『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から、エッセイや写真集、図録など、注目したい作品を紹介しています。2016年11月号では、アーティストの著書や芸術祭のコンセプトブックなど、表現や創作の背景にある考え方に触れることができる4冊を取り上げます。
蛭川久康 著『評伝 ウィリアム・モリス』

アーツ・アンド・クラフツ運動の主導者、ウィリアム・モリス。死後120年を経た今なお、そのデザインと理論は私たちの日常の中に生きている。聖職者を志し、画家に憧れ、数多の詩を書きながら、家具・調度品から本の装幀までをデザインし、晩年は社会主義運動に身を投じた、ヴィクトリア朝のローリングストーン。ラファエル前派の画家たちのミューズであった妻と友人たちとの奇妙な関係も含め、彼が生涯を通じて追い求めた理想を照らし出す。(松﨑)
平凡社|5800円+税
港千尋 編『夢みる人のクロスロード 芸術と記憶の場所』

あいちトリエンナーレ2016のテーマは「虹のキャラヴァンサライ」。アートが生む多様性を虹のイメージに託し、様々なボーダーを越境した道への旅を謳うものだ。本書はそのようなトリエンナーレの理念に基づき、「旅と創造」をめぐる文章と写真を集めたコンセプトブック。旧石器時代の洞窟壁画やパレスチナ・ガザ地区を訪れた研究者や文学者によるの旅エッセイ、味覚や色の文化論的考察など、時空を行き来して編まれた文章が感性を刺激してくれる。(中島)
平凡社|1500円+税
鴻池朋子 著『どうぶつのことば──根源的暴力をこえて』

狼の頭部を持った半獣人や人間の手足を持った蜂などが登場し、独自の創造神話のような世界を描き出してきた美術家、鴻池朋子。美術館の壁面を埋め尽くす襖絵の大作や、膨大な数のドローイングによるコマ撮りアニメーションなど、精力的に作品を発表してきた鴻池は、東北の震災以後、これまでのような制作活動を停止し「大いなる空回りを続けた」。その間に彼女が見聞きし触れたものとはなんだったのか。鴻池自身によるエッセイと対談の記録。(松﨑)
羽鳥書店|3400円+税
小川希 編『アートプロジェクトの悩み 現場のプロたちはいつも何に直面しているのか』

地方で開催される大型国際展から自主企画イベントまで。近年、各地で活発化しているアートプロジェクトだが、資金繰りの問題、地域との連携など、現場のプロは常に多くの課題を抱えている。「Art Center Ongoing」を運営する小川希がキュレーター、ディレクター、作家たちと対話し、それぞれの経験談やキュレーション観を引き出したインタビュー集。小川自身がこの仕事の苦労と喜びを知り尽くしていることもあり、核心に迫った質問が多い。(中島)
フィルムアート社|1800円< +税
中島水緒[なかじま・みお(美術批評)]+松﨑未來[まつざき・みらい(ライター)]=文
(『美術手帖』2016年11月号「BOOK」より)