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世界の美術市場、2016年上半期は中国がシェアトップに

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美術品価格と美術品索引で世界をリードするデータバンク「Artprice」は2016年上半期の世界美術品市場報告を発表。米英が数字を下げるなか、中国が世界シェアトップとなった。

 Artpriceによると16年上半期、世界では252000点を超える美術品が売買され、計653000万ドル(約6606.6億円)の売上高(手数料を含む)が生み出された。なかでも顕著だったのが中国の台頭だ。アメリカやイギリスが低調の中、中国市場は昨年比18%の伸びを見せており、約231759万ドル(約2344.7億円)で世界シェア第1位となる35.5%を占めた。Artpriceの創業者兼CEO、ティエリ・エールマンは今期、中国が世界最大のマーケットに躍り出たことについて「中国の全体的な景気は何期にもわたって低迷していることから、売上高が57000万ドル(約576.6億円)以上増えて世界のリーダーに復帰したことは大きな驚きをもって迎えられた」とコメントを寄せている。

 Artprice3000万件以上の索引と625000人を超えるアーティストを対象にしたオークション・データを所有しているが、中国の市場調査は同国の提携組織、Artron GroupAMMAArt Market Monitor by Artron)と協力して行われた。中国本土ではセカンダリーマーケット市場は22%減少、またオークションの取引非成立率は64%と高い数字を示しているものの、香港が上半期に10%の成長を見せ、同国の牽引役となったとみられる。香港はアジア地域最大のアートフェアである「アート・バーゼル香港」を有するほか、2019年には新たな美術館「M+」の開館が予定されており、今後ますますアジアのアートハブとしての存在感を高めていきそうだ。

 なお世界シェアで中国に続いたのはアメリカの約174885万ドル(約1767.5億円)(26.8%)、イギリスの約139941万ドル(約1414.4億円)(21.4%)となっており、上位3か国で全マーケットの83.7%を占める。日本は第9位で45663657ドル(約46.1億円)(0.7%)だった。

またアーティスト別ではパブロ・ピカソが取引点数1718点(196338239ドル、約198.4億円)でトップ。次いで張大千の286点(180799659ドル、約182.7億円)、 吴冠中の74点(12643774ドル、約127億円)、ジャン=ミシェル・バスキアの41点(11726388ドル、約102.8億円)となった。


六本木で宇宙を体感! 過去と未来を探る「宇宙と芸術展」開催

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太古の昔より人々を魅了し続け、信仰や研究の対象となってきた「宇宙」。様々な芸術のなかで表現されてきた宇宙と人間の関わりを、過去、現在、未来の壮大な時間軸で眺める展覧会「宇宙と芸術展 かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ」が、森美術館(東京・六本木)で開催されている。

 本展は、「人は宇宙をどうみてきたか?」「宇宙という時空間」「新しい生命観 宇宙人はいるのか」「宇宙旅行と人間の未来」の4つのセクションで構成。レオナルド・ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイの天文学手稿から、日本最古のSF小説ともいえる「竹取物語」の絵巻、現代美術家による天体写真など、多様なジャンルの展示物が並ぶ。さらに、米ソの宇宙開発の歴史や最先端の技術を紹介する展示を通じて、宇宙と人間のこれからを探る。

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パトリシア・ピッチニーニ ザ・ルーキー 2015 ファイバーグラス、シリコン、毛 48×65×46cm 作家蔵 
Courtesy:トラルノ・ギャラリー、メルボルン、ロズリン・オクスレイ9・ギャラリー、シドニー、ホスフェルト・ギャラリー、サンフランシスコ

  注目は、日本初公開となるダ・ヴィンチの手稿のほか、ロックバンド・エアロスミスのアルバムジャケットにも使用された、空山基の立体作品《セクシーロボット》など。イラストレーター、プログラマー、エンジニア、数学者、建築家、デザイナー、アニメーター、絵師など、様々なスペシャリストから構成されるテクノロジスト集団「チームラボ」によるインスタレーション作品では、光や音などを使い、空間全体を使って新たな宇宙観を提示する。

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スペース・エクスプロレーション・アーキテクチャ・アンド・クラウズ・アーキテクチャ・オフィス マーズ・アイス・ハウス 2015 3Dプリント模型、台座に内照ライト、映像 作家蔵 
画像提供=Clouds AO/SEArch

 会期中の8月20日には、シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」も開催予定。宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授の的川泰宣やチームラボの猪子寿之を迎え、宇宙科学と芸術の両方の視点から本展を読み解く。

宇宙と芸術展 かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ
会期:2016年7月30日~2017年1月9日
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00~22:00(火曜は17:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:会期中無休
入館料:一般 1,600円、大高生 1,100円、子ども(4歳〜中学生) 600円
URL:http://www.mori.art.museum/contents/universe_art/index.html


【関連イベント】
シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」
※日英同時通訳、手話同時通訳付
出演:的川泰宣(宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授)/渡部潤一(国立天文台副台長・教授)/野村 仁(アーティスト)/猪子寿之(チームラボ代表)
モデレーター:南條史生(森美術館館長)
日時:2016年8月20日 14:00〜16:00(開場13:30)
会場:アカデミーヒルズ(六本木ヒルズ森タワー49階)
参加費:3,500円
申込方法:一般 MAMC個人  MAMC法人
※手話同時通訳の利用を希望する場合は、8月11日までに、ppevent-mam@mori.co.jpへ連絡。

象徴としてのパン、美術という異物 椹木野衣が見た折本立身展

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顔一面にフランスパンをくくり付けた「パン人間」の姿で世界各地を旅し、現地の人々と交流したパフォーマンス作品、アルツハイマー症の母の介護を作品とした「アート・ママ」シリーズなど、様々な人々、さらには動物たちとのコミュニケーションを題材に、40年以上にわたってユニークな作品を発表してきた折元立身。今年4〜7月、川崎市市民ミュージアム(神奈川)で開催された「生きるアート 折本立身」展を、椹木野衣がレビューする。

椹木野衣 月評第96回
否(アン)パン人間
「生きるアート 折元立身」展

「パン人間」や「アート・ママ」の連作で、ユーモラスかつ意表を突くパフォーマンス・アーティストとして広く知られるようになった折元立身への見方が、大きく揺さぶられる画期的な展示であった。

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第2展示室《オリモト・ドローイング》の展示風景 写真提供=川崎市市民ミュージアム

 いま画期的と書いたが、むろん、年代を遡りながら、最初期の素描や個展案内まで周到、かつ執拗に並べて見せた点で、同時にこれは日本におけるひとつのまとまった回顧の機会ということができる(それだけに、作品を網羅した図録が発行されないのが残念で仕方がない)。けれども、本展がそこに留まらないのは、これまで日本ではほとんど見る機会のなかった膨大な数のパワフル、カラフル、そしてワイルド極まりないドローイングが壁面をところ狭しと埋め尽くす様で、これはもう圧巻というしかない。みずからの病身はもとより、介護中の母、そして鶏や豚といった家畜にまで拡張された折元のパフォーマンスの根底に、このような描画への衝動が横たわっていることを思い知らされる。裏返してみれば、彼のパフォーマンスが構図や色彩の点で、もともと絵画的要素を持っていたことにもなるだろう。そこにはつねに、個体としての「自分」を包む表皮を突き破って、本来なら無縁なはずの他者や物質とどんどん交わり、繋がっていこうとする、不気味と呼びたくなるほどの生命力の横溢がある。

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折本立身 BEFORE SEX ACTION 1997 紙にペン、鉛筆、水彩 29.5×41.5cm 写真提供=川崎市市民ミュージアム

