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美術手帖 2016年6月号「Editor's note」

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2016年5月17日発売の「美術手帖 2016年6月号」より、編集長の「Editor's note」をお届けします。

 今号の特集は「コンテンポラリー・アート・プラクティス」と題して、社会に関わっていく実践としての芸術を取り上げてみたい。

 これは経済のグローバル化やインターネットの普及にともなって社会が複雑化し、「コミュニケーション」や「社会への関与」がアートにおいて一つの争点となり、1990年代から2000年代にかけての「関係性の美学」の理論や「ソーシャリー・エンゲージド・アート(SEA)」といった動向として現れてきた流れの上にある。

 2016年、世界は混迷の度合いを強めているようだ。2010年に中東で起こった民主化運動「アラブの春」では希望が見えたと思えた国々が、現在では民主的とは言えない政府による抑圧や周辺地域の思惑が蠢く内戦にあえいでいる。それは難民の受け入れ問題となって、EUの理念さえも大きく揺るがす事態となっている。そんな状況に対して、巻頭で取り上げた艾未未(アイ・ウェイウェイ)、ヴォルフガング・ティルマンスはすぐに応答した。具体的な行動として、実際に状況を改善しようとするものだ。これはアートの実践というには一歩踏み込んでいるように思うのだ。インタビューで彼らにその思いを聞いた。

 アートと政治の関係について、ヒト・シュタイエルは政治的な問題を表現としてリプレゼントするのではなく、アートという分野のなかの政治性(具体的にはアート界の労働環境や搾取の問題等)に焦点を当てている。これもアートフォームの一つとしての「制度批判」から踏み込んでいるように見える。

 こうした動きの背景には何があるのか。そして、この「アート・プラクティス」を見定める言説はまだ追いついていない。引き続き、今後も取り上げていきたい。

 翻って、日本の状況はどうだろうか。艾未未がインタビューで「いまの日本は、世界の片隅に行ってしまったよう」と言うように、世界での存在感を良くも悪くも示せていない。が、例えば、国境なき記者団が発表した「報道の自由度ランキング」では、180か国・地域の中で72位となった。2010年の11位から年々順位を下げているように、徐々に見えない圧力が高まっていることは間違いない。

 小特集では、アートにおける自主規制をテーマとして、物議を醸している「キセイノセイキ展」の企画者・参加アーティストに企画の真意や起こっている問題などについて、当事者の立場から話をしてもらった。そこにはアーティストや美術館が政治を扱うこと、またアートの内部の政治性について、日本の最前線の状況が活写されている。

2016.04
編集長 岩渕貞哉
美術手帖 2016年6月号
編集:美術出版社編集部
出版社:美術出版社
判型:A5判
刊行:2016年5月17日
価格:1728円(税込)

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