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桂ゆきや草間彌生など、前衛女性を集めた展覧会が銀座で開催

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東京・銀座のNUKAGA GALLERYで10月12日より「Demythifying Japanese Women Artistsー女たちは神話をほどくー」と題された展覧会が開催される。本展では戦後日本を代表する4人の女性アーティストに焦点を当て、その価値を問い直す。

 本展は「Demythify」(脱神話化)という言葉に見られるように、加熱するアートマーケットで高騰を続ける草間彌生、田中敦子、名坂有子という作家の本質的な価値を問い直し、草間らより約20歳年長で先駆的・ユニークなアーティスト、桂ゆきと共に展示することで、日本の前衛女性アーティストの活動の多様性、豊饒さを再発見することを目的としている。

 監修を務めたのは栃木県立美術館で「揺れる女/揺らぐイメージ」(1997年)、「前衛の女性 1950-1975」(2005年)など数多くの展覧会で女性アーティストたちを取り上げてきた美術批評家の小勝禮子。

 会場では市場に流通することが希な桂ゆきの大作や、草間彌生の初期作品、田中敦子の未発表作品や名坂有子の海外展示作品などが一同に展覧される。

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草間彌生 点 1952 紙にパステル 37.8×29.8cm
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田中敦子 無題 1974 キャンバスに合成樹脂エナメル塗料 130×96.5cm © Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association
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名坂有子 無題 1967 布・塩化ビニールに合成樹脂系絵具・石膏・接着剤 61.5×75cm

Demythifying Japanese Women Artists
ー女たちは神話をほどくー 桂ゆき 草間彌生 田中敦子 名坂有子
会期:10月12日~11月2日
会場:NUKAGA GALLERY
住所:東京都中央区銀座2-3-2 3F
電話番号:03-5524-5544
開館時間:10:00~18:00
休館日:日
URL:http://www.nukaga.co.jp
※11月24日〜12月15日にNUKAGA GALLERY OSAKAへ巡回

次回ヨコハマトリエンナーレは「島と星座とガラパゴス」に決定

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2017年8月4日から88日間の会期で開催される「ヨコハマトリエンナーレ 2017」のタイトルが「島と星座とガラパゴス」(英題:Yokohama Triennale 2017 "Islands, Constellations and Galapagos")に決定した。10月11日に行われた記者会見では、同トリエンナーレの構想会議メンバーからスハーニャ・ラフェル、リクリット・ティラヴァーニャ、スプツニ子!、養老孟司、逢坂恵理子、柏木智雄、三木あき子が登壇し、同タイトルに込められた意味やコンセプトについて説明を行った。

 「ヨコハマトリエンナーレ」について逢坂恵理子横浜美術館館長は「21世紀に入り、世界各地でトリエンナーレやビエンナーレが急増した。なかでも日本は多い。ヨコハマトリエンナーレは模索しながら回数を重ね、都市型芸術祭として成長してきた」とその歴史を振り返りながら、「2001年の第1回から15年の間で世界は急速なスピードで変化しており、それは個々人の生活にも影響を与えてきた。国やジャンルを横断したチームワークを組み、直面する課題をアートを通じて考えるようなトリエンナーレにしたい」とその目標を語った。 

 タイトルに冠された「島と星座とガラパゴス」を構成する「島」「星座」「ガラパゴス」は、孤立や接続性、想像力や指標、独自性や多様性など多角的な捉え方ができるキーワードだ。紛争や難民問題、英国のEU離脱などで大きく揺れる世界情勢と、SNSの急速な発達による「島宇宙化」、大国や中央集権の論理に抗うような小規模共同体の活発化などを背景に、世界の「接続性」と「孤立」について様々な角度から考え直すもの。

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イメージビジュアルは東京とニューヨークに拠点を置くクリエイティブ・ラボ、PARTY(川村真司・室市栄二)が担当。「ガラパゴス」を象徴する存在として、ガラパゴスゾウガメをイメージに取り込み、日本の伝統文様である「亀甲紋」を組み合わせてデザイン。古代インドの宇宙観を表す「世界亀」の構想を得て、亀の上に横浜の町並みを配置している

 構想会議のメンバーで、M+(香港に2019年開館予定)のエグゼクティブ・ディレクターに就任するスハーニャ・ラフェルは、このタイトルについて「スリランカで生まれ、オーストラリアでキュレーションのキャリアを積んできた私にとって、自分の生活とキャリアは島を中心に形成されてきた。アジア・太平洋地域のアーティストと仕事をしてきた経験から、多島海はとても身近なコンセプト」と自らのこれまでを振り返りながら、次のように語った。

「トリエンナーレやビエンナーレはその数が増えているだけではなく、マルチセントリック=複数の中心地で開催されるようになっている。目的も多様化しており、美術にとどまらず、様々なジャンルを横断していくことに関心が移っている。ヨコハマトリエンナーレは海外のキュレーターにとって、日本で最も重要で、関わりたいと思う国際展。回を重ねるごとに日本的な視点を、ユニークなアプローチで継続的に発信していることが魅力。今回のタイトルは日本についてだけでなく、日本と世界の関係性を現代美術を通じて考えるとき、いろいろな可能性を開いてくれるものだと思う」。

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左から 記者会見に参加したスハーニャ・ラフェル、リクリット・ティラヴァーニャ、スプツニ子!。「チームで国際展をキュレーションしていく方法は国際的に増加傾向」とラフェルは語る

 多島海のような地域、文化圏のあり方や保守化する世界、閉鎖環境における独自進化と多様性などに対し、人間の想像力(創造力)がどのような可能性を拓くのか。「ヨコハマトリエンナーレ 2017」では0と1で構成される、デジタル的な視点では把握できない世界の複雑さや奥深さ、つながりを捉え直し、何を未来の知恵としていくべきなのか、多くの人々とともに考える場になることを目指すと言う。

 なお同トリエンナーレでは2017年1月より「ヨコハマラウンド」と題し、幅広い分野の専門家を迎え、「島」「星座」「ガラパゴス」から想起される諸問題や可能性について、シリーズで会議を実施してくという。

 新たな国際展が次々と生まれるなか、どのような「ヨコハマトリエンナーレらしさ」を打ち出していくのか。来春発表予定の参加アーティストのラインナップとともに、大きな注目が集まる。

ヨコハマトリエンナーレ 2017
会期:2017年8月4日~11月5日
会場:横浜美術館 / 横浜赤レンガ倉庫1号館
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1 / 横浜市中区新港1-1-1
休館日:第2・4木
URL:http://www.yokohamatriennale.jp

横浜・BankARTで柳幸典の関東圏初大規模個展が開催!

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横浜・みなとみらいのBankART Studio NYKにて、全館を使った個展シリーズの第5弾として、柳幸典による関東圏初の大規模個展「ワンダリング・ポジション」が開催される。会期は10月14日~12月25日。

 1980年代より、美術館の内外で、ユーモアと批評性を備えたユニークな作品を発表してきた柳幸典。多くの国際展に参加し、ニューヨーク近代美術館にも作品が収蔵されるなど、ニューヨークを拠点として国際的な活動を展開してきた。一方で、国内では瀬戸内海の離島、犬島や百島で、銅精錬所や廃校を美術館として再生するプロジェクトも行ってきた。

 本展では、1993年のヴェネチア・ビエンナーレでも受賞した、透明な容器に色砂を入れて国旗を描き、その中でアリを飼う代表作「ザ・ワールドフラッグ・アント・ファーム」シリーズのほか、犬島で展開されている作品群のコンセプトモデルなどを展示。「ゴジラ」から着想を得た大型の新作も発表される。

 展示タイトルの「ワンダリング・ポジション」とは「さまよえる位置」の意。まるで「彷徨」するかのように変幻自在な活動を繰り広げる柳の、30年間を総覧する構成だ。

柳幸典「ワンダリング・ポジション」
会期:2016年10月14日~12月25日
会場:BankART Studio NYK全館
住所:横浜市中区海岸通3-9
電話番号:045-663-2812
開館時間:11:00~19:00
休館日:会期中無休
入館料:一般 1200円 / 大学生・専門学生・横浜市在住者 900円 / 高校生・65歳以上 600円
URL:http://bankart1929.com/

