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名作紹介から原画展まで 明大で開催中の「マンガと戦争」展レポ

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現在、明治大学 米沢嘉博記念図書館(東京・神田)にて、「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から +α」が開催中(6月5日まで)。エンターテインメントとして成立することを前提とするマンガは、どのように「戦争」を表現してきたのでしょうか? 貴重な原画やマンガ本を集めた展示は、直接的に戦争を知らない世代の私たちにも、さまざまな視点を提示してくれます。入場は無料。関連イベントも充実の本展の、見どころを紹介します。

 

 2つのコーナーから構成される本展では、マンガという表現ジャンルに大きな足跡を残す巨匠たちの作品を多数展示しています。手塚治虫、石ノ森章太郎、水木しげる、ちばてつや、松本零士、本宮ひろ志、里中満智子、小林よしのり......。もちろん、「戦争マンガ」を語るうえで欠かすことのできない田河水泡の『のらくろ』シリーズ、中沢啓治『はだしのゲン』も。展示ではネームも読むことができ、ついつい見入ってしまいます。

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コンパクトな展示ながら、情報量はかなり豊富。見応えある展示となっている 撮影=ハセガワアツノリ

「戦争マンガ」ににじむ、それぞれの人生観・戦争観

 「6つの視点」のコーナーでは、【戦中派の声】【特攻】【原爆】【満州】【沖縄】【マンガの役割】という6つの視点をさらに4つのベクトルに分け、24作の「戦争マンガ」を展示。戦争にはさまざまな描き方があることを再認識させられます。

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6つのテーマを4象限に分けて展示しているコーナー 撮影=ハセガワアツノリ

 【戦中派の声】では、『総員玉砕せよ!』(水木しげる)、『ロボット三等兵』(前谷惟光)、『紙の砦』(手塚治虫)、『くだんのはは』(石ノ森章太郎、原作は小松左京)を展示。実際に過酷な時代を生き延びた作家たちが、どのように戦争体験を表現したのかを知ることができます。

 【特攻】では、『君死に給うことなかれ』(花村えい子)、『積乱雲』(里中満智子)、『音速雷撃隊』(松本零士)、『ゼロの白鷹』(本宮ひろ志)を展示。玉砕を前提とする「特攻」をめぐり、生死のドラマを印象的に描いたマンガが揃います。

 【原爆】では、『はだしのゲン』(中沢啓治)、『地獄』(辰巳ヨシヒロ)、『夏の残像 ナガサキの八月九日』(西岡由香)、『夕凪の街』(こうの史代)を展示。1965年生まれの西岡由香、68年生まれのこうの史代ら、昭和40年代に生まれた作家が「原爆」をどう描いているかも、注目のポイントです。

 【満州】では、『家路1945~2003』(ちばてつや)、『のらくろ探検隊』(田河水泡)、『フイチン再見!』(村上もとか)、『虹色のトロツキー』(安彦良和)を展示。『フイチン再見!』は現在も連載中の作品。膨大な資料と緻密な取材により、当時の満州の日本人の暮らしを見事に描き出しています。

 【沖縄】では、『ひめゆりたちの沖縄戦』(ほし☆さぶろう、原作は与那覇百子)、『cocoon』(今日マチ子)、『沖縄決戦 血に染まった珊瑚の島』(新里堅進)、『祖国への進軍』(三枝義浩、取材・脚本は横山秀夫)を展示。国内で唯一、地上戦の舞台となった沖縄。「戦場」としての沖縄を生々しく描いた作品が並びます。

 【マンガの役割】では、『年代早覚え 日本まんが年表』(監修・田代靖、マンガ・菊池英一)、『劇画太平洋戦争 神風特別攻撃隊』(原作・水谷青吾、作画・葉剣英)、『新ゴーマニズム宣言スペシャル 戦争論』(小林よしのり)、『永遠の0』(原作・百田尚樹、マンガ・須本壮一)を展示。ここでは、教材やメディアとしてのマンガの機能もクローズアップされます。

