昨年の第56回ヴェネチア・ビエンナーレで、大量の赤い糸と世界中の人々から集められた鍵を使い、《掌の鍵》を発表した塩田千春が、KAAT神奈川芸術劇場で帰国記念展「塩田千春 | 鍵のかかった部屋」を開催する。2001年のヨコハマトリエンナーレ、2007年の神奈川県民ホールギャラリーでの個展に続き、横浜では3回目の作品発表となる今回。新作として制作された《鍵のかかった部屋》に込められた思いとはー。
ヴェネチア・ビエンナーレへの参加が決まった時点で、すでに開催が決定していたという本展。企画は2007年の神奈川県民ホールギャラリー個展と、2015年のヴェネチア・ビエンナーレも担当したKAATキュレーターの中野仁詞が担当している。「ヴェネツィアとまったく同じものはつくれない。そのときの気持ちを持ってこれない」という塩田の思いから、巡回展ではなく「一歩進化したもの」として、この新作《鍵のかかった部屋》は制作された。

会場となっているKAATの「中小スタジオ」は普段、演劇・ダンスのリハーサルなどが行われる場所。「照明が素敵で、これを生かして空間をつくりました」という本作を構成するのは、ヴェネチアでも使用された大量の赤い糸(75mの糸3000ロール分)と、当時、公募で集まった18万個から選ばれた1万5000個の鍵、そして塩田が活動拠点にしているベルリンから持ってきた5つの古い扉だ。「扉によって『部屋』をつくることで、内と外の世界ができる。現実と幻想が入り混じったような世界です」。
内と外の世界を生みだすこと、それは空間に境界線を引く行為にほかならない。このことについて問うと、塩田はこう答えてくれた。「自分は常に境界線上にいるような気持ちがあります。それは長年ベルリンで生活しているから。日本とベルリン、どちらが自分の家なのかわからなくなる」。1996年にハンブルク美術大学に入学して以降、約20年にわたって海外を拠点に活動している塩田ならではの言葉だろう。
本展の特徴のひとつとして、会期中に行われる4つの公演が挙げられる。すべてのパフォーマンスは展示空間内で上演されることになっているが、これは最初から展示プランに組み込まれていたものだという。「私は作品の中に、ダンサーや俳優が入りやすい空間をつくるほうだと思っています」とし、「人が入ることで、作品ができあがるという感覚がどこかにある。パフォーマンスで(作品に)どのような変化が現れるか楽しみです」と語っている。



会場:KAAT神奈川芸術劇場
住所:神奈川県横浜市中区山下町281
開館時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
休館日:なし
入館料:一般 900円、学生・65歳以上 500円、高校生以下無料
URL:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/