 なかでも、折元の芸術が持つこうした力動性がもっとも端的、かつ無遠慮なまでにあらわにされたのが、「処刑」と題された連作だ。 「処刑」は、折元のトレードマークとも言えるフランスパンが登場する点で「パン人間」の延長線上に出てきたものだが、受ける印象はまったく違っている。あるとき長崎で折元は、かつて処刑された「日本二十六聖人」の話を知る。これは、慶長年間にキリスト教の布教による悪弊を恐れた豊臣秀吉によって行われた、日本でもっとも広く知られたキリスト教徒への迫害で、美術の世界では、これをモニュメントとして刻んだ舟越保武による彫像が有名である。折元はここから着想し、目隠しをして柱に縛り付けられたパンの売り子を模する26人の生身の男女が、合図ののち一斉に、パンがすべて床に落ちるまで身を激しく震わせ、絶叫するパフォーマンスに仕立て上げた。

 現在までに川崎、ベルリン、マドリード、インスブルックで行われたこれらの「処刑」は、その各地におけるキリスト教カトリックが持つ異なった歴史的文脈や、そこから派生した「美術そのもの」の是非について、知識だけではなく体験として考えることを迫ってくる。その様は、まるで身にまとわれたキリストの痕を必死に振り払おうとしているかのように見える。

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6月11日に行われた新作パフォーマンス《車いすのストレス》の様子 写真提供=川崎市市民ミュージアム

 とりわけ日本でこれを見るとき、西洋=美術の原基としてのキリスト教を容赦なく破壊しようとした歴史と、現在の美術≠アートをめぐる見かけ上の隆盛とのギャップがいったいなんなのかについて、思いがよぎらずにはいられない。硬くて湿気を持たず、嚥下するにも喉の筋力を要するこん棒のようなフランスパンは、日本における美術という異物の存在を、食物を通じて物質的に固形化したものだろう。だいいち、その由縁は「イエス・キリストの肉」ではないか─果たして私たちは、こうしたパンの異形と味わいを、本当の意味で噛み締められているのだろうか。

PROFILE
さわらぎ・のい 美術批評家。1962年生まれ。近著に『後美術論』(美術出版社)、会田誠との共著『戦争画とニッポン』(講談社)、『アウトサイダー・アート入門』(幻冬舎新書)など。8月に刊行された『日本美術全集19 拡張する戦後美術』(小学館)では責任編集を務めた。『後美術論』で第25回吉田秀和賞を受賞。

『美術手帖』2016年8月号「REWIEWS 01」より)

生きるアート 折元立身
会期:4月29日〜7月3日(終了)
会場:川崎市市民ミュージアム
折元立身は1946年神奈川県生まれ。71年カリフォルニア・インスティテュート・オブ・アート卒業後、ニューヨークへ移住し、ナム・ジュン・パイクの助手として、フルクサスの活動に参加。2001年、第49回ヴェネチア・ビエンナーレに参加。本展では、90年以降の折元の創作の軌跡を、映像、写真、グラフィック、ドローイングといった多彩な表現で紹介し、初公開のものも含め約1000点の作品を展示。また会期中、トークイベントや新作パフォーマンスなど7つのイベントを開催した。企画は同館学芸員の深川雅文。

色彩のルネサンス。国立新美「ヴェネツィア派展」内覧会レポート

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国立新美術館(東京・六本木)にて、日伊国交樹立150周年を記念した展覧会「日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」が10月10日まで開催されている。本展では、ヴェネツィア絵画の殿堂・アカデミア美術館所蔵の作品が約60点展示され、15世紀半ばから17世紀初頭に至るまでのヴェネツィア・ルネサンスの歴史を概観できる。ヴェネツィアのルネサンス期に焦点をあてた展覧会は国内ではほとんど前例がなく、アカデミア美術館からコレクションがまとまって来日するのも初めて。ヴェネツィア派盛期ルネサンス最大の巨匠であり、「色彩の錬金術師」ともいわれるティツィアーノの晩年の大作《受胎告知》(サン・サルヴァトール聖堂)が特別出品されていることにも注目が集まる。会期に先立って開催された内覧会より、本展の見どころを紹介する。

 フィレンツェに遅れること約半世紀、15世紀半ばにヴェネツィアで新たな美術の動き(ルネサンス)が始まる。海洋商業国家であったヴェネツィアは、北方(フランドル)と南方(イタリア)、東洋(ビザンツ帝国)と西洋(ヨーロッパ)といった、異質な文化がぶつかり合う交差点でもあった。また、カトリックの中心地ローマから離れていたこともあり、宗教的な束縛に過度に縛られることもなかった。そのような大らかで開放的な空気のなか、フィレンツェ生まれの遠近法だけではなく、他の様々な要素を取り入れつつ、ヴェネツィアでは独自の様式が成立していく。フィレンツェの美術が、デッサンや遠近法を重視する「線」の美術ならば、ヴェネツィアの美術は、感覚に直接訴える「色彩」の美術なのだ。

自然との調和が彩る ベッリーニ《聖母子(智天使の聖母)》

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ジョヴァンニ・ベッリーニ 聖母子(赤い智天使の聖母) 1485-90 ヴェネツィア、アカデミア美術館蔵

 展覧会の冒頭を飾るのは、ジョヴァンニ・ベッリーニ《聖母子(赤い智天使の聖母)》(1485-90)。この作品は、聖母子を得意としたベッリーニの傑作であると同時に、ヴェネツィア派の特徴が集約された作品でもある。

 ジョヴァンニ・ベッリーニ(1424/28~1516)は、15世紀のヴェネツィア画壇において中心的な二つの工房のうちの一つを率いていた、ベッリーニ一族の一人。父ヤコポの下で修行し、義兄弟マンテーニャの人体表現や、アントネッロ・ダ・メッシーナの油彩技法など、様々な要素を取り入れながら、独自の様式をつくり上げ、ヴェネツィア派の礎を築いた。

 手すりを隔てた向こうで、聖母が我が子を膝の上に抱えている。この図像自体は、ビザンツ帝国のイコンの伝統にのっとったもの。しかし、我が子の体を支える聖母の手つきや無邪気に母を見上げるイエスの表情からは、人間的で温かな情の通い合いが感じられる。画面上部に並んでいるのは、神の智慧を司る上級天使・ケルビム(智天使)。有名なフランシスコ・ザビエルの肖像画にも描かれているが、本作品では頭部も翼も赤一色で一列に並べられており、生き物というより装飾レリーフのようにも見える。その下に目を移すと、青みを帯びた山並みとなだらかな平原が広がっている。

 ヴェネツィア派の作品を見るポイントの一つとして、背後の風景描写、特に空がある。朝日によって白んだり、夕暮れ時には黄色が混ざる。主題によっては、聖なる光によってより強い黄金の光に満たされる。そういった光の下に広がる柔らかな木々や流れる水の表現は、人間を中心に置くフィレンツェ派にはないもの。ヴェネツィア派の作品には、自然も人間も一体になって世界をつくり上げる、ひとつの「調和」があるのだ。

光り輝く「起源」の物語 ティツィアーノ《受胎告知》

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ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 受胎告知 1563-65年頃 ヴェネツィア、サン・サルヴァドール聖堂蔵

 ベッリーニの工房からは多くの画家が出た。その一人で、16世紀、ヴェネツィア絵画の黄金時代を築いたのがジョルジョーネとティツィアーノ(1488/90~1576)である。ジョルジョーネは若死にしたが、ティツィアーノは、ハプスブルク家の宮廷画家になるなど、国際的な名声を得るまでになる。

 《受胎告知》(1563-65年頃)はその晩年に描かれた、4メートルを越える大きさの祭壇画である。荒く震えるような筆致はティツィアーノの晩年様式の特徴であり、前に立つと、まるで画面全体から金色の光があふれ、燃え上がっているかのようにも見え、圧倒される。ここに表現されているのは、聖母がイエスの誕生を告げられる「受胎告知」、つまり「キリスト教の始まり」である。突然現れた天使に驚きの身振りを示しつつも、聖母はヴェールを片手で持ち上げながら、静かに語りかけられる言葉に耳を傾けている。