地域と宇宙をつなぐ! 種子島宇宙芸術祭が2017年夏に開催

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2017年8月5日〜11月12日、鹿児島県・種子島で「第一回種子島宇宙芸術祭」が開催される。日本で唯一大型ロケットの発射場を持つ同島にふさわしく、「宇宙芸術」の作品が紹介される本芸術祭。島の自然や地域とのつながりを通して、地球や宇宙についての思考を促す、壮大なテーマの芸術祭だ。10月8日に行われた記者会見では、総合ディレクターの森脇裕之、参加アーティストの椿昇、委嘱アドバイザーのJAXA・内富素子が説明を行った。

「宇宙芸術」とは、科学技術や自然を結びつけながら、宇宙をテーマに行われる表現活動を指す。2014年に東京都現代美術館(清澄白河)で開催された「ミッション[宇宙×芸術]─コスモロジーを超えて─」展や、現在、森美術館(六本木)で開催されている「宇宙と芸術展」(2017年1月9日まで)など、近年注目を集めているテーマのひとつ。

 種子島では、JAXA種子島宇宙センターとの協働によって、12年度から毎年、種子島宇宙芸術祭のプレイベントを開催。小学生を対象としたワークショップやアーティスト・イン・レジデンスによる作品制作など、多様なかたちで宇宙芸術が紹介されてきた。今年の8月6日~9月19日には、「種子島宇宙芸術祭プレイベント 2016」を開催し、河口洋一郎、木村崇人、小阪淳、高橋士郎、中江昌彰が作品を出品した。

 本年11月11日~14日には、同プレイベントの一環として、「千座の岩屋」と呼ばれる種子島の洞窟を舞台に、プラネタリウム・クリエイターの大平貴之によるプラネタリウム「MEGASTAR-Ⅱ」を投影するイベント「星の洞窟」が行われる。海岸に面した自然洞窟の「千座の岩屋」は、干潮時にのみ最奥部に立ち入ることができるという。波の音や潮の香りのなかで、凹凸のある壁面に映すプラネタリウムが、神秘的な空間を現出させてくれるにちがいない。潮の動きを見計らって行われるため、開催時間は日によって異なる。事前に確認して鑑賞したい。

 17年夏の「第一回種子島宇宙芸術祭」は、JAXA種子島宇宙芸術センター、地域の行政とも連携し、「自然と科学と芸術の融合」をテーマに開催される。現時点で決定している参加アーティストは開発好明、河口洋一郎、木村崇人、佐竹宏樹、椿昇で、今後順次追加される予定だ。森脇裕之は、「作風、コンセプトを総合的に解釈し、選定するキュレーションというよりは、種子島でのコラボレーションを楽しめるかどうか、という意識で、アーティストに声をかけさせていただいた」と語った。

 また、作品鑑賞やワークショップだけでなく、地域との連携による島の活性化にも重点が置かれる。地域の人材を発掘するイベント「種子島大学」や、島内の文化や資源を紹介する「宇宙芸術サマースクール」、廃校を活用した「星空カフェ」などが開かれる。島外の観光客を誘致するために、屋久島など近隣の島を取り入れた旅のモデルコースも提案していく。椿昇は、「2泊3日ぐらいをかけて、じっくりと芸術祭を楽しんでほしい」とコメントした。

「地域とだけでなく、時空を超えて地球や宇宙とつながれる芸術祭は、種子島でなければできないのでは、と考えた」と森脇が語る本芸術祭。宇宙という普遍的なテーマを扱った芸術祭がどんなかたちで実現されるのか、期待が集まる。

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「種子島宇宙芸術祭」の記者会見の様子。右から、内富素子、森脇裕之、椿昇
第一回種子島宇宙芸術祭
会期:2017年8月5日〜11月12日
会場:種子島(鹿児島県)の各所
電話番号:0997-26-1805(種子島宇宙芸術祭実行委員会事務局)
URL:http://space-art-tanegashima.jp
種子島宇宙芸術祭プレイベント 2016「星の洞窟」
会期:2016年11月11日〜14日
日時:21:00〜23:00(11日)、21:30〜23:30(12日)、22:30〜24:30(13日)、23:00〜25:00(14日)
会場:鹿児島県熊毛郡南種子町「千座の岩屋」
料金:一般 1,000円 / 小人(小学生) 500円 ※小学生未満は無料
電話番号:0997-26-6513(種子島宇宙芸術祭実行委員会、合同会社マイマイ企画内)
URL:http://space-art-tanegashima.jp/related/2016/0626/152601.html

来夏開館の富山県美術館、新ロゴマークは永井一正がデザイン

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ピカソをはじめ、ミロ、ウォーホール、草間彌生など、20世紀から今日までを代表する有数のアートコレクションを誇る富山県立近代美術館が2017年8月26日に「アート」と「デザイン」という2つのコンセプトを融合させ、「富山県美術館」として開館する。それにともない、新たなロゴマークおよびロゴタイプが発表された。

 ロゴマークおよびロゴタイプの制作は、グラフィックデザインの世界でこれまで数々の作品を手がけてきた永井一正によるもの。同館は近代美術館として開館以降、ポスターや図録等の企画展印刷物を永井のデザインで一貫して制作しており、富山美術館は、近代美術の蓄積を継承して美術館活動を展開することから、これまでの活動を象徴する永井に制作を依頼したという。

 新ロゴマークは、TOYAMAの頭文字「T」をベースにコンセプトである「アート」「デザイン」の「A」と「D」で構成。白く輝く立山が映える空の色と、富山湾の深いブルーをイメージし、富山の美しさを内包するマークとなっている。またロゴタイプはロゴマークの形状を踏まえ、縦型になっている。

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富山県美術館の新ロゴマーク

 同館の設計は安曇野ちひろ美術館や茨城県天心五浦美術館などを手がけてきた内藤廣が担当。富岩運河環水公園という運河の記憶を残す公園の一角に、巨大な船のようなかたちが出現する。美術館の東向きの一面はすべてガラスで覆われ、立山連峰に開かれた空間になっている。また屋上の芝生広場は、グラフィック・デザイナーの佐藤卓がアートディレクションをしており、数多くの遊具が用意されるという。

心の傷を"継ぐ"アーティスト・渡辺篤インタビュー 前編

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東京藝術大学在学中から自身の体験に基づく、傷や囚われとの向き合いを根幹とし、かつ、社会批評性の強い作品を発表してきたアーティスト・渡辺篤。卒業後は路上生活やひきこもりの経験を経て、2013年に活動を再開した。「引きこもり」「傷」「鬱」など自身の経験をもとに、作品づくりに取り組んできた渡辺が、10月1日から始まった「黄金町バザール2016ーアジア的生活」に参加し、さまざまな人の「心の傷」をウェブ上で匿名で募集し、新プロジェクトとして発表する。その作品やアーティストとしてのルーツなどを前後編に分けてお届けする。

──今回初めて参加する「黄金町バザール」では、「金継ぎ」(陶磁器の破損部分を漆で接着して、金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法のひとつ)の技法を使った新しいプロジェクト「あなたの傷を教えて下さい。」が発表されました。ネット上で匿名の人々から「心の傷」を募集し、それをコンクリート板に書き、割って、さらに金継ぎをするというプロセスを踏みますが、これはどこから着想されたのでしょうか?

