3月23日より、日本近代絵画の巨匠・黒田清輝(1866〜1924)の大規模な展覧会が上野の東京国立博物館で始まった。生誕150年を記念した同展に合わせ、カラー図版満載の公式図録『生誕150年 黒田清輝──日本近代絵画の巨匠』も刊行。展覧会の様子と図録の見どころを紹介する。
生誕150年を迎える黒田清輝の回顧展、内覧会レポート

黒田清輝の代表作《湖畔》。全体が青系統の色でまとめられ、さわやかで透明感のある色彩が上品な印象を与える。美術の教科書で見たことがある人も多いだろう。箱根湖畔の風景の中に、着物姿の日本人女性が描かれた油絵だ。
西洋の画材・技法で描かれた日本の人物と風景。西欧の文物を取り入れ、ただそれらを真似るだけでなく、思想的な部分も含め咀嚼し、どのように日本の文化として吸収するか。この作品には、欧米列強と肩を並べる文明国を目指す近代日本の模索の姿が象徴的に表れている。日本の洋画表現を確立した人物、それが黒田清輝だ。

3月22日、特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」の内覧会が開催された。展示会場に足を踏み入れた瞬間に目に入るのは、黒田のもっとも有名な作品のひとつ《婦人像(厨房)》だ。厨房の窓から射込むやわらかな光が明るい色彩で描かれている。会場には、こうした代表作はもちろん、模写、手記などが並び、さらに黒田のアトリエや東京駅帝室用玄関壁画(戦災で焼失)を再現したコーナーもある。
会場は、第1章「フランスで画家になる─画家修学の時代 1884〜1893」、第2章「日本洋画の模索─白馬会の時代 1893〜1907」、そして第3章「日本洋画のアカデミズム形成─文展・帝展の時代 1907〜1924」で構成され、日本の洋画界に新たな息吹をもたらした黒田の画業を年代順にたどる構成だ。

レンブラントやミレーの作品模写などが展示される第1章では、黒田が熱心に西洋絵画を学んでいたことが伝わってくる。法律を学ぶためにフランスに渡ったものの、画学を志すようになった黒田は、現地での絵画作品の模写に加え、石膏や裸体モデルのデッサンも積極的に行っていた。当時の日記も展示されており、それらとともに作品を見ることで、黒田の美意識の一端に触れられる。
この章では、黒田が影響を受けた西洋の画家たちの作品も紹介されている。黒田の師であるラファエル・コランの代表作《フロレアル(花月)》や、ジャン=フランソワ・ミレーの代表作《羊飼いの少女》は、フランスのオルセー美術館の所蔵品だ。若き日の黒田が見たヨーロッパを知る上で、これほど説得力をもつ出品はないだろう。

第2章では、先に紹介した《湖畔》や《舞妓》など、黒田の代表作の数々を見ることができる。美術団体「白馬会」を結成し、当時センセーショナルな画題であった裸婦像を発表するなど、旧来の価値観や制度の壁にぶつかりながら、黒田が日本洋画の確立を目指し、奮闘したことがわかる。

この章では他に、戦災で焼失した黒田の大作《昔語り》の下絵なども展示。東京文化財研究所(黒田の遺言によって設立された帝国美術院附属美術研究所が前身)の長年にわたる調査研究によって明らかになった、作品制作の実態とその経緯についても紹介する。遺されたスケッチや模写、黒田の日記、そして最新の科学的調査から、名作が完成するまでの過程、作家の試行錯誤や苦悩が丁寧に読み解かれる。さらに、従軍画家としての側面や、肖像画家としての側面にもスポットが当てられている。

最終章で再現された黒田のアトリエには、遺品であるイーゼルと椅子、絵具箱が設置され、イーゼルの上には作品《林》が置かれている。《林》は、黒田が狭心症を発祥する前に着手したまま未完に終わったと推測される油彩画だ。イーゼルの前に立つと、つい先ほどまで黒田がそこで制作をしていたかのように感じられた。同じく今回パネルと映像で再現されている東京駅帝室用玄関壁画(戦災により焼失)も、鑑賞者を囲むような駅舎の構造をそのままに体感できる。

そして日本近代絵画の巨匠、黒田清輝の大回顧展の最後は、金地の背景に3人の裸婦が意味ありげなポーズで立つ謎多き名作《智・感・情》で締めくくられる。日本人の理想的な身体表現の近代以降のプロトタイプを提示した同作。黒田の生涯を通じた挑戦の数々を見てきた鑑賞者に、彼の成し得た偉業を雄弁に物語る。ぜひ会場で、作品から伝わる黒田の美術の熱い思いと時代の空気に触れてほしい。
ファン必携! 黒田清輝の作品集刊行。TSUTAYAでフェアも

この展覧会の公式図録として、『特別展 生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠』(美術出版社)が刊行された。A4サイズの本には、展覧会の全出品作に加え、関連図版がフルカラーで掲載されている。
見開きページを贅沢に使った作品掲載も多数。《智・感・情》は、折り込まれたページを広げて、女性一人につき1ページ分の大きさでじっくり鑑賞できる。一般の書籍として刊行されているため、通常の書店での購入、取り寄せも可能だ。


この図録の刊行を記念して、代官山 蔦屋書店(東京・渋谷)、梅田 蔦屋書店(大阪)、TSUTAYA TOKYO ROPPONGI(東京・六本木)の3店舗ではブックフェアを実施中。蔦谷書店限定のオリジナルトートバッグ付きで、図録の特別販売を行っている。
トートバッグは、トートバッグ専門ブランド「ルートート」が製作したもので、黒田のスケッチや書名のロゴがセピアのインクでさりげなくプリントされており、普段使いできるデザインになっている。今回の作品集がすっぽり入るサイズは実用性も高く、外側にスマートフォンや財布が入るポケットも。書店で購入後、そのまま作品集を入れて持ち帰ることができる。トートバッグが手に入るのは、3つのフェア会場のみ!

幕末に薩摩藩士の子として生まれた一人の男が、絵筆をもって切り拓きたかった日本の近代とはなんであったか。画家の作品と人間像に、展覧会、そして作品集を通じて触れてほしい。
場所:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9:30~17:00(金曜日は20:00まで、土日祝日、5月2日は18:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜(ただし、3月28日、4月4日、5月2日は開館)
入場料:一般 1600円 / 大学生 1200円 / 高校生 900円
URL:http://www.seiki150.jp/
展覧会公式図録:『特別展 生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠』
執筆:松嶋雅人、山梨絵美子、三浦篤 ほか
発行元:美術出版社
判型:A4変形判
ページ数:318ページ
価格:2315円(税別)
ISBN:9784568104875
ブックフェア開催店舗
◼︎代官山 蔦屋書店
住所:東京都渋谷区猿楽町17-5
電話番号:03-3770-2525
◼︎梅田 蔦屋書店
住所:大阪府大阪市北区梅田3-1-3 ルクアイーレ9F
電話番号:06-4799-1800
◼︎TSUTAYA TOKYO ROPPONGI
住所:東京都 港区六本木6-11-1 六本木ヒルズ六本木けやき坂通り
電話番号:03-5775-1515