『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から、エッセイや写真集、図録など、注目したい作品を紹介しています。2016年9月号では、近年逝去したアーティストの作品集や被災写真への対応マニュアル、美術館に関する国際会議の記録など、表現活動を後世に伝えていく活動に関連して編まれた4冊を取り上げます。
國府理 著『國府理作品集』

有志の呼びかけが発端となり完成した國府理(1971-2014)の作品集。バイク、自動車などの乗り物をモチーフに「ここではない何処か」への移動を夢見た初期作品をはじめ、環境への関心から植物を取り入れるようになった2000年代の作品、そして水の循環システムを美術館内に仮設した近作《相対温室》まで、約100点を作家の言葉とともに振り返る。確かな設計技術と大胆な構想力に裏打ちされた作品群が、自然と人工の共存という遠大なテーマを照らす。
青幻舎|3200円+税
RD3プロジェクト 著『被災写真救済の手引き 津波・洪水などで水損した写真への対応マニュアル』

東日本大震災から約1か月後、被災した博物館の写真資料をデジタル化するために、ボランティアベースのチーム「RD3プロジェクト」が発足した。海水に浸かった写真を修復するのは容易ではないが、適切な処置をマニュアル化することは、今後の被災への備えにもつながる。クリーニングからデータベース化までの手順を、プリント写真、ネガシート、スライドなど媒体別に紹介。次世代へと継承すべきアーカイブの方法論が詰まった貴重な手引き。
国書刊行会|1300円+税
小林史子 著『小林史子作品集 Nest』

2016年1月に逝去したアーティスト、小林史子本人がセレクトした代表作をまとめた作品集。家屋の解体現場から運び出した廃材でギャラリー内に小さな家を建てる、美術館の備品と私物を組み合わせて立体作品をつくるなど、小林はサイト・スペシフィックなインスタレーションを得意とした。日本、ドイツ、インド、台湾ほか、世界各地を移動しながら、どんな場所でもアートが息づく「NEST」=「巣」に変容させることができた作家の力量が伝わってくる。
赤々舎|6000円+税
内田伸一+片岡真実ほか 編『HOW GLOBAL CAN MUSEUMS BE? 美術館はいかにグローバルになれるのか?』

2015年に六本木で開催された、美術館をめぐる国際会議の記録集。世界各国から集ったキュレーター、研究者、アーティストらが登壇し、「美術館はいまなお討論のための場なのか」など3つのセッションで議論を交わした。公共空間としての美術館における表現の規制問題や、モダニズムを前提に組織される美術史を、多文化的な視点から問い直す。非欧米圏への眼差しも含め、各国の文化的、政治的、宗教的差異を浮かび上がらせた意義は大きい。
CIMAM[国際近現代美術館会議]2015年次総会東京大会実行委員会|1429円+税
中島水緒[なかじま・みお(美術批評)]=文
(『美術手帖』2016年9月号「BOOK」より)