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《女の子に生まれてしまった。》コンクリートに金継ぎ、塗料 2016割ったあとに金継ぎされたコンクリート板。ここに書かれた言葉はすべてネットで募集して届いた匿名の声だ ©ATSUSHI WATANABE

 インターネットに軸足を置いたプロジェクト、展示場所に依存しないものがやりたかったんです。僕自身が、過去に深刻な引きこもりをしていて、過去の個展では、引きこもりの当事者に向けて、部屋の写真、彼ら彼女の住んでいる部屋の写真を募集したこともあります(2014年の個展「止まった部屋 動き出した家」で)。インターネットを通して、誰かの当事者の声やその状況を募集するというのは、引きこもりをしていたときに「ニコニコ生放送」をずっと見ていて、そこで引きこもりが多くいるという実感を手に入れたことがあるから。

 24時間、どの放送にいっても、引きこもり当事者のような立場からのコメントが流れてきていました。(僕自身が引きこもりだったのに)自分だけが「蜘蛛の糸」を昇りきってしまった存在だと思っていて、「囚われ」から実社会に戻ってきてしまったという経験から、インターネットの向こう側にいる誰か(それはもしかしたら引きこもってたり、もしかしたら病気で寝込んでるかもしれない誰か)と、つながりたいと思ったんです。それでインターネットを通したプロジェクトを今年の春ぐらいから始めました。

──今年はNHKの福祉番組『ハートネットTV』(6月27日放送)にも出演され、そこでも作品制作の過程が放送されていましたね。

「あの番組(の視聴者)には傷の当事者がいるだろうな」と思って出演しました。「あなたの傷を教えて下さい。」はライフワークとしてやりたいプロジェクトなんです。それをまずインスタレーションで展示すると。それに今回の「黄金町バザール」はアジア人作家が多く参加しているんですよ。彼らの母国語で、彼らの国のSNS上のつながりを通して、募集文の拡散を別の原語でしてもらえればと今動いているんです。アジア各国の言葉での募集文を集めたいなと。

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金継ぎをする渡辺。筆で丁寧に傷を装飾していく

──修復技法の金継ぎを作品に使うというアイデアは、いつ頃からあったものなんでしょうか。

 昔ある喫茶店に行ったときに、洋食器なんだけれども欠けていた縁のところが金継ぎされていて、そこで知りました。僕自身が金継ぎ教室に通っていた時期もあって、いつか作品に使いたいという気持ちはあったんです。今回の金継ぎは、傷ついた人と並走する立場になって、当事者の生の言葉を作品にし、それがその当事者にとって何かが変わる、もしくはその傷を癒したり、囚われを乗り越えたりするきっかけになればいいのかなって。そんなことから金継ぎがふさわしいなと思いました。

──金継ぎする作品にはコンクリートが使われています。2014年の個展「止まった部屋 動き出した家」において、渡辺さんはコンクリートで一畳サイズの自室を制作し、そのなかで1週間過ごした後、内側から壊して脱出する、というパフォーマンスを行いました。コンクリートにこだわる理由はなんでしょうか?

 僕自身や、ほかの引きこもりの方もそうだと思いますが、外部との壁の厚み、内向的な意識と外とのギャップは心理的にはコンクリートのような分厚さです。当時その展覧会では5センチの厚みで壁をつくっていますが、自分の囚われの重たさとか、隔たり、重厚感、無彩色などの理由からコンクリートを選びました。今回もそれは連続しています。

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今回の個展は展示室AとBの2部屋で構成。Aには募集した声をもとにした作品が壁面にずらりと並び、それらは木の幹のように金継ぎの線が繋がっていくように掲げられる。またBは渡辺自身の過去を振り返るように、引きこもり時代に蹴破った実家のドアの再現作品などが並ぶインスタレーションとなっている

──引きこもりの体験というのは、今振り返ってみると渡辺さんにとってどういったものだったのか、また引きこもりでなかったならば、自分はどうなっていたかを想像したことはありますか?

 もともと僕は2003年から2012年の約10年間、鬱だった時期があって、最後の3年間を引きこもってたんです。その当時のメンタリティを今の僕はもうどこか忘れてしまっているところがあって、だからこそああやって再現的にパフォーマンスをやった(2014年の個展)ところもあるし、生きるのが楽になっちゃったんですよね。

 引きこもりを終えてから2年くらいの猶予期間があって2014年に復帰してるんですが、当時僕は一生その部屋から出ないぐらいの意識で引きこもりをしていました。だから現世に戻ってきた僕は、その立場からつくれる作品をつくらなきゃいけないっていうような気がしたんです。自分の当事者としての経験をまず作品にしなきゃいけない。引きこもりや自傷行為のような意識はサナギの時間だったとも思うし。そのとき手に入れた思考回路で、何かを発信して誰かに万が一プラスの情報を提供することができるなら、それはいい回り道だったなと思いますね。だからその引きこもりや鬱の時間がなかったら、つくる作品は確実に違っていたと思います。

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2014年の個展「止まった部屋 動き出した家」の様子。「家の形の造形物自体が、その床を水面に見立てて、床の中に落ちています。それは津波で流されている様子でもある。生死が問われるような状態で引きこもっている状態というのは、実際に東日本大震災が起きた東北でも起きていて、家と一緒に流された人や、震災をきっかけに引きこもりをやめた人もいる。そういう究極の選択の状態を、展覧会場のビジュアルとして用意したかった」と語る
©ATSUSHI WATANABE Photo by KEISUKE INOUE Courtesy of NANJO HOUSE

──今回の「あなたの傷を教えて下さい。」ではネットを通じで匿名のメッセージを受け取ることが作品制作の前提です。メッセージの種類は多種多様で、そのインパクトもさまざまだと思いますが、渡辺さんはどういうお気持ちで受け止めているのでしょうか?

 アシスタントの中には「人の傷ばっかり見ていたら、渡辺さんも落ち込んだり、心が振り回されたりしませんか? なんでわざわざこんなことをやってるんですか?」って聞く人もいる。差別される者や弱い者をちゃんとすくいとり、日常のスピード感では感じ取れない人の傷、ノイジーなこの社会では聞き取れない繊細な声をちゃんと聞くことが必要です。

 例えば日常的に声かけをするとか、人の傷を想像できる感覚を僕は手に入れたいと思うし、そういう装置になるような作品をつくることが、今回匿名で募集していることの意味です。大声じゃ言えない傷だとも思うんですよ、多くの傷が。だからこそ僕はそれを美術の形式のなかで見せることに、意味があると思っています。僕自身、今回のような思考を作品化することは、今の日本社会にとってハードルの高いことだとも思ってますが、こういうのを堂々とやることが、社会には必要だと思って、チャレンジしています。

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渡辺のホームページではいまもなお「心の傷」の募集が続けられている。また「黄金町バザール」の会場でも「心の傷」を紙に書いて投書できる

PROFILE
わたなべ・あつし 1978年神奈川県生まれ。2007年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。2009年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修了。主な展示に2014年「ヨセナベ展」(Art Lab Akiba)、同年「止まった部屋 動き出した家」(NANJO HOUSE)など。

黄金町バザール2016ーアジア的生活
会期:2016年10月1日~11月6日
会場:京急線「日ノ出町駅」から「黄金町駅」間の高架下スタジオ、周辺のスタジオ、既存の店舗、屋外ほか
電話番号:045-261-5467
開館時間:11:00~18:30
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)
入館料:展示期間中有効のパスポート500円(高校生以下は無料)
URL:http://koganecho.net/koganecho-bazaar-2016
参加アーティスト:康 雅筑(カン・ヤチュウ)、津川奈菜、曹明浩+陳 建軍(ツァオ・ミンハオ+チェン・ジェンジュン)、西野正将、ピヤラット・ピヤポンウィワット、ファン・レ・チュン、プラパット・ジワランサン、ユ・ソンジュン、渡辺篤、Atsuko Nakamura、秋山直子、イクタケマコト、井上絢子、一級建築士事務所AT/LA 青島琢治、岡田裕子、小畑祐也、カルビン・バーチフィール、木村有貴子、ギャラリー・サイトウファインアーツ(加藤さとみ、齊藤等)、久保萌菜、栗原亜也子、劇団!王子の実験室+G/9-Project、さかもとゆり、椎橋良太、ジェシカ・フ、杉山孝貴、studio BO5 干場弓子、Slippage、竹本真紀、丁昶文(ティン・チャンウェン)、陳亭君(チェン・ティンチュン)、陶韡(タオ・ウェイ)、西倉建築事務所 西倉潔、葉栗翠、原田賢幸、村田真、ムン・ユミ、スザンヌ・ムーニー、メリノ、本村桜アリス、山田裕介、山本貴美子、ユニス・ルック、楊珪宋、吉本直紀、un:ten(伊東純子)、椎橋良太+岩永かおる、横浜市立大学 鈴木研究、環境デザイン・アトリエ、シキナミカズヤ建築研究所、阿川大樹、阿川大樹、パーシモンヒルズアーキテクツ、環境デザイン・アトリエ+イシマル建築設計室