 実は、この主題は、ヴェネツィア人たちにとって特別な意味を持つものだった。伝承によると、蛮族の襲来を逃れた人々によってヴェネツィアが建国されたのが421年の3月25日、受胎告知の祝日だったのである。つまり、ヴェネツィア人にとって、「受胎告知」の主題は二重の意味で「起源」を示すテーマだったということになる。あふれ出る光の中で展開されるこのドラマを、ヴェネツィア人たちがどのような思いを込めて見上げていたのか、思いを馳せながら作品の前に立つのも楽しみ方のひとつだろう。

躍動感とドラマ ティントレット《聖母被昇天》

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ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ) 聖母被昇天 1550年頃 ヴェネツィア、アカデミア美術館蔵

 最後に、ティツィアーノに続く世代を取り上げよう。16世紀半ば、ティツィアーノがハプスブルク家の宮廷画家になったのと同じ頃、一人の画家がヴェネツィアで華々しくデビューする。彼の名はヤコポ・ロブスティ(通称ヤコポ・ティントレット、1519~1594)、彼は「ティツィアーノの色彩とミケランジェロの素描」をモットーとしていたと言われている。

 《聖母被昇天》は、1550年頃、デビューから間もない時期の作品である。聖母が天に昇ろうとする瞬間を描いている。驚く使徒たちの視線をたどった先に、聖母はやや腰をひねりながら、上へ上へとねじり込まれるようにして上昇していくように見える。

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ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロプスティ) 動物の創造 1550-53 ヴェネツィア、アカデミア美術館蔵

 いっぽう、同室内にある同じくティントレットによる《動物の創造》(1550-53)を見てみよう。こちらは旧約聖書の創世記の5日目と6日目、水陸の生物たちの創造を描いている。画面中央では金色の光をまとって浮遊する創造主(神)が不思議な存在を放つ。その背後では彼によって生み出された、おびただしい数の魚や鳥、動物が右から左へと移動していく様子が躍動感をもって表現されている。どちらの作品もまるで映画のワンシーンを切り取ったようである。

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「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」の展示風景

 今回は、展覧会出品作の中から、3人の画家を選んで紹介した。しかし、ベッリーニのライバル工房の流れを組み、独自の画風を築いたカルロ・クリヴェリや、ティントレットのライバルで、華やかな色彩と安定した古典的表現が特徴的なパオロ・ヴェロネーゼなど、注目すべき画家や作品は数多くある。それらを一度に目にすることのできる本展覧会は、まさに宝石箱にもたとえられよう。ぜひ展覧会に足を運び、それぞれに魅力をもった作品に触れていただきたい。

日伊国交樹立150周年特別展
アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち
会期:2016年7月13日~10月10日
会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話番号:03-5777-8600(ハローダイアル)
開館時間:10:00~18:00
金曜日、8月6日・13日・20日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日 ※ただし8月16日は開館
入館料:一般 1600円 / 大学生 1200円 / 高校生800円 中学生以下無料
URL:http://www.tbs.co.jp/venice2016/

20世紀写真界の巨匠 アルバレス・ブラボの大回顧展が開催

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1920〜90年代のメキシコで、身の回りの静物や街の人々、著名人を被写体に、独特の空気感を湛えた作品を撮り続けた写真家、アルバレス・ブラボ。その約70年におよぶ活動をたどる、国内最大規模の回顧展が開催されている。世田谷美術館(東京・世田谷)にて、8月28日まで。

 1920年代のメキシコでは、革命の動乱の中で民族主義的な文化運動が盛んになっていた。特に美術界では壁画運動が展開され、モダニズム美術が開花した。こうした背景のもと、マヌエル・アルバレス・ブラボは、身の回りの静物のフォルムを強調するモダニズムの写真表現で20年代末に頭角を現した。

 身近な対象や街の光景を写し取る初期の作品をはじめ、著名人の肖像写真、原野の記録写真など多くの作品を残しているアルバレス・ブラボ。晩年の90年代末に至るまで、一貫して独自の静けさと詩情のある写真を撮り続け、20世紀の写真表現に大きな影響をもたらした。作品からは、鑑賞者の想像力に対する問いかけや作家の死生観、時代の空気を汲み取ることができる。

 本展は、作家遺族が運営するアーカイブの全面的な協力を得た、国内最大規模の回顧展となる。192点のモノクロプリントと多数の資料を全4部・9章構成で年代順に展示し、アルバレス・ブラボの約70年におよぶ活動をたどる。8月20日には、担当学芸員によるミニレクチャーも予定。

アルバレス・ブラボ写真展─メキシコ、静かなる光と時
会期:2016年7月2日~8月28日
会場:世田谷美術館 1階展示室
住所:東京都世田谷区砧公園1-2
電話番号:03-3415-6011
開館時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日:月休
入館料:一般 1000円 / 65歳以上 800円 / 大高生 800円 / 中小生 500円
URL:http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html

【関連イベント】
ミニレクチャー「30分でよくわかる!アルバレス・ブラボ写真展のポイント」
開催日:8月20日 15:30〜16:00

六本木アートナイト 2016、メインアーティストは名和晃平!

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 8年目を迎えるアートの祭典「六本木アートナイト 2016」の概要が発表された。国際会議「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」に合わせて初の10月開催となる今回は、名和晃平をメインアーティストに起用。「六本木、アートのプレイグラウンド~回る、走る、やってみる。~」をテーマに3日間で多数のプログラムが開催される。

 これまで一夜限りのアートイベントとして多くの来場者を動員してきた六本木アートナイト。今年は2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどを見据え、オリンピック・パラリンピック・ムーブメントを国際的に高めるためのキックオフイベントとなる国際会議「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」と連携し、10月21日〜23日の開催となる。

 メインプログラムのアーティストは国内外で作品を発表し続ける現代美術家・名和晃平。同氏が希少植物を追って世界中を飛び回るプラントハンター・西畠清順、バルーン(風船)の既成概念を覆す大胆な発想でファッション業界からも高い評価を得ているバルーン・ユニット「デイジーバルーン」とタッグを組んでメインプログラムに挑戦。"六本木の「森」で迎える、文化の夜明け"をコンセプトに、六本木ヒルズアリーナ、国立新美術館、東京ミッドタウンの3か所でプログラムを展開する。

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メインビジュアル

 また、メインビジュアルはグラフィックやモーショングラフィックを中心に活動するgroovisionsがデザインし、テーマである「六本木、アートのプレイグラウンド~回る、走る、やってみる。~」を具現化させている。

 今回のテーマについて実行委員長で森美術館館長の南條史生氏は次のように語る。

今年の六本木アートナイトは、六本木をプレイグラウンド、つまり遊園地のようにしてみよう、ということがテーマです。そこには子供の頃に走り回った遊園地や校庭、裏庭のような楽しく自由に遊び回れるみんなの広場という意味が込められています。そしてそんな広場では、子供たちは走ったり、投げたり、競争したり、遊びとスポーツの原点が混じって楽しい時間を作り出していたのではないでしょうか。
2020年にオリンピック・パラリンピックを迎える東京。そんな東京にふさわしいプレイグラウンドを用意しました。今年は世界各国から集まったアートやパフォーマンスが入り乱れて、大勢の参加者を楽しませてくれるでしょう。
プレスリリースより

 なお、広域プログラムではフランスを拠点として国際的に活動しているスペクタクル・パフォーマンスグループ「カンパニー・デ・キダム」の『誇り高き馬』や東京オリンピック・パラリンピックの文化プログラムを先導する都のリーディングプロジェクト「東京キャラバン」が行われるほか、「街なかインスタレーション」としてチェ・ジョンファや八木良太、ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスなどの作品が六本木の街を彩る。

