編集《ドゥーイット:ザ・コンペンディウム》(2013)より)の再演が行われる。パフォーマンスを行うのは、韓国に生まれ、ウィーンに拠点を置くアーティスト、イェン・ノー、2015年にロンドンのホワイト・キューブ・ギャラリーでオノヨーコの『Fluxus event scores, Water (1964 Spring)』を再演した小林勇輝、そしてベルギーのダンス学校「p.a.r.t.s.」から帰国した仁田晶凱の3名を予定。
Art MOは、アートやカルチャーに感度の高い観光客にマカオのクリエイティブシーンを提示するだけでなく、地元の若者のアートやデザインに対する関心を高めることにも貢献している。近年のカフェブームやクラフト・マーケットの隆盛などは、その一端ともいえるだろう。マカオ政府が観光誘致のために仕掛ける施策が、今後どのように広がっていくのか。注目していきたい。
Art MOの回遊地のひとつとして名を連ねるマカオ・デザインセンター。地上4階、地下1階の施設に、スタジオ、カフェ、書店、ショップなどを備え、展覧会やイベントが開催されている。マカオと海外のデザインシーンをつなぐ複合施設になっている 多くの観光客でにぎわう世界遺産、聖ポール天主堂の近くにある「フルゲント・アート・ギャラリー」。Art MOの回遊地のひとつになっている
気概を見せるオルタナティブ・アートスペース
Art MOでも紹介されているアートスポットのひとつに、コンテンポラリー・アートに主軸を置いて活動するオルタナティブ・アートスペース、「OX ウェアハウス」がある。ネオンの眩しいカジノ街からは少し離れ、人々の生活が垣間見えるマカオ半島の北部、ファティマ堂区に、2002年にオープンした。