インテリアデザイナー森田恭通、ヌード作品で日本初個展を開催

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2015年11月、パリで自身初の個展を行ったインテリアデザイナーの森田恭通が、南青山に誕生するアートサロン「SCÉNE(セーヌ)」のオープニング企画として、日本での初個展「Porcelain Nude」を開催する。自身が内装を手がけたスペースで見せる新たな森田恭通の一面とはー。

 日本のみならず、香港やニューヨークなど世界各国でインテリアデザイナーとして活動する森田恭通だが、本展で見せる作品はそのイメージとはまったく異なるものだ。展覧会タイトルにある「Porcelain Nude」の「Porcelain」とは「磁器」を意味する言葉。

 森田は同シリーズについて、「デザイナーの立場で、以前から自分のデザインしたインテリアに合うモノクロームの抽象的な写真を探していたときに、限られたものしかないと感じていて、写真もずっと撮っていたし「自分で撮るか」となって撮ったのが今回展示する「Porcelain Nude」です」(SCÉNE座談会より引用)と語っている。

 ライフワークとして撮り続けていきたいという「Porcelain Nude」で写し取られるのは、被写体の固有性が分かる顔などを除いた、抽象性と匿名性の高い部分。そこにはヌードに普遍性を感じ取る森田の意識が強く現れている。本展では400×600mmのゼラチンシルバープリント(ユニーク)を21点発表予定。

 自身もこれまでアートバーゼルなどで美術作品を購入するなど、アートの世界とは親和性が高かった森田恭通。今後はパリで行われるフォトフェア「Paris Photo」(11月10日〜13日)や東京で開催される「ART PHOTO TOKYO」(11月18日〜20日)への参加が決まっており、その動向から目が離せない。

YASUMICHI MORITA PHOTO ART 2016
"Porcelain Nude"
会期:10月14日~10月27日
会場:SCÉNE
住所:東京都港区南青山3-15-6 Ripple Square D-B1
電話番号:03-6721-1368
開館時間:13:00~19:00(金曜〜21:00)
休館日:日月祝
URL:scenetokyo.com

万博記念公園にアートが出現「おおさかカンヴァス2016」開催

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大阪の街全体を「カンヴァス」に、作品を展示する「おおさかカンヴァス2016」が、10月22日〜30日に開催される。公募で選抜された6組のアーティストによる作品が、万博記念公園内の太陽の広場を中心に設置される。

 公共空間とアートのコラボレーションによって、アーティストの作品を発表する場を提供し、都市の魅力を創造・発信する「おおさかカンヴァス」は今年で7回目を迎え、中之島、道頓堀、大阪城など、メインとなる展示エリアを変えながら、大阪の街をアートで彩ってきた。

 今回は、特別審査員にアーティストの増田セバスチャンを迎え、6人の審査員によって公募から選ばれたアーティスト6組による作品と大阪芸術大学との連携企画作品が、万博公園内にある太陽の広場を中心に設置される。

 風景に関わるインスタレーション作品を制作する井口雄介は、太陽の塔を取り込んで映す巨大な変形万華鏡《KALEIDO-SC@PE》を、「かぶりもの」アーティストのニシハラ☆ノリオは、地面に向かって頭を入れられるオブジェ《太陽の根っ子のカブリくち》を発表するなど、「太陽の塔」やその作者である岡本太郎を題材にした作品ラインナップとなっている。

 また、松蔭中学校・高等学校美術部によるバルーンを使った巨大な福笑いや、木崎公隆と山脇弘道のアートユニットYotta(ヨタ)が制作した、大砲型ポン菓子機を車両に搭載した作品《穀(たなつ)》を動かして実際にポン菓子をつくるなど、パフォーマンスも予定されている。

おおさかカンヴァス2016
会期:2016年10月22日~10月30日
会場:万博記念公園「太陽の広場」/EXPOCITY/万博記念公園駅
住所:会場により異なる
電話番号:06-6210-9306
開園時間:9:30~17:00(入園は16:30まで)
入園料:大人 250円 / 小中学生 70円(※EXPOCITYと万博記念公園駅での作品観覧は無料)
URL:http://osaka-canvas.jp/

【参加アーティスト】
井口雄介/松蔭中学校・高等学校美術部/種(天王寺学館高等学校芸術コースを中心とした若手美術集団)/ちびがっつ/ニシハラ☆ノリオ/Yotta/大阪芸術大学

東京都、都立美術館の写真撮影解禁へ舵? 各美術館の反応は

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東京都立の美術館・博物館での作品写真撮影に関して、東京都は5日に行われた都議会本会議において、自民党・早坂義弘議員の質問に答えるかたちで「解禁」の姿勢を打ち出した。実現すれば大きくな方向転換となるが、実現の可能性は果たしてどれくらいあるだろうか。

積極的に呼びかけへ

 今回の写真撮影に関する問題は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、「レガシー(遺産)として都立美術館・博物館の写真撮影解禁を提案したい。事情ある作品のみ一部禁止の方向へ大きく舵をきってもらいたい」という議員の質問が発端となった。

 小池百合子都知事も「私は全然オーケーだと思っている」と同意の姿勢を見せたこの問題。これまで都立の美術館・博物館では館ごと、あるいは展覧会ごとに異なるルールを設け、場合によっては撮影可能としてきた。しかしながら、企画展で海外や他の美術館、あるいは作家から作品を借りる場合、著作権等の問題をクリアする必要があるため、撮影不可とする場合が多いのが実情だ。

 この撮影解禁に関し、都立美術館・博物館を所管する東京都生活文化局は、「撮影機会を増やすよう(館への)呼びかけを積極的にしていく」としながらも「(撮影の際の)シャッター音で過去に苦情があったのも事実なので、そこをどう配慮するかが課題」と回答。「2020年までに(方策を)一つひとつ考え、各館に声をかけていく」としている。

現場の反応は

 では、実際の現場はこの「撮影解禁」をどう受け止めているのだろうか。今年、改修を終えてリニューアルオープンした東京都写真美術館は、これまで来館者から作品の写真撮影に対する要望は「あまりなかった」としながらも、撮影については「著作権について勘案しながら、前向きに検討していきたい」としている。

 また、海外の美術館展などを数多く開催する東京都美術館は、「今年度の自主企画展「木々との対話」で一部実施したところ、多くの方からおおむね好評をいただいている」と撮影に対する好感触があったことを認めつつも、全面解禁については「著作権者や借用先の意向によります。当館の場合、特別展の作品借用先が外国の美術館や所蔵家が多いのですが、今後は関係者に働きかけていきたいと思います」と回答。

 現在、改修休館中の東京都現代美術館はこれまでも全面的に撮影を禁止するのではなく、一部写真撮影可とする対応をとってきた。来館者からは「『写真撮影させてほしい』『写真撮影が鑑賞の妨げになる』」という賛否両論があり、撮影解禁については「他のお客様の鑑賞の妨げ、ご迷惑にならないような配慮が必要と思われます。著作権の保護を遵守しつつ、展覧会ごとに、できる限り対応してまいります」とコメントしている。

 現実的に、借用先との契約という実務的な問題と、マナーの問題が大きなハードルとなる美術館での作品撮影。2020年までにどのような具体策が練られていくのか、注視していきたい。

杉本博司が異色の3人とタッグ、舞台『肉声』が11月に上演

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現在、東京都写真美術館で大規模個展「杉本博司 ロスト・ヒューマン」(〜11月13日)を開催している杉本博司は、写真作品だけでなく、これまで『杉本文楽 曾根崎心中付り観音廻り』(2011年初演)や、野村万作×萬斎×杉本博司・三番叟公演『神 秘 域 OUR MAGIC HOUR』(同)など、古典をベースにした舞台美術とのコラボレーションを行ってきた。そして今回、新たな挑戦となる舞台『肉声』を3人のスペシャリストとともに手がける。