 各プログラムの詳細については公式サイトに随時UPされていく予定。

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2015年駒沢オリンピック公園での公開ワークショップの様子(撮影:井上嘉和)

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八木良太《たこ焼きシーケンサー》 撮影:Omote Nobusada
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チェ・ジョンファ《Flower Chandelier》2012
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六本木アートナイト2015の様子 ©六本木アートナイト実行委員会
六本木アートナイト 2016
会期:2016年10月21日~10月23日
会場:六本木ヒルズ、森美術館、東京ミッドタウン、サントリー美術館、21_21 DESIGN SIGHT、国立新美術館、六本木商店街、その他六本木地区の協力施設や公共スペース
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:<コアタイム①>10月21日 17:30~24:00 <デイタイム>10月22日 11:00~17:30 <コアタイム②>10月22日 17:30~10月23日 6:00
入館料:無料(但し、一部のプログラム及び美術館企画展は有料)
URL:http://www.roppongiartnight.com/2016/

KAATで塩田千春のヴェネツィア・ビエンナーレ帰国記念展開催

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昨年、第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展で日本代表作家として日本館に出品した塩田千春が、KAAT神奈川芸術劇場で帰国記念展を行う。

 塩田千春は1972年大阪府生まれで現在ベルリンを拠点に活動を続けている。「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しながら大規模なインスタレーションを中心に、立体や写真、映像など多様な表現方法によって作品を発表してきた。

 第56回ヴェネツィア・ビエンナーレでは大量の赤い糸と世界中の人々から集められた鍵を使った《掌の鍵》を発表した。今回の帰国記念展では同作を再構成し、新作として展示する。ビエンナーレで使用した赤い糸と鍵、そして5つの古い扉を使い、《鍵のかかった部屋》と題し制作展示されるという。

 また本展では、空間芸術と時間芸術との実験的な取り組みとして、KAAT神奈川芸術劇場・芸術監督の白井晃、神奈川芸術文化財団・芸術総監督の一柳慧プロデュースによるダンス・音楽の公演を展示空間で上演。ダンスプログラムでは、気鋭のダンサー・振付家である酒井幸菜、平原慎太郎、それぞれの振付・出演による2企画を開催し、音楽プログラムでは白井がセレクトしたミュージシャンmama!milkによる公演と、一柳自らがこの企画のために選りすぐったミュージシャンによるプロデュース公演が行われる。

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2015年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館での《掌の鍵》 Photo: Sunhi Mang
塩田千春 | 鍵のかかった部屋
会期:2016年9月14日~10月10日
会場:KAAT神奈川芸術劇場
住所:神奈川県横浜市中区山下町281
電話番号:045-633-6500
開館時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
休館日:なし
入館料:一般 900円、学生・65歳以上 500円、高校生以下無料
URL:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/

【関連イベント】
酒井幸菜 "I'm here, still or yet"
振付・出演:酒井幸菜
日時:9月23日〜25日 各日ともに19:30開演
会場:KAAT神奈川芸術劇場
料金:前売 3,500円当日 4,000円(日時指定・全席自由・税込み)
チケット一般発売:8月7日
URL:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/events/i-m-here-still-or-yet/

平原慎太郎 のぞき/know the key
振付・演出・出演:平原慎太郎
日時:9月30日〜10月2日 各日ともに19:30開演
会場:KAAT神奈川芸術劇場
料金:前売 3,500円当日 4,000円(日時指定・全席自由・税込み)
チケット一般発売:8月7日
URL:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/events/know-the-key/

2台のコントラバスと古い扉とアコーディオンと無数の鍵による組曲
音楽:mama!milk
演奏:清水恒輔・守屋拓之(コントラバス)/生駒祐子(アコーディオン)
日時:10月8日 19:00開演
会場:KAAT神奈川芸術劇場
料金:前売 3,500円/当日 4,000円(日時指定・全席自由・税込み)
チケット一般発売:8月7日
URL:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/events/mamamilk/

一柳慧プロデュース Music with and without the key
出演:インナーランドスケープvariationsほか/中川俊郎/中川賢一
日時:10月9日 19:00/20:30開演(2公演は同一プログラム)
料金:前売/当日 3,000円(日時指定・全席自由・税込み)
チケット一般発売:8月7日
URL:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/events/music-with-and-without-the-key/

真夏の夜の上映会、トヨダヒトシのスライド作品が原美術館で

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35mmフィルムによるスライドショーという形式でのみ発表を続ける写真家・トヨダヒトシが、原美術館(東京・品川)で8月13日・14日の2夜限りの野外上映会(※荒天の場合は屋内での上映)を行う。第1夜は、2007年から16年までにトヨダが撮影した写真を編集したスライド作品《spoonfulriver ひと匙の河》を上映。第2夜は、2003年にこの世を去った日本の環境音楽の第一人者、故・吉村弘が撮影した写真をトヨダが約40分のスライドショーに編集した作品《for Nine Postcards》を上映する。

 写真家・トヨダヒトシは、プリント作品や写真集という形で写真作品を発表しない。したがって、スライドショーの上映の機会に立ち会わなければ、基本的に彼の作品を鑑賞することはできない。当然鑑賞の機会は限られてしまうが、その作品に触れた人は、彼が守り貫いている発表スタイルの必然性にきっと納得することだろう。

 カタン、カタン、というスライド映写機の音だけが響く静けさのなかで、目の前に立ち現れては数秒で消えていく写真の数々。ほとんどが写真家のごく私的な日々の一コマであり、そのささやかな瞬間の連続からなる映像日記に、多くの鑑賞者は生きることの切なさや愛おしさを感じ取るのではないだろうか。映写機にこもる熱気までを肌身に感じるような、その場かぎりの貴重な体験だ。

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トヨダヒトシ 《spoonfulriver》より 2007-2016

 今回、原美術館で開催される上映会は、第1夜と第2夜で趣きが異なる。第1夜(8月13日)は、トヨダが一貫している作品発表のスタイルにならったサイレント作品の上映。第2夜(8月14日)に上映される作品は、故・吉村弘が撮影したスライド写真の中から、トヨダが写真を選びスライドショーに編集し、吉村の音楽を付した、吉村へのオマージュ作品である。吉村が遺した2,800枚のスライド写真の中から、トヨダがどのような日々の輝きをすくい上げ、一人の音楽家が生きた軌跡を描いているか、実に興味深い。第2夜は作品上映後に30分ほどのトークイベントも予定されている。

 ちなみに、吉村弘と会場の原美術館との所縁は深く、吉村のファーストアルバム『ナイン・ポストカード』(1982)は、開館して間もない原美術館を吉村が訪れ強い感銘を受けたことが契機となって誕生した。来場者は、さまざまな巡り合わせに思いを馳せながら、夏の一夜を楽しむことになるだろう。

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トヨダヒトシ 《for Nine Postcards》より 2015

 なお、両日とも荒天の場合は、原美術館内ホールでの上映会となる。上映会への参加は予約制となるが、荒天時の館内上映は席数が限られるため、現在は野外上映会が決行された場合(※)の参加という条件付きでの予約を受付中とのこと。野外上映の場合は当日券も発行予定。両日が好天であることを祈りたい。(※ 野外上映会の開催の可否は当日11:00までに原美術館HPにて発表)

