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キセイは規制である。 沢山遼が評する「キセイノセイキ」展

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日本の若手作家を紹介するシリーズ「MOTアニュアル」の14回目、「キセイノセイキ」展が、東京現代美術館(東京・清澄白河)で開催されている。アーティスト組織「ARTISTS' GUILD」との協働企画として実現された本展は、現代の表現と社会のあり方についての問題提起を目指すもの。複数の作品が展示見合わせ、または作家の意図とは異なるかたちでの展示となり、議論を呼んでいる。同展について美術批評家・沢山遼がレビューを寄せる。

「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」展
沢山遼=評

 今年のMOTアニュアルは、「ARTISTS' GUILD(アーティスツ・ギルド)」と担当キュレーターの協働企画として開催された。アーティスツ・ギルドは、アーティストによる、作家活動や環境の向上を目指す芸術支援システムである。すでに本展に先だって「生活者としてのアーティスト」と題したイベントが同館で実施されており、準備段階では、アーティストの労働環境や生活に焦点が当てられた企画が準備されていたと推測する。しかしその後、周知の「会田家」作品撤去・改変騒動が勃発し、同館の作家への規制や圧力が問題となった。そこで企画内容が急遽練り直され(自主)規制や検閲をテーマとした内容に変更されたのだと推測する(以上はあくまで推測である)。

 すでに話題になっているように、本展では、展覧会がオープンしたあとの現在も、複数の作品が過剰に検閲され、展示されていないか、部分的に改変されている。

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藤井光《爆撃の記録》(2016)の展示風景 撮影=椎木静寧

 この事態に関して、展覧会タイトルを「キセイノセイキ」としてしまったことは致命的な欠陥である。タイトルが事前に決定されたものである以上、彼らの作品が、自覚的にキセイ(規制)を取り上げるものであり、それをある程度まで見越したものであることは明らかである。その結果、相も変わらず作家に過剰な検閲をかける東京都現代美術館の異様な体質が改めて可視化されているわけだが、一方で、この検閲自体、事前に予告された、演劇的なインストラクションの体をなす。

 このことが、遡って会田家や鷹野隆大の作品改変問題と混同されることがあってはならない。会田家と鷹野にとって、規制や介入は予期せざる「事件」であり、それは作者の主権と作品の権利や欲望をともに損なうものだ。そこに一切の不透明性はない。だが本展においては、作者の主権と作品の欲望とが奇妙に乖離したまま放置されている。たとえば小泉明郎は、白い壁面に照明を当て、そこに《空気》という題名をつけ、空虚=無を展示した。小泉はこのような作品を展示すべきではない。なぜなら、規制の痕跡であり、展示室内のそこかしこにある無=不在の現前に対して「作品」と同等の超越性を与えてしまうことになるからだ。規制すら、作品のアレゴリカルな函数として構造化されるのである。その結果、今後起こりうる様々な規制や摩擦が、作者の意図とは裏腹に作品が密かに欲望するところのものであると見なされるようになってしまえば、それは結果的に作者の主権を著しく損なうことになるだろう。

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上下2点とも、小泉明郎作品の展示風景より。上が《空気》(2016)、下は《オーラル・ヒストリー》(2013-) 撮影=椎木静寧

 美術館に展示されれば、有用なものもただちに無用な鑑賞物と化し、あらゆる行為が作品化される現況にあって、展覧会に先立ちタイトルをキセイとしてしまったこと、さらには規制や検閲の痕跡である無・空虚と作品を記号的に連関させてしまったことは、明らかな戦略上の失態である(キセイという語にさまざまな読解可能性があると言ったところで手遅れである)。すべてが予期されたパフォーマンスになってしまうのであれば、いまやあらゆるものをフィクションとして呑み込む美術館の権能がかえって強化されるだけだ。そのことに、彼らはどれほど自覚的なのだろうか。

PROFILE
さわやま・りょう 美術批評。1982年生まれ。

『美術手帖』2016年5月号「REVIEWS 04」より)

MOTアニュアル2016  キセイノセイキ
会期:2016年3月5日~5月29日
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
電話番号:03-5777-8600 (ハローダイヤル)
開館時間:10:00~18:00
休館日:月休(5月2日、5月23日開館)
URL:http://www.mot-art-museum.jp/


日本の若手作家の潮流を紹介する目的で継続的に開催されている企画展の14回目。今回は芸術表現の環境の向上を目的とし、映像機器の共有システムを基軸に活動するアーティスト組織「ARTISTS' GUILD」との協働企画とし、テーマや構成からともにつくりあげた。小泉明郎、橋本聡、藤井光、ダン・ペルジョヴスキ、横田徹ら10組の作家が参加。出品作のなかには作家と主催者側との協議により展示見合わせ、あるいは作家の意図とは異なるものであると表示がされている作品がある。企画担当は同館学芸員の吉﨑和彦。

 2016年5月17日発売の『美術手帖』2016年6月号では、「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」展に寄せて行った企画者と参加作家による鼎談を掲載。「アートと自主規制」について、小泉明郎、増本泰斗、藤井光に話を聞いた。なお、出品不可となった当初の《空気》(2016)は、小泉明朗展「空気」(無人島プロダクション、4月29日〜5月15日)で展示された。


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