『肉声』は、20世紀のフランスで詩人・小説家・劇作家・評論家として活躍したジャン・コクトーの戯曲『声/La Voix Humaine』(1930年にコメディ・フランセーズにて初演)を下敷きにした舞台。構成・演出・美術を杉本博司が手がける本公演では、設定を日本の昭和初期に置き換え、まったく新しい作品として生まれ変わらせるという。杉本は『肉声』について次のようなコメントを寄せている。

私はこのコクトーの「声」を、日本の昭和15年に置き換えてみようと思った。そしてモチーフとして建築家堀口捨己の設計したモダニズム邸宅に住む愛人を設定した。堀口は実際、資産家の施主の為に妾宅を設計している。そこに住む愛人は、その趣味がフェンシングと水泳という、当時のモダンガールだった。私は平野啓一郎氏に「声」の翻案と脚本化を依頼した。はたして完成した台本は原曲から遠く飛翔したものとなった。私はこれを翻案ではなく本歌取りと呼ぶことにした。本歌取りとは時に原曲を裏切り、別次元に昇華させる、日本文学の古典に伝わる麻薬的手法だ ステイトメントより引用

 作・演出を手がけるのは、『日蝕』や『マチネのあとに』などで知られる小説家の平野啓一郎。平野は1930年頃に堀口捨己が設計した、とある邸宅の写真からイメージを膨らませ、脚本を書いたという。主演は女優の寺島しのぶ。節付・演奏には世界的に活躍するバイオリニスト、庄司紗矢香を迎えるなど、異色かつ豪華なメンバーが会する本公演。杉本の用意した舞台上でどのような物語が紡がれるか、注目したい。

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堀口捨己 建築作品を舞台用に加工したもの 撮影=渡辺義雄

舞台『肉声』
日時:11月25日~27日
会場:草月ホール
住所:東京都港区赤坂7-2-21
開演時間:25日 19:00〜、26日 14:00〜 / 18:00〜、27日 14:00〜
追加チケット:S席 6000円 A席 5500円 ※10月22日より各プレイガイド(ぴあ・ローソン・イープラス)で発売
当日券:S席 6500円 A席 6000円 ※各公演とも開演1時間前より、劇場受付にて販売

前澤友作コレクションを中心に、限定公開のジャン・プルーヴェ展

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20世紀を代表するデザイナー・建築家のひとり、ジャン・プルーヴェの仕事を紹介する展覧会「the CONSTRUCTOR ジャン・プルーヴェ:組立と解体のデザイン」が、フランス大使公邸(東京・南麻布)にて開催される。10月22日〜24日のみの限定公開(要事前予約)。

 ジャン・プルーヴェは、1901年フランス生まれのデザイナー・建築家。自らを「Constructor(建設家)」と称し、デザインだけでなく製造や施工のプロセスも重視した生産システムを生み出して、家具生産や建築の工業化に大きな役割を果たした。 工業製品としてのクオリティと高い造形性を兼ね備えたその作品は、同時代を生きたル・コルビュジエに賞賛され、ノーマン・フォスターやレンゾ・ピアノにも影響を与えた。

 本展では、プルーヴェの仕事を、家具と建築の2つの側面からひもといていく。代表作「スタンダード・チェア」や「シテ」シリーズを始めとした約60点の家具に加え、プルーヴェ建築に特徴的な建築部材を、縮小モデルや資料写真とともに紹介。屋外では、プレハブ工法の早い実践例である組立住宅《F 8×8 BCCハウス》(1941-43)が日本初公開される。世界に2点しか現存しないこの組立住宅は、実際に中に入って鑑賞することができる。

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ジャン・プルーヴェ F 8x8 BCC 組立住宅 1941
© Galerie Patrick Seguin
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ジャン・プルーヴェ F 8x8 BCC 組立住宅(内部イメージ) 1941
© Galerie Patrick Seguin

 国内では過去最大級の規模となる本展を主催するのは、現代芸術振興財団(CAF)。「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの代表取締役でアートコレクターでもあり、同財団の会長も務める前澤友作のコレクションを中心として構成される。当初は10月22、23日のみ公開の予定だったが、好評につき24日まで延長が決定。現在、追加分の予約を受付けている(予約は「Peatix」から)。

the CONSTRUCTOR ジャン・プルーヴェ:組立と解体のデザイン
会期:2016年10月22日〜24日
会場:フランス大使公邸
住所:東京都港区南麻布4-11-44
開館時間:10:00~17:00(最終入場16:30)
入館料:無料(完全予約制)
URL:http://the-constructor.peatix.com/

「蜘蛛の糸」から紡がれる魅惑の展覧会、豊田市美術館で開催

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8本の足、毛むくじゃらの体、すばしこい動き。その姿からしばしば人に嫌われるクモだが、その紡ぐ糸は繊細で美しく、神秘的な造形美を生み出す。「蜘蛛の糸」というモチーフをテーマに、国内を中心として江戸から現代までの多様な表現を集めた「蜘蛛の糸」展が開催される。豊田市美術館にて、10月15日〜12月25日。

 はるか昔から進化を続けてきたというクモは、まだまだ謎の多い生き物だ。なかでもクモ自身がつくり出す糸は特別な性質を持っており、科学の世界でも注目されている。空間を編成し、獲物を捕らえる罠として、また自身の命綱として、強い機能性を果たす糸は、その一方で人の手によって簡単に壊されてしまう。そんな謎に満ちた性質を持つ蜘蛛や蜘蛛の糸の象徴性、神秘性は、古くから芸術家たちの心をつかんできた。

 本展では、国内の作品を中心に、絵画、彫刻、工芸、写真、映像、絵本、インスタレーションなど、ジャンルを問わず、蜘蛛の糸というテーマから展開される多様な表現を紹介。蜘蛛や蜘蛛の糸をよく観察し、描写した作品から、蜘蛛の糸のイメージや象徴性を生かした作品、そして芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』をめぐる作品など、その表現の仕方はそれぞれだ。「蜘蛛の糸」というキーワードを通して、日本人の美意識や個々の作家の眼差しに触れることができる。

 会期中には、日本アニメーションの先駆者と評される政岡憲三と大藤信郎の短編アニメーション作品の上映会も予定されている。また、特別講習会やギャラリートークも開催予定だ。

蜘蛛の糸 クモがつむぐ美の系譜―江戸から現代へ
会期:2016年10月15日~12月25日
会場:豊田市美術館 展示室1-4、8
住所:愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1
電話番号:0565-34-6610
開館時間:10:00~17:30(入場は17:00まで)
休館日:月休
入館料:一般 1000円 / 大高生 800円 / 中学生以下無料
会期中、一部展示替えあり
前期展示:10月15日〜11月20日、後期展示:11月22日〜12月25日


【関連プログラム】
講演会「クモの賢さと美しさ」
講師:奥本大三郎(フランス文学者、埼玉大学名誉教授、NPO日本アンリ・ファーブル会理事長、ファーブル昆虫館館長)
日時:10月29日 14:00〜15:30
会場:美術館1階講堂
定員:172名、先着順


講演会「小袖にみるクモの巣文様」
講師:藤井享子(東海大学、群馬県立女子大学非常勤講師)
日時:12月17日 14:00〜15:30
会場:高橋節郎館内ワークショップルーム
定員:50名、先着順


映画上映会
『くもとちゅうりっぷ』(監督:政岡憲三、1943、16分、白黒アニメーション/協力:松竹株式会社)
『蜘蛛の糸』(監督:大藤信郎、1946、11分、白黒影絵アニメーション/協力:東京国立近代美術館フィルムセンター)
日時:11月12日、12月10日 14:30〜(開場は14:00)
料金:入場無料
会場:高橋節郎館内ワークショップルーム
定員:50名、先着順


学芸員によるギャラリートーク
日時:11月5日、26日、12月23日 14:00〜
※参加には当日の企画展観覧券が必要


作品ガイドボランティアによるギャラリーツアー
日時:木曜日を除く毎日14:00〜(土・日・祝日は11:00、14:00〜)
参加には当日の企画展観覧券が必要

日本最古のアートフェア「東美特別展」開幕

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1964年、東京オリンピックを記念して第1回が開催された、日本で最も歴史あるアートフェア「東美特別展」が10月14日から16日まで、東京美術倶楽部にて行われている。絵画や近代美術、古美術、茶道具、工芸など幅広いジャンルから65の画廊が集まるその見どころとは。