トヨダ ヒトシ 映像日記・スライドショー
日時:2016年8月13日、14日 両日とも19:15開演
内容:13日上映作品《spoonfulriver ひと匙の河》
   14日上映作品《for Nine Postcards》
    ※上映後、水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)とトヨダヒトシによるアフタートークあり
会場:原美術館(中庭)
所在地:東京都品川区北品川4-7-25
電話番号:03-3445-0651(代)
料金:一般 1800円 / 学生 1600円 (予約制、当日精算、入館料込、全席自由)
申込み:原美術館受付、または予約専用メールアドレス toyoda-ticket@haramuseum.or.jp へ(「名前、希望日、人数、日中連絡可能な電話番号、原美術館メンバーは会員番号」をお知らせください。)

森山大道ら撮り下ろしのタブロイド写真集がBEAMSで無料配布

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セレクトショップのBEAMSと富士フイルムが共同で企画。森山大道と茂木モニカ、塩田正幸が"チェキ"で撮り下ろした作品が収録されたタブロイド写真集『新宿百景』の無料配布が8月8日よりスタートした。

 この『新宿百景』は、ビームスが選出した3人の写真家が、富士フイルムのインスタントカメラ"チェキ"「instax mini 90」と「instax wide 300」を使用し新宿で撮影したもので、新宿の「ビームス ジャパン」をはじめ、全国のビームス店舗および原宿の富士フイルム直営写真店「WONDER PHOTO SHOP」など、一部の"チェキ"取扱店舗で配布されている。いずれの写真もこの企画のために撮り下ろされたもので、使用された機種は展示期間中、新宿の「ビームス ジャパン」で販売されている。

 また、8月29日までの期間、「ビームス ジャパン」では、写真集に掲載されたチェキフィルムと一部写真のパネルも展示。三者三様の新宿風景を楽しみたい。

新宿風景
タブロイド版 64ページ
写真:森山大道、茂木モニカ、塩田正幸
発行: 2016年8月8日
クリエイティブディレクション&編集:佐藤俊(株式会社佐藤俊事務所)
アートディレクション&デザイン:S
協力:FUJIFILM Imaging System

写真の町・北海道東川町で「国際写真フェスティバル」開催中

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北海道の北の中核都市・旭川から13キロメートルに位置する東川町は、写真甲子園の舞台としても知られる「写真の町」。7月26日より、「写真の町東川賞」受賞作家による展覧会を中心とした「東川町国際写真フェスティバル」が開催されている。

「東川町国際写真フェスティバル」は、1985年に「写真の町宣言」を行った東川町で、同年より毎年夏に開催されているイベント。約1か月の会期中には、作品展やシンポジウム、セミナー、撮影会、ポートフォリオレビューなど、写真にまつわるさまざまなプログラムが予定されている。

 メインとなるのは、「写真の町東川賞受賞作家作品展」。毎年対象地域が変わる「海外作家賞」、過去3年間に発表された作品で選考する「国内作家賞」「新人作家賞」、北海道出身または北海道がテーマの作品を発表している作家を対象とする「特別作家賞」、地域に密着した活動を続ける作家を対象とする「飛彈野数右衛門賞」に各1名が選出され、展覧会を開催する。

 今年の受賞者は、海外作家賞がコロンビアを代表する現代美術作家のオスカー・ムニョス、国内作家賞が建設、解体、掘削、災害などの現場をとらえた作品を発表している広川泰士、新人賞が日常の風景を独自の視点で切りとる池田葉子、特別作家賞が世界各地でモノクロ風景写真の撮影を続けるマイケル・ケンナ、飛彈野数右衛門賞が山陰の風土をスナップ写真で記録してきた池本喜巳。

 審査員は、浅葉克己(アートディレクター)、上野修(写真評論家)、笠原美智子(写真評論家)、楠本亜紀(写真評論家、キュレーター)、野町和嘉(写真家)、平野啓一郎(作家)、光田由里(美術評論家)、山崎博(写真家)が務めた。

東川町国際写真フェスティバル
会期:2016年7月26日~8月31日
会場:写真文化首都 北海道「写真の町」東川町 各所
電話番号:0166-82-2111(東川町写真の町課 写真の町推進室)
開館時間:会場により異なる
URL:http://photo-town.jp

時代を創造する者は誰か!? 今年も「TARO賞」が募集開始

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《太陽の塔》などで知られる芸術家・岡本太郎(1911-1996)を記念して創設された「岡本太郎現代芸術賞」が、今年も作品募集を受け付けている。今年度で20回目の開催となる本コンペティションでは、これまでにオル太、風間サチコ、キュンチョメ、サエボーグ、若木くるみらを輩出。入賞者には賞金のほか、展示開催の権利も授与される。

「岡本太郎現代芸術賞」は、岡本太郎の遺志を継ぎ「時代を創造する者は誰か」を謳う賞。そのコンセプトは、岡本太郎の著書『今日の芸術─時代を創造する者は誰か』(光文社知恵の森文庫)のサブタイトルからとられている。高さ・幅・奥行きが各5メートル以内の作品であれば、表現の技法は自由。応募者の国籍や年齢、キャリアも問わず、自由な発想から生まれる作品を広く募集する。

 応募期間は7月15日~9月15日。2017年2月2日の審査発表ののち、2月3日~4月9日に川崎市岡本太郎美術館(神奈川)にて入賞・入選作品による「第20回岡本太郎現代芸術賞展」が開催される。審査員は、美術批評家・椹木野衣、岡本太郎記念館館長・平野暁臣、川崎市岡本太郎美術館館長・北條秀衛、美術史家・山下裕二、ワタリウム美術館キュレーター・和多利浩一の5名が務める。

 大賞の岡本太郎賞(1名)には賞金200万円が、岡本敏子賞(1名)には100万円が、そして特別賞(若干名)には総額50万円が贈られる。また、岡本太郎賞と岡本敏子賞の受賞者には、岡本太郎記念館(東京・青山)での作品展示の機会も与えられる。今回は節目となる第20回目。どのような作品が選ばれるのか期待が高まる。

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第20回岡本太郎現代芸術賞
応募期間:2016年7月15日~9月15日
問い合わせ:044-900-9898(川崎市岡本太郎美術館 TARO賞係)
会場:川崎市岡本太郎美術館
住所:神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5
URL:www.taromuseum.jp

90年代生まれの「在日」作家による展覧会が神楽坂で開催中

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「在日」というアイデンティティーを共有する90年代生まれの作家3人による展覧会「在日・現在・美術 II」がeitoeiko(東京・神楽坂)で、8月13日まで開催されている。本展は、「朝鮮」と「日本」の2か国を背景に持つ作家たちが継続して行ってきた展覧会シリーズのひとつ。絵画や映像など、横断的なメディアの作品が展示される。

 1991年、日本で生まれた鄭梨愛(チョン・リエ)、鄭裕憬(チョン・ユギョン)、李晶玉(リ・ジョンオク)の3人は、朝鮮大学校教育学部美術科を卒業し、現在は東京を拠点に活動。これまで自身の「在日」という文化的背景に表現というかたちで向き合いつつ、作品制作を続けてきた。

 近年は、朝鮮大学校と隣接する武蔵野美術大学の学生による断続的な合同展を開催。直近では、両校を隔てる塀の上に橋を設置して行われた「突然、目の前がひらけて」展(2015年)が、「隔たり」を越える「架け橋」となることに挑戦した展覧会として注目を集め、今後も断続的な開催を目指している。

 本展では3作家による絵画作品10点に加え、映像やミクストメディアの作品を展示。文化的、社会的な多様性に目を向ける若き表現者たちの現在を、概観することができる。

在日・現在・美術 II
会期:2016年7月22日~8月13日
会場:eitoeiko
住所:東京都新宿区矢来町32-2
電話番号:03-6873-3830
開館時間:12:00~19:00
休館日:日月休
URL:http://eitoeiko.com/

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武蔵美×朝鮮大「突然、目の前がひらけて」出品作家インタビュー
見えない橋を架ける。椹木野衣が見た「突然、目の前がひらけて