 マンガ週刊誌が続々と創刊し、マンガが大衆文化として定着し始めたのは、まだ戦争経験者が多かった昭和30年代のこと。当時に比べて戦争を知る人が減っているいま、戦争マンガは身近に「戦争」に触れることのできる、貴重なメディアのひとつといえます。

原画で味わう、新しい「戦争マンガ」の世界

 「3人の原画から」のコーナーは、会期を分けて4人の作家の原画が展示されます。掲載誌より一回り大きい原画には圧倒される存在感があり、印刷されたマンガとはずいぶん印象が異なることも。作家の筆づかい、修正の跡、指示書きなどから、創作のプロセスを垣間見ることができます。

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「3人の原画展+α」コーナーの展示風景。写真は第1期のこうの史代の原画(展示終了) 撮影=ハセガワアツノリ

 第2期(3月11日~4月11日)に展示されたのは、おざわゆき『凍りの掌』『あとかたの街』。作者の父親がシベリア抑留を生き延びた経験をもとにした『凍りの掌』は、いままでほとんどマンガで描かれることのなかった歴史の断面にスポットを当てている作品です。会期を区切って、こうの史代、今日マチ子、西島大介の原画を展示しています。

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おざわゆき『凍りの掌』の原画。3月11日以降は「3人の原画展+α」コーナーに展示  撮影=ハセガワアツノリ

 また、本展が開催されている明治大学 米沢嘉博記念図書館では、展覧会場2階の閲覧室の一角で「マンガと戦争展」の展示に関連するマンガや書籍を集めたコーナーを設置。展示を見たあとには、じっくり作品を読み込んでみるのもいいでしょう(会員登録が必要。1日会員は300円、18歳以上限定、要身分証明)

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米沢嘉博記念図書館2階閲覧室にある「マンガと戦争展」の関連資料コーナー。一般の見学者でも1日会員としての利用(閲覧)が可能  撮影=ハセガワアツノリ

 本展キュレーターのヤマダトモコさんは、「(古書の街である)神保町という場所柄、50~60歳代の来場が多いのではと予想していたのですが、若い世代の方にも足を運んでいただいています。研究者によると、戦争をテーマにしたマンガはすでに1000タイトルほどあるそうです。今回の展覧会が、戦争とは何かを考えたり、歴史に目を向けるきっかけになってくれれば幸いです」と話してくれました。

 現在でも世界各地で戦争・紛争・テロが続いています。「へえ、あの人がこんなマンガを描いていたのか」「パッと見、面白そう」など、きっかけはなんでも大丈夫。気になったマンガを手に取り、戦争について考えてみませんか。

マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から+α
会期:2015年2月11日~6月5日
場所:明治大学 米沢嘉博記念図書館
住所:東京都千代田区猿楽町1-7-1
電話番号:03-3296-4554
開館時間:月・金 14:00~20:00、土・日・祝 12:00~18:00
休館日:火・水・木(祝日の場合は開館)※特別整理日などで休館する場合があります。事前にお確かめください。
URL:http://www.meiji.ac,jp/manga/yonezawa_lib/

■関連イベント1(終了)
 吉村和真、宮本大人トークイベント:僕たちの好きな「戦争マンガ」
  出演:吉村和真(京都精華大学マンガ学部教授)
     宮本大人(明治大学国際日本学部准教授)
  司会:ヤマダトモコ(米沢嘉博記念図書館スタッフ)
  日時:2016年3月18日 18:00~19:30
  場所:明治大学 米沢嘉博記念図書館2階閲覧室
  料金:無料 

■関連イベント2(終了)
 おざわゆき(マンガ家)、こうの史代(マンガ家)トークイベント
  日時:2016年4月16日 16:00~17:30
  場所:明治大学 駿河台キャンパス
  料金:無料

■関連イベント3
 西島大介(マンガ家・イラストレーター他)トークイベント
 「『ディエンビエンフー』:本当のマンガの話をしよう」
  司会:宮本大人(明治大学国際日本学部准教授)
  日時:2016年5月21日 16:00~17:30
  場所:明治大学 米沢嘉博記念図書館2階閲覧室
  料金:無料。但し別途会員登録料(1日会員300円~)が必要

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