「 東美特別展」は3年に一度開催されるアートフェアとして、長らく古美術や日本画などの分野を中心に愛されてきた。20回目の節目となる今年は、会場1階のエントランスに庵野秀明監督の映画『シン・ゴジラ』(2016年)にも登場し、話題となった日本画家、片岡球子の《めでたき富士》を特別展示するなど、これまでにない試みを見せている。

tobi1.jpg祇園画廊の展示風景。白髪一雄の《黄墨》が白磁の壺とともに展示されている

 会場は全4階で構成。1階には現在、大きな注目を集めている刀剣を、業界大手の日本刀剣と杉江美術店が出品。鎌倉時代の太刀「長船長光」をはじめとする名刀の数々を、間近で楽しむことができる。

 また畳敷きの大広間を区切った2階では、桃山時代の茶碗「志野橋の絵茶碗」(赤坂水戸幸ブース)や室町時代中期の画僧、小栗宗丹が描いたとされる「伝小栗宗丹筆真山水」(池内美術ブース)などが設えとともに展示されている。このフロアには緑豊かな日本庭園もあり、都心とは思えない雰囲気を楽しむことができるだろう。

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赤坂水戸幸ブースの展示風景
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2階に広がる日本庭園

 3階では繭山龍泉堂が、中国・明の後半期、嘉靖および萬暦と呼ばれる時代の官窯の作品を一堂に展示。江戸期、あるいはそれ以前より珍重されてきた華やかな色絵磁器が並ぶ。

 このほか4階では、京都で私立美術館「何必館」を営む祇園画廊が、近年評価が高まっている「具体」の白髪一雄と、MAYAMAXXの2作家を展示。なかでも白髪が足で描いた《黄墨》をはじめとする4点には注目だ。また加島美術では「奇想の画家展」題した展示において、長沢蘆雪の《狗児図》や林十江の《虎独風直図》など多種多様な作品を見ることができる。

 美術館クラスの作品もガラスを挟むことなく見れ、時には実際に触れることもできる「東美特別展」。この機会に足を運んでみてはいかがだろうか。

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加島美術ブースの展示風景。愛らしい長沢蘆雪の《狗児図》に癒されたい
第20回 東美特別展
会期:10月14日~10月16日
会場:東京美術倶楽部
住所:東京都港区新橋6-19-15
電話番号:03-3432-0191
開館時間:10:00~19:00(16日〜17:00)
入館料:一般 1500円 / 大高中生 1300円
URL:www.toobi.co.jp/special2016

新たな視点で芸術を読む。『美術手帖』10月号新着ブックリスト

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『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から、エッセイや写真集、図録など、注目したい作品を紹介しています。2016年10月号では、アメリカの近現代美術史をたどりながらデュシャンを再考する論評、小説とアートを対話させる試みをまとめた単行本など、新鮮な視点でアートを読み解く体験ができる4冊を取り上げます。

平芳幸浩 著『マルセル・デュシャンとアメリカ ─戦後アメリカ美術の進展と デュシャン受容の変遷─』

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 従来の常識を覆す作品の発表で物議を醸し、倒錯的な言動によって観者を翻弄、様々な言説に彩られてきたマルセル・デュシャン。本書は、ネオ・ダダ、フルクサス、ポップ・アートといった同時代の芸術運動それぞれの観点からデュシャンを見つめ、戦後アメリカの美術界におけるデュシャンとその作品の受容の変遷を追うことで、現代に至るデュシャンの「芸術」の成立を考察する。時代の証言の中に浮かび上がる20世紀の「芸術家」像。(松﨑)

福永信 編『小説の家』

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 本誌で不定期連載中の書きおろし小説とアートワークのコラボレーション企画〈小説〉が待望の単行本化。青木淳悟、阿部和重、いしいしんじ、円城塔、岡田利規、最果タヒ、長嶋有など11人の小説家の作品に、画家、マンガ家、イラストレーターらがヴィジュアルを添える。栗原裕一郎による解題を読むと、企画者・福永信の狙いや本書成立の背景が見えてきて、小説とアートの対話に時空の厚みが加わる。つくり手たちの気概があふれる、ジャンル横断的な試み。(中島)

福永信=編
新潮社|3800円+税

五十嵐太郎+菊地尊也+ 東北大学五十嵐太郎研究室 編著『図面でひもとく名建築』

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 建築は図面が読めるともっと面白い。間取りや採光がわかるのはもちろん、構造上の思わぬ工夫を発見できるところが図面の魅力だ。本書は世界の名建築の平面図や断面図を事例に、図面が示す情報をQ&A形式で読み解く解説書。ル・コルビュジエ設計のサヴォア邸が一部不規則な柱配置をとる理由とは? 家族の個室とコモンスペースをあえて隔絶させた住宅には建築家のどのような考えが反映されているのか? 能動的に建築を読む力が身につく。(中島)

五十嵐太郎+菊地尊也+ 東北大学五十嵐太郎研究室=編著
丸善出版|1800円+税

田島奈都子 編著『プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争 135枚が映し出す真実』

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 長野県阿智村に眠っていた135枚に及ぶ戦時期のプロパガンダ・ポスター。かつて同地の村長を務めた人物が収集し、戦後、自宅の土蔵に密かに隠し子孫に託した。製作年や依頼主が特定でき、力強いデザインとストレートなコピーで表現されるポスターは、当時の国家政策と、国民生活の実態を伝える稀少な視覚史料である。本書は、このコレクションを当時の時代状況とあわせて紹介。戦争を後世へ語り継ぐことの意義を問うている。(松﨑)

田島奈都子=編著
勉誠出版|2800円+税

中島水緒[なかじま・みお(美術批評)]+松﨑未來[まつざき・みらい(ライター)]=文
『美術手帖』2016年10月号「BOOK」より)

景色の成立とメディウム 中尾拓哉が見た児玉画廊「風景の空間」

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東京・白金高輪の児玉画廊にて、大谷透、太中ゆうき、貴志真生也、関口正浩、中川トラヲ、和田真由子の6名の気鋭の作家たちによるグループ展「風景の空間」が開催された(2016年7月9日〜8月13日)。多種多様な表現方法を持つ作家が参加した本展を、制作方法や媒体とイメージの関係性、作品とそこにおける「風景」の成立という観点から、中尾拓哉がレビューする。

中尾拓哉 新人月評第6回
訪れの距離
「風景の空間」展

 目前に広がるのでも、目指されるのでもない風景がある。自らの意思によって訪れているようであっても、風景のほうからやってくるような。本展は、風景が山や川、空気や光というさまざまな要素と関係しながら一つの景色となるように、作品に多面的に立ち上がる現象をそのままにとらえ直そうとするものである。鑑賞者は、まず作品が見せる風景の色合い、すなわち月に照らされる教会、海を望む二つの窓、水面に浮かぶ山、生い茂る緑、星の散らばる空、そして鳥の羽ばたきを目にすることになる。

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和田真由子 鳥 2016  ベニヤ板にジェッソ、ダーマトグラフ、色鉛筆、 ビニールシート 92×46×10cm

 これらの景色の成立は、制作方法を介したメディウムとの相互関係によって示される。大谷透はサンドペーパーの裏側に印刷された既に決定している文字やロゴマークの図柄を基盤に、しだいに異なった対象を浮かび上がらせ、太中ゆうきは任意の図形(菱形と対角線)を与件とし、それを満たすために導いた内容を描き出している。また、貴志真生也(きし・まおや)はキャンバステープや木材を組み上げながら、意味深長なあり方を避けるようでどこか彫刻らしく見える位置にとどまらせ、関口正浩は絵具を皮膜状にしてキャンバスへと移し、手業以外の破れを顕在化させている。そして、中川トラヲは支持体や形体から飛び込んでくる視覚像を追い、想定していない方向へと痕跡を積み重ね、和田真由子は想起されるイメージが漠然としていれば半透明なビニールを、判然としていれば不透明な木材を適切にあてはめている。

installation05_R40.png「風景の空間」展示風景。左は貴志真生也《代替品(巻テープ)》(2016)、中央は太中ゆうき《額入りの絵》(2016)、 右は中川トラヲ《がっかりが僕を強くする》(2016)