あいちトリエンナーレ2016開幕レポート!【名古屋編】

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今年で3回目を迎える「あいちトリエンナーレ2016」が、いよいよ8月11日に開幕する。今年はテーマに「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」を掲げ、38の国と地域から119組のアーティストが参加。名古屋、豊橋、岡崎の街なかに作品が展開されている。愛知県美術館や名古屋市美術館を中心に、注目の作品を名古屋編と豊橋・岡崎編の2回に分けてレポートする。

世界に対峙し、未来へ希望をつなぐ芸術祭

 開幕前日の10日に行われた記者会見で、港千尋芸術監督は「予想以上の規模と内容。激動する世界に正面から向き合い、希望を未来につないでいこうとするアーティストたちの真摯な姿勢を、訪れた人と共有できる芸術祭となっている自信がある。幅広い方に見てほしい」と手応えを語った。

大巻伸嗣《Echoes-Infinity》(愛知県美術館)

aichi_omakiglass.jpg愛知県美術館での展示風景。顔料の粉が入ったグラスが108個並ぶ

 様々な空間をダイナミックかつ繊細なインスタレーションで変容させてきた大巻伸嗣。愛知県美術館では一辺が15m以上あるホワイトキューブを、顔料の粉を使いステンシルで描かれた花模様で埋め尽くし、圧倒的な色彩の空間を生み出した。また、作品制作の際に出た顔料の粉で満たされた108(この数は偶然のものだという)のグラスにも注目だ。このほか損保ジャパン日本興亜名古屋ビルでは、漆黒の闇の中に浮かび上がるインスタレーション作品《Liminal Air》を見せてくれる。

ジェリー・グレッツィンガー《Jerry's Map》(愛知県美術館)

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愛知県美術館でのジェリー・グレッツィンガー《Jerry's Map》の展示風景。床面にも作品が広がり、地図の上を歩くこともできる

 1963年から20年もの間、落描きとして「想像上の」地図を描き続けてきたジェリー・グレッツィンガー。今回の参加は、港芸術監督がパリでその作品に出会ったことがきっかけになったという。テーマである「虹のキャラヴァンサライ」に合致することから、メインビジュアルにも使われている。現在は3200以上のパネルで作品が成立。会場では実際に地図の上に乗ることもできるので、メインビジュアルに使われている部分を探してみるといった楽しみ方も。

刘 韡(リウ・ウェイ)《緑地》(愛知県美術館)

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愛知県美術館での刘 韡(リウ・ウェイ)《緑地》の展示風景(愛知県美術館)。ダイナミックな巨大インスタレーションが、愛知県美術館10階の最初の展示室に展開されている

 中国の急激な都市化を体験したリウ・ウェイは、巨大な金属部品や工業製品など都市を構成する素材を大胆に組み合わせ、展示室内に都市を再構成することを試みている。

マーク・マンダース《サイレント・スタジオ》(愛知県美術館)

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愛知県美術館でのマーク・マンダース《サイレント・スタジオ》の展示風景。床に置かれた新聞紙や監視スタッフが座る椅子に至るまで、スタジオの空間は仕掛けが盛り込まれた「作品」で構成されている

《サイレント・スタジオ》と題された今回の出品作は、マンダースのスタジオを模したものだ。しかしそこには一見粘土に見えるようなブロンズや木でできた本など、様々な仕掛けが盛り込まれており、必ずしもスタジオの再現ではない、独特の空間となっている。「これまでの作品とそれがつくられる現場を同時に見せたい」という本作。作品の中に深く入り込むような感覚を味わってほしい。

西尾美也+403architecture[dajiba]《パブローブ》(愛知県美術館)

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愛知県美術館での西尾美也+403architecture[dajiba]《パブローブ》の展示風景。展示してある服は、訪れた人が自由に借りることができる

 衣服をコミュニケーションツールとして作品を生み出してきた西尾美也は、建築家ユニット403architecture[dajiba]と共同し、公共空間としてのワードローブ《パブローブ》を展開する。公募で集まった大量の衣服が掛けられた空間からは、実際に衣服をレンタルしたりリメイクしたりすることができ、見知らぬ人と人との間を衣服がつないでいく。

ジョヴァンニ・アンセルモ《星々が1スパン近づくところ》(名古屋市美術館)

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名古屋市美術館でのジョヴァンニ・アンセルモ《星々が1スパン近づくところ》の展示風景。外光が降り注ぐ、美術館の建築も見どころだ

 1960年代後期の美術運動、アルテ・ポーヴェラを代表する作家のひとり、ジョヴァンニ・アンセルモは、名古屋市美術館で文字を使ったシリーズから新作を発表する。地球の動きを把握して作品を生み出すアンセルモは、南北軸を貫き、光が多く降り注ぐ同館の場所性を強く意識。作品には高さがあるため、その分だけ天空に近づくというコンセプトが込められている。

端聡《液体は熱エネルギーにより気体となり、冷えて液体に戻る。そうあるべきだ。》(旧明治屋栄ビル)

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端聡《液体は熱エネルギーにより気体となり、冷えて液体に戻る。そうあるべきだ。》の展示風景。1938年に完成したレトロ建築・旧明治屋には、他にソン・サンヒの映像作品など、見応えある作品が揃う

 「札幌国際芸術祭2014」でディレクターを務めた端聡は、「水の記憶」や「物質とエネルギー」をテーマに作品を制作してきた。今回は水が強力な光源に滴ることで蒸気が発生し、その蒸気がまた水滴となり降り注ぐという、定量の水が循環し続ける装置としての作品を見せる。

長者町会場にも注目!

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ルアンルパの「ルル学校」では、会期中に講師を招いて様々なアクティビティを行う計画
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「D&DEPARTMENT PROJECT」では、本展にあわせて観光ガイド『d design travel AICHI』を刊行

 そのほか、長者町会場(名古屋市)では、インドネシアのアーティスト・コレクティブ、ルアンルパによるコミュニティ・スペース「ルル学校」や、デザイナーのナガオカケンメイが創設した「D&DEPARTMENT PROJECT」が愛知県内で出会ったモノを紹介する展示など、アートの枠組みを超えた企画が展開されている。

豊橋・岡崎編もお楽しみに!

あいちトリエンナーレ2016
会期:2016年8月11日~10月23日
主な会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市・豊橋市・岡崎市内の各所
開館時間:会場によって異なる 
休館日:会場によって異なる 
入館料:現代美術(国際展)一般 1800円 / 大学生 1300円 / 高校生 700円
    パフォーミングアーツ 演目や座席によって異なる
    プロデュースオペラ 座席によって異なる
URL:http://aichitriennale.jp/

現代の崇高な風景を描く、フリードリッヒ・クナスに聞く。

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奇想天外な視覚言語で混沌とした世界観を創造するフリードリッヒ・クナス。 今春開催された個展に際し、理想と現実、陰鬱と陽気、真摯と冗談など、両極性を自由自在に操る作家に、 これまでの歩みと制作の裏側についてインタビューした。

ドイツ・ロマン主義とアメリカ西海岸カルチャーが出会う風景

 旧東ドイツのケムニッツ出身、ロサンジェルス在住のフリードリッヒ・クナスによる6年ぶり2度目の東京での個展が、Kaikai Kiki Galleryで開催された。本展で発表された新作では、ロマン主義を想起させる崇高な風景と西海岸カルチャーのドライな軽快さが同一平面上で出会い、独特のイメージを生み出している。アーティストになった経緯から本展の見どころまで、話を聞いた。

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I usually get up around 6:48 because Harald meows harder than he does around 5:30 2016 キャンバスにアクリル絵具、水彩 152.4×182.9×5.1cm

