3月12日より、カルロス・ベルムト監督・脚本の映画『マジカル・ガール』が、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次公開となる。ベルムト監督の劇場デビュー作となる本作は、2014年サン・セバスチャン国際映画祭にて、グランプリと監督賞をダブル受賞し、ペドロ・アルモドバル監督が絶賛したことでも話題となった。出会うはずのなかった人々が結びつき、悲劇的な運命を辿る過程を緻密な構成とスタイリッシュな映像で描いた、新感覚のフィルム・ノワールだ。
予測がつかないのは、不安であると同時に快感でもある。スペインの新星カルロス・ベルムト監督の『マジカル・ガー ル』は、そのことを実感させてくれるまったくもって予測不能な映画だ。日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のファンであるアリシアは白血病で余命わずか。失業中の父は娘の願いを叶えるため、高額なコスチュームを手に入れようと画策するが、悲劇の連鎖を生み出してしまう。
監督は物語のそもそもの発端をこう語る。「普通の人々が極端に追いつめられたときに取る決断に興味がありました。しかもそれが権力を介した人間関係であるとき、相手のためにどこまでできるのかを描いてみたかったのです」。
娘思いの父は心に闇を抱えるバルバラという女性を支配し、彼女は元教師のダミアンという男を支配する。「地獄への道は善意で舗装されている」という諺を引き合いに出しながら、監督は続けた。「どんな独裁者も、最初はよい国にしようという意図のもとで行動を起こしているはず。この映画に出てくる人もみな、愛する人のために何かをしようとして、結果的に悪事を犯してしまうのです」。

マンガ家、イラストレーターでもあるベルムト監督は、大の日本好き。映画をつくる際も丸尾末広や浦沢直樹などのマンガ表現が非常に役立ったそう。「日本のマンガは西洋と違って急がない。ひとつの物事を時間をかけて描く、世界最高レベルの語りだと思います」。
マンガのほかにも映画や音楽など日本のカルチャーを愛して止まない監督だが、自国のことはどうとらえているのか。その解釈は、なぜこの映画をつくったのかという答えにも通じるように思えた。
「スペイン人は残酷なものに魅力を感じる傾向にあります。子どもの頃から教会で地獄や罪の話に接しているのも関係しているでしょう。情熱的な愛というと、普通は明るいイメージを抱くかもしれませんが、そこには常に痛みがあります。痛みを伴うことが、スペイン人にとっては生きている証なのかもしれません」。
文=兵藤育子
(『美術手帖』2016年3月号「INFORMATION」より)
監督・脚本:カルロス・ベルムト
出演:ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ルシア・ポジャン
配給:ビターズ・エンド
URL:http://bitters.co.jp/magicalgirl