 こうした制作方法より考えれば、これらの景色はメディウムによって受動的に喚起させられているように見えなくもない。しかし、制作における能動性と受動性の制御それ自体は、方法に準じているのではなく、メディウムとイメージの連動を精確に一致させるプロセスによる。完成を予測できない状態を含んだ上で、大胆さと繊細さそのままに、現れを精緻に通過させなければならない。そこにイメージを境界面とする他方から、可視化されていない、そして認識されていない風景の訪れがある。イメージはメディウムによって作品の表面を形成していくものでありながら、発見されずに作動する別のシステムに従属している。

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大谷透 教会 2016  サンドペーパー(裏側)に色鉛筆  37.4×22.8cm

 本展において「風景」と呼ばれるものは、作品を表面とし、このようなプロセスを奥行とみる、複合的な空間である。重要なのは、メディウムや制作方法を通じ生み出された表面とともに、プロセスの奥で引き起こされている出現への洞察がなければ、決して「風景」へと至らない、ということである。一面的であれ、多面的であれ、少なからず鑑賞者のパースペクティブが受容されれば「空間」は成立する。しかし、例えば大谷の作品の非立体的な遠近法による景色が、サンドペーパーの裏側にある文字やロゴマークと結びついた、メディウムとイメージの中間領域にあるとわかっても、その現れの境界面はいまだ遠い。隠された法則にしたがい、目前に広がるのでも、目指されるのでもない風景、それは鑑賞者と作品の距離ともなりうる。訪れの距離は遠いのか、近いのか、あるいは遠くとられているのか、近くとられているのか。その漠とした奥行において、制作と鑑賞の邂逅する地平を開くことこそが試されているのである。

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関口正浩 無題 2016  キャンバスに油彩 95.5×77.3cm

PROFILE
なかお・たくや 美術評論家。1981年生まれ。第15回『美術手帖』芸術評論募集にて「造形、その消失においてーマルセル・デュシャンのチェスをたよりに」で佳作入選。

『美術手帖』2016年9月号「REVIEWS 10」より)

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風景の空間
会期:7月9日〜8月13日(終了)
会場:児玉画廊
大谷透(1988年神奈川県生まれ)、太中ゆうき(1990年東京都生まれ)、貴志真生也(1986年大阪府生まれ)、関口正浩(1984年東京都生まれ)、中川トラヲ(1974年大阪府生まれ)、和田真由子(1985年大阪府生まれ)の6名の作家による、「風景」をキーワードとした展覧会。「ignore your perspective」という同画廊のシリーズ企画によるグループ展の第34回。

六本木にアートとサイエンスを軸とするギャラリーがオープン

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10月8日、東京・六本木に新たなギャラリー「Art & Science Gallery Lab AXIOM」がオープンした。作品展示に留まらず、アートとサイエンスを軸とした様々な活動の拠点となるギャラリーのコンセプトを象徴するオープン展には、本施設のアーティスティック・ディレクターを務めるメディア・アーティスト、脇田玲による個展「FLUID」が開催されている(12月27日まで)。

 脇田玲は、これまでにアルス・エレクトロニカ・センターや文化庁メディア芸術祭などで、科学技術によって日常の見え方を変える作品を発表してきた。2015年には、AXIOMの前身である「hiromiyoshii roppongi gallery」の2階スペースにて、「SCALAR FIELD OF SHOES」を開催。テクノロジーと写真、映像、音楽などの複合的な空間を演出した。

 今回の個展では、空気の流れを可視化することによって、日常的な空間に新たな気づきや想像を与えてくれる作品を発表。《Fumished Fluid #3》(2016)は、物質と空気の連関を想起させるインスタレーション。目の前の壺や箱を含めた空間にプロジェクター映像を投影することで、そこにあるかもしれない空気の流れを想像させる。

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Fumished Fluid #3 2016

 また、《Ryoanji - Sekitei-》(2016)と《Parking》(2016)の連作は、対比によって新たな視点を風景に与える試み。京都にある龍安寺の石庭と、東京都内の駐車場を真上から撮影。そこに流れ得る空気の流れを映像化することで、著名な観光地と匿名的な場所の、類似と差異を提示している。

 どの作品も、先端的な科学技術を取り入れていながら、日常の異なる見え方に直感的に気づかせてくれるのが特徴だ。

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壁から出た突起とプロジェクター映像によって、空気の流れを仮定する《Relief》(2016)

 ギャラリーは今後、子どもや社会人を対象としたワークショップ、トークイベント、企業や自治体へのコンサルティングなどを行っていくという。「ギャラリー・ラボ」の名が示す通り、展示スペースだけでない、アートとサイエンスの化学反応が起こる場となっていくことが期待される。

 10月21日には、4つのギャラリーが集まる「complex665」が徒歩数分の場所にオープン。また、10月21日~23日には「六本木アートナイト2016」も開催される。ますます多様なアートが見られる六本木の街で、「Art & Science Gallery Lab AXIOM」は先鋭的な一角となっていくだろう。

脇田玲「FLUID」
会期:2016年10月8日~12月27日
会場:Art & Science gallery Lab AXIOM
住所:東京都港区六本木5-9-20 2階
電話番号:03-5772-5220
開館時間:13:00~19:00
休館日:日月祝休
URL:http://as-axiom.com/

美術手帖 2016年11月号「Editor's note」

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2016年10月17日発売の「美術手帖 2016年11月号」より、編集長の「Editor's note」をお届けします。

 今号は「ZEN」特集をお届けします。これは、京都から東京に巡回して開催される特別展「禅ー心をかたちにー」(P101)をきっかけに企画された。では、なぜ「禅」ではなく「ZEN」特集なのか。

 まず、現代における私たちの文化や生活への影響を考える際に、仏教文化としての禅から宗教色を脱色して欧米でカジュアルに受け入れられているZENを通して、逆照射するようなかたちで現在の禅を見通してみてはどうかと考えた。そのため、『禅という名の日本丸』や『東京ブギウギと鈴木大拙』などの著作で、欧米における禅の受容とZENへの変容と文脈を語ってきた文化交流史研究の山田奨治氏に監修をお願いした。

 山田氏には、『美術手帖』2016年1月号の「村上隆」特集(監修・橋本麻里)において、「『誤読』される禅」という論考を寄せてもらっている。そこでは、鈴木大拙や久松真一らによって日本の禅とその美術の特質が、戦後のアメリカに紹介されて人気を博していく際に起こった「誤読」について指摘がなされている。それによって、日本の文化を特徴づける禅の美意識として、「わび」「さび」「非対称」が打ち出されて、「ZEN」趣味として浸透していく一方、それに該当しない絢爛な障壁画は、禅の美術から外されていくことになった。そして、現代日本のアーティスト・村上隆がZENのアイコンといえる「円相」を描くという、ねじれと連鎖に着目した。本特集では、村上隆氏へのインタビューでさらに議論を深めてくれている。

 その山田氏には今回、ZENブームの震源地アメリカ西海岸を巡ってもらった。シリコンバレーを中心にサンフランシスコにはテクノロジー系のスタートアップ企業が林立しており、そこでは資本主義の厳しい競争を勝ち抜くため、禅の瞑想に似た「マインドフルネス瞑想法」が社員の研修に取り入れられている。そして、シリコンバレーでは日本の美意識とテクノロジーを昇華したチームラボの展示が盛況を博していた。本特集では、こうした「ZEN」の新しい風景が活写されている。そこからさらに、長い歴史と伝統を誇りながらも、更新を続ける21世紀の禅の未来にまで思いを馳せてみたい。

2016.10
編集長 岩渕貞哉
美術手帖 2016年11月号
編集:美術出版社編集部
出版社:美術出版社
判型:A5判
刊行:2016年10月17日
価格:1728円(税込)