「子どもの頃の私は集中力を欠きがちで、15歳のときには不登校になり、街をぶらつくようになりました。そんななか、当時母が経営していた小さなギャラリ ーでA・R・ペンクの展覧会を見る機会があり、彼の作品に触発されてなんとなく絵を描き始めました。それを知った母が、私に内緒で美術大学へ出願したら、合格してしまったのです。まだ10代だった私は、年上の学生たちに交じって美術を学ぶことになりました。つまり、私の作家活動は何かの間違いから始まったもので、当初は不満やジョークのような気持ちしかありませんでした。その感覚は今でも残っていて、いつも美術との距離を感じています。私が美術を選んだのではなく、むしろ美術のほうが急に私の人生へ飛び込んできたのです。美術を学び始めて数年後、私はようやく自分の複雑な感情を視覚的に表現できると確信し、自分の置かれた状況を受け入れることにしました。

 とはいえ、私は古典的な正統派の美術教育を受けたわけではありません。大学の先生は、ヨーゼフ・ボイス、リチャード・プリンス、レオナルド・ダ・ヴィンチ、アンセル・アダムスなどの作品集と一緒に、哲学書や文学作品などの幅広い作家とジャンルを紹介してくれたので、私はハイアートとサブカルチャーを分け隔てなく自然に学ぶことができました。もっとも、10代後半の少年にとっては、美術史を学ぶよりも街中で音楽やドラッグを楽しむことのほうが刺激に満ちていましたけどね。若いうちに知識を詰め込むことは、規範で自分を束縛し、表現の可能性を摘むことにもつながりかねないと思います」。

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A Fucking Landscape 2016 キャンバスにアクリル絵具、木炭 167.6×240×3.8cm

 こうして1990年代にドイツでアーティストとしての活動を開始したクナスは、2000年代にロサンジェルスへ移住する。

「私は共産主義体制の東ドイツで生まれ育ったので、西への憧れは幼い頃からありました。西はつねに希望や新たな始まりを象徴していて、その最果ての地がロサンジェルスです。作家活動の初期を過ごした90年代のケルンは、都市化が急速に進み、アーティストたちのコミュニティーも徐々に窮屈になっていました。そんななか、2003年にアートバーゼル・バーゼルで発表したビデオアートがきっかけで、BLUM&POEからロサンジェルスでのグループ展参加の誘いを受けました。

 同地を初めて訪れたとき、太陽の日差しが印象的でした。それまでドイツ・ロマン主義的な哀愁や長くて重苦しい歴史を扱っており、ドイツにいることが耐えられなくなっていたので、すぐに移住を決意しました。自分が向き合ってきたテーマを客観的にとらえ直すためにも、海外へ渡り、距離をとることは有効だと考えました。歴史の浅いロサンジェルスでは、より自由に制作できるように感じますし、自由な雰囲気が自分の作品をより完全なものにしてくれると確信しています。私の作品をハリウッド映画に例えるなら、キャンバスはスクリーン、風景は書き割りのようなもの。エアーブラシを使用するのも、そうした西海岸的な要素の一つです」。

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ホワイトキューブ(ホクストン・スクエア、ロンドン)で2011年4月15日〜6月11日に開催された「The most beautiful world in the world」の展示風景 © the artist Photo: © White Cube (Ben Westoby)

痛みを伴う現代の崇高な風景

 本展でクナスが挑んだのは「風景画」である。現代において風景を描く意図はなんなのか。「風景と人間を対比させることで、無力な人間の存在を描き出したいのです。風景は時間を超越したもので、それに比べると人の一生はとても短い。崇高な風景を目の前にすると、私たちの営みは取るに足らないもので、戯画のように見えてきます。同時に、それは喪失や死と隣り合わせにあります。そのような私の自然観、人生観を反映した展覧会名は、作品の視覚的なバカバカしさと対をなしています。また、展示構成も畳部屋とホワイトキューブ空間で変化をつけました。前者は親密な空間なので、幼少期の記憶など主観的な世界をモチーフに選びました。後者では、風景やコミュニティーに対してより客観的なアプローチを試みました。

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The Journey 2016 キャンバスにアクリル絵具 182.9×152.4×3.8cm

 私が特に影響を受けた風景画家は、ドイツ・ロマン主義のカスパー・ダーヴィト・フリードリヒとハドソン・リバー派のフレデリック・チャーチです。フリードリヒが風景を感傷的に描いたように、私も静的なものや風景をロマンティックに表現したいと思っています。ただ、それは「哀愁(ノスタルジア)=痛みや傷を伴わない記憶」という意味ではありません。私は、闇、痛み、ヒステリー、愚直、エロティシズムなども含んだ複雑な感情を探究しています。また、1820年代のハドソン・リバー派がアメリカの原生自然を発見したように、現代に生きる私もロサンジェルスで未知の風景を発見したいと思っています」。

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Flint Canyon Tennis Club 2016 キャンバスにアクリル絵具、シルクスクリーン 193×162.6×3.2cm

 クナスは、戯画を思わせる細くて軽妙なタッチによって歴史や風景の重圧を巧みにかわしながら、人間の深遠な精神へ迫ろうとする。それは、高尚と低俗、外界と内面、現実と理想が不可分に入り交じった現代人の心象風景だと言えるだろう。

近藤亮介=文
『美術手帖』2016年8月号「ARTIST PICK UP」より)

PROFILE
FRIEDRICH KUNATH 1974年ケムニッツ(旧東ドイツ)生まれ、ロサンジェルス在住。横断的なメディアと通俗的なモチーフを駆使し、人間の憂愁や悲哀を滑稽かつ大胆に表現している。主な個展に10年ハマー美術館(LA)、13年オックスフォード現代美術館、14年クンストハレ・ブレーマーハーフェン(ドイツ)。16年「村上隆のスーパーフラット・コレクション」展(横浜美術館)など多数のグループ展に参加。

フリードリッヒ・クナス「The World Is A Beautiful Place (We're Not Here For Long)」
会期:2016年4月15日~5月12日(終了)
会場:Kaikai Kiki Gallery
住所:東京都港区元麻布2-3-30元麻布クレストビルB1F
電話番号:03-6823-6038
開館時間:11:00~19:00
休館日:日月祝休
URL:gallery-kaikaikiki.com

あいちトリエンナーレ2016開幕レポート!【岡崎・豊橋編】

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今年で3回目を迎える「あいちトリエンナーレ2016」がついに開幕。今年はテーマに「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」を掲げ、38の国と地域から119組のアーティストが参加。名古屋、豊橋、岡崎の街なかに作品が展開されている。注目の作品を名古屋編と岡崎・豊橋編の2回に分けてレポートする。

会場の固有性に注目! 岡崎・豊橋会場

 前回の「あいちトリエンナーレ2013」でも会場だった岡崎に加え、今回は豊橋が本会場のひとつに加わった。城下町として栄え、今もその気配が色濃く残る岡崎では、1977年に開店したショッピングセンター「岡崎シビコ」を中心に、154年の歴史を持つ「石原邸」などに作品が展示。また豊橋では、1960年代に農業用水路を塞ぐように建てられた長さ800mに及ぶ「水上ビル」や、1972年に開業した「開発ビル」など、土地の記憶を今に伝える場所が会場として使用されており、作品と場所の交わりに注目したい。

二藤建人(名鉄東岡崎駅ビル)

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名鉄東岡崎駅ビルでの二藤建人《空に触れる》の展示風景。素材として使用された土は愛知県内で採取されたもの
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名鉄東岡崎駅ビルでの二藤建人《手を合わせる》の展示風景。用意された湯と水を使って左右の手の温度に差を生じさせたうえで手を合わせることで、両手の感覚が一体化するのを感じてほしいという