禅の名宝が東博に集結! 「禅展ー心をかたちにー」開幕

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京都で好評を博した「禅ー心をかたちにー」が10月18日より東京国立博物館で開催される。国宝22件、重要文化財102件が集う本展は、臨済宗・黄檗宗(おうばくしゅう)の源流に位置する高僧、臨済義玄(りんざいぎげん)禅師の1150年遠諱と、日本臨済宗中興の祖、白隠慧鶴(はくいんえかく)禅師の250年遠諱を記念したものだ。臨済宗・黄檗宗の本山・末寺から名宝を一堂に集め、禅の歴史や、禅の美術、禅の文化を通覧する本展の見どころをお届けする。

 禅宗は中国から伝えられた仏教の一派で、日本には鎌倉時代から南北朝時代にかけ、臨済宗を中心に導入された。江戸時代には、臨済禅の流れをくむ黄檗宗(おうばくしゅう)が明時代末の美術とともに中国から伝わった。そして白隠禅師が現在の臨済宗の礎を築き、「中興の祖」として称されている。本展は、この白隠禅師の代表作として知られる《達磨像》から始まる。「本展の象徴」(救仁郷秀明東京国立博物館列品管理課長)と語る本作は、朱色の彩色、あるいは彩色そのものも白隠の作品としては珍しく、縦192センチにもおよぶ大画面は見る者を一気に禅の世界へと引き込んでしまう。

 続く第1章では、「禅宗の成立」として、達磨がインドから渡来し、中国で禅宗が成立するまでを歴代の祖師像などでたどる。ここでは蘭渓道隆賛の《達磨図》(国宝)や、臨済義玄のさまざまな表情を描いた臨済義玄像などに注目したい。

 

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1章の展示風景。左から一休宗純賛 伝曾我蛇足筆《臨済義玄像》、古岳宗亘賛 伝狩野元信筆《臨済義玄像

 本展は、そのほとんどが臨済宗・黄檗宗の15派本山からの出品作によって構成されている。第2章では京都の建仁寺を筆頭に、東福寺や建長寺などそれぞれの本山を開創順に紹介。各本山の開山(寺院を開創した僧侶)を、肖像や墨蹟、坐像などで通覧するとともに、その歴史をたどることができる。

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第2章の展示風景。東福寺の紹介と、その開山である円爾を描いた吉山明兆筆《円爾像》

 1・2章で禅宗の歴史を通覧したあとは「肩の力を抜いて禅の美術を楽しんでもらいたい」(同)と語る第3章から第5章が続く。禅と武将の関係を紹介する第3章「戦国武将と近世の高僧」や、禅宗特有の作風を有する仏像や仏画にスポットを当てた第4章「禅の仏たち」、茶の湯、水墨画、障壁画など禅文化が他の分野に与えた影響を垣間みる第5章「禅文化の広がり」。なかでも第3章で、禅画の名手として活躍した白隠の《達磨像(どふ見ても)》や《乞食大燈像》などが並ぶさまは壮観かつユーモラスだ。

 「禅」が「ZEN」として海外でも浸透し始めているこの時代。その源流をたどることで、禅とは何かについて改めて考える機会となるだろう。なお『美術手帖』11月号(10月17日発売)では、アメリカ西海岸など海外で禅がどのように受容され、変化を遂げたかを扱った「ZEN」特集を企画。こちらもあわせてチェックしてほしい。(会期中展示替え有り)

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第3章の展示風景。左から白隠慧鶴筆《乞食大燈像》、白隠慧鶴筆《達磨像(どふ見ても)》
禅ー心をかたちにー
会期:10月18日~11月27日
会場:東京国立博物館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:03-5777-8600
開館時間:9:30~17:00(金曜・10月22日・11月3日・11月5日〜20:00)
休館日:月
入館料:一般 1600円 / 大学生 1200円 / 高校生 900円 中学生以下無料
URL:http://zen.exhn.jp

「ヒールレスシューズ」の舘鼻則孝が岡本太郎記念館で新作を発表

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東京藝術大学の卒業制作で発表した「ヒールレスシューズ」がレディー・ガガの目にとまり、専属のシューズデザイナーとなるなど、世界のファッションシーンで大きな注目を集める舘鼻則孝が岡本太郎記念館では初の個展「舘鼻則孝 呪力の美学」を開催する。

 1985年に東京で生まれ、鎌倉で育った舘鼻。東京藝術大学では染織を専攻し、遊女に関する文化研究とともに、友禅染を用いた着物や下駄を制作してきた。彼の名を一躍有名にしたのが、卒業制作で取り組んだ「ヒールレスシューズ」だ。これは花魁の下駄から着想を得たもので、その作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などに収蔵されている。

 また、近年はアーティストとして展覧会を開催するほか、2016年3月にはフランスのカルティエ現代美術財団で、人形浄瑠璃文楽の舞台を初監督した『TATEHANA BUNRAKU:The Love Suisides on the Bridge』を公演するなど、その活動は多岐にわたる。

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舘鼻則孝 Homage to Taro Series:Heel-less Shoes "Sun" Photo by Noritaka Tatehana © NORITAKA TATEHANA, 2016

 本展では、岡本太郎のアトリエなどを含む、岡本太郎記念館全館を舘鼻がジャック。岡本太郎とぶつかり合うように制作された新作《Homage to Taro Series:Heel-less Shoes "Sun"》のほか、自身の骸骨を鋳造彫刻とした《Tarces of a Continuing History Series》を始めて一般公開する(2015年12月に東京・目白の和敬塾で限定公開)。

私にとって岡本太郎という人間は、まやかしとでも思い込みたくなるくらいに納得のいかない孤高の存在だ。太郎は生涯自らの手で作品を売らなかった。社会を拒むという行為事態が太郎にとって全力で社会へ干渉するという行為でもあった。聖地とでも呼べる記念館で展覧会を開くということは、私にとってのプリミティブ・アートの象徴とも言える太郎へのオマージュであり、過ぎ去ろうとしない時代を見つめ直す機会ともなった。自分自身に"マジナイ"をかけ外界からの理解を拒んだ作品群をご覧いただきたい。ー舘鼻則孝

プレスリリースより引用

舘鼻則孝 呪力の美学
会期:11月3日~2017年3月5日
会場:岡本太郎記念館
住所:東京都港区南青山6-1-19
電話番号:03-3406-0801
開館時間:10:00~18:00
休館日:火(祝日の場合開館)、12月28日〜1月4日、保守点検日
入館料:一般 620円 / 小学生 310円
URL:http://www.taro-okamoto.or.jp

タカ・イシイ移転オープニング展で取り扱い作家20組が豪華共演

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この秋、北参道から六本木に移転するタカ・イシイギャラリー。オープニング展として、20組のアーティストによる新作グループ展「Inaugural Exhibition: MOVED」が開催される。会期は10月21日〜11月19日。

 国内外の現代美術作家や写真家を紹介してきたタカ・イシイギャラリーは、小山登美夫ギャラリー、シュウゴアーツとともに、東京・六本木に新しく建設されたビル「complex665」に移転する。新たなギャラリー空間は、ビル3階のテラスを臨むスペース。同ビル1階にはオフィス、ビューイング・ルームも設けられる。

 移転後のオープニングを飾るのは、ギャラリーがリプレゼントするアーティスト20名によるグループ展「Inaugural Exhibition: MOVED」。荒木経惟、伊藤存、五木田智央、村瀬恭子、森山大道ら国内作家から、映像作品などを発表しているイギリスの若手作家、ルーク・ファウラー、2009年のヴェネチア・ビエンナーレで特別賞を受賞したエルムグリーン&ドラッグセットといった一推しの海外アーティストまで、20組が参加する新作展だ。

 新スペースと展覧会のオープンは、六本木アートナイトの初日でもある10月21日。「complex665」は、森美術館、オオタファインアーツやワコウ・ワークス・オブ・アートなど5ギャラリーが入居する「ピラミデ」にもほど近い。新たなアートの拠点のオープンを飾る企画として、注目が集まりそうだ。

Inaugural Exhibition: MOVED
会期:2016年10月21日〜11月19日
会場:タカ・イシイギャラリー 東京
住所:港区六本木6-5-24 complex665 3階
電話番号:03-6434-7010
開館時間:11:00~19:00
休館日:日、月、祝
URL:http://www.takaishiigallery.com/
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