 1986年生まれの彫刻家・二藤建人は、昭和の雰囲気が残る名鉄東岡崎駅ビル内のスペースに、映像や立体作品を展開。 国境上に立ったり、半身だけ日焼けをしたりすることで身体を左右に「分ける」プロジェクトや、他者の重さを受け取る体験ができる装置、谷底を「空の頂上」ととらえた《空に触れる》などの作品群は、身体感覚に加え、分断・重量・反転といった造形の概念を拡張させていく。

シュレヤス・カルレ《帰ってきた、帰ってきた:横のドアから入って》(岡崎表屋)

IMG_0639.JPG岡崎表屋でのシュレヤス・カルレ《帰ってきた、帰ってきた:横のドアから入って》の展示風景。作品とファウンドオブジェクトが混在する不思議な空間が広がる
aichi_bill.JPG会場となった「岡崎表屋」は、いまもオフィスとして使われるモダン建築

 戦後間もなく建てられた岡崎表屋では、インド人アーティストのシュレヤス・カルレが建物の2・3階部分を使ったインスタレーションを見せている。インドで制作したオブジェとともに、もともと人が住んでいた表屋にあった家具や雑貨(椅子や食器、テレビなど)を使用し、手を加えて展示することで、作品でないものが作品になる過程を提示する。「どこからが作品なのか」を問うようなモノが集まった「アンチ・ミュージアム」を目指したという。時の経過を感じさせるモダニズム建築の構造や、ディテールも楽しめる。

コラムプロジェクト「トランスディメンション─イメージの未来形」(岡崎シビコ)

aichi_cibico.JPG岡崎シビコでの展示風景。手前は横田大輔の《Matter/Vomit》

 岡崎シビコでは小企画、「コラムプロジェクト」として写真をテーマにした「トランスディメンションーイメージの未来形」が大空間を活かして行われている。会場にはポスト・インターネット時代における写真の3D化に焦点を当て、赤石隆明、勝又公仁彦、小山泰介+名和晃平、横田大輔、ルーカス・ブラロックの5組が巨大インスタレーションを中心に作品を展開。既存の写真表現とは異なるアプローチを体感することができる。また、同じフロアには野村在やハッサン・ハーンの作品も。

ラウラ・リマ《フーガ》(豊橋・水上ビル)

aichi_tori.JPG水上ビルでのラウラ・リマ《フーガ》展示風景。1階から屋上まで、様々なオブジェクトを使用して鳥たちのための住居がつくられている

 リオ・デ・ジャネイロを拠点に、90年代半ばから、自ら「イメージ」と呼ぶ一連の作品を生み出してきたラウラ・リマ。今回は水上ビルの1軒分を100羽の鳥のための棲家に変容させた。台所やトイレ、押入れなど建物の至るところに鳥が羽を休めるための装置が設置してあり、鳥は建物内を自由に行き交うことができる。鑑賞者は本来自分たち人間が住むはずの場所に、異質な存在として入っていくことになる。

リビジウンガ・カルドーゾ《日蝕現象 Achado arqueologico, achado nao e roubado》(豊橋・はざまビル大場)

aichi_nave.JPGはざまビル大場でのリビジウンガ・カルドーゾ《日蝕現象 Achado arqueologico, achado nao e roubado》の展示風景。社会科学と視覚芸術を学んだ作家は、作品制作、ワークショップなど、多様なアプローチで活動を展開している

  アマゾン川周辺地域でDJブースのように使われるという「音の船」、ナーヴェを展示しているのは、ブラジル生まれのリビジウンガ・カルドーゾ(別名:レアンドロ・ネレフ)。現地にはナーヴェのデザイナーも存在し、様々な形態のものがつくられているという。今回作家が行ったプロジェクトは、自国の文化であるナーヴェを、 地球の反対側に位置する日本まで「旅」をさせること。最終的には物々交換によって訪れた人に譲り渡す計画で、現在交換相手を募集中だ。会期中は、設置された装置でサウンドを自由に操作したり、ナーヴェに乗って写真を撮ったりして楽しむことができる。

石田尚志《絵馬・絵巻》(豊橋・開発ビル)

aichi_ishida2.JPG開発ビル10階での石田尚志《絵馬・絵巻》の展示風景。リハーサル室の空間を用いたインスタレーションの様子
aichi_ishida.JPG開発ビル10階での石田尚志《絵馬・絵巻》の展示風景。劇場内の空間をいっぱいに使い、ライトボックスを用いた作品をインストール

 身体の軌跡として生み出される線を用いて映像や絵画を制作する石田尚志は、開発ビル内の旧劇場施設を使った新作を発表している。抽象アニメーションを制作する背景には「音楽を視覚化する欲望」があると語る石田は、舞台空間だけでなく楽屋やリハーサル室として使われていた部屋にも、それぞれ映像作品を展開。楽屋では演奏会前の高揚を表現するなど、空間の持つ記憶に寄り添い、音楽会に至るまでのストーリーを作品化しているという。

aichi_kobayashi.JPG開発ビル6階での小林耕平《東・海・道・中・膝・栗・毛》展示風景。「東海道中膝栗毛」の物語を再解釈し、自ら出演する映像インスタレーションとして構成した

 そのほか豊橋会場では、小林耕平、佐々木愛、久門剛史、ハーバード大学感覚民族誌学ラボなどが作品を発表。古くから交通の要所であったこの土地の歴史や環境に着目して制作された作品も多く、特徴的な展示空間とのコラボレーションに注目だ。

 芸術監督・港千尋によるテーマ「虹のキャラヴァンサライ」のもと、アートの枠組みにとらわれない様々な視点で創造された作品が揃う、今年のあいちトリエンナーレ。国際展に加え、パフォーミングアーツや映像プログラムも充実している。ぜひすべての会場を楽しんでほしい。 

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あいちトリエンナーレ2016開幕レポート!【名古屋編】

あいちトリエンナーレ2016
会期:2016年8月11日~10月23日
主な会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市・豊橋市・岡崎市内の各所
開館時間:会場によって異なる 
休館日:会場によって異なる 
入館料:現代美術(国際展)一般 1800円 / 大学生 1300円 / 高校生 700円
    パフォーミングアーツ 演目や座席によって異なる
    プロデュースオペラ 座席によって異なる
URL:http://aichitriennale.jp/

新アワード開催 審査員・三潴末雄が考える絵画のマーケットとは

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絵具メーカーのターナー色彩が、アクリル絵具を用いた作品の公募展「アクリルガッシュ ビエンナーレ 2016」を新たに開催する。国際的な舞台に挑む画家を支援するコンペティションに先がけ、審査員を務めるミヅマアートギャラリー代表・三潴末雄に、2回にわたって話を聞く。前編の本記事では、三潴の目に映る世界のマーケットに迫る。

 三潴末雄は、主宰するミヅマアートギャラリーで多くのペインティング作品を扱っている。アーティストの用いるメディウムやメディアが多様化しているなか、古くからあるペインティングという手法に関心を寄せ続けるのはなぜだろうか。
「世界中で見つかっている太古の洞窟壁画からもわかるように、食糧など生存に必要な情報を仲間や次の世代に伝えるといった人類にとって重要な役割を、絵画は担ってきました。それだけでなく、ものを写したり自分たちの姿を絵でとらえる行為は、何か人間の根源的な欲求にも関わっているのでしょう。そのため絵画は、どの地域でも大いに発展してきました」。

 ほかにも、人の手で愚直に生み出されていくものである点に、三潴は絵画の強さを見出す。

「どんな素材を用いるにしても、ひと筆ずつ手を動かして仕上げていくのが絵画。そこに面白さが生じるのだと僕は思っています。いまはインターネット上の検索エンジンにかければなんでも調べられて、そのエンジンを『先生』呼ばわりして頼り切っています。しかし、それでは誰もが同じ結論にたどり着くだけです。思考のプロセスは残らないし、葛藤も生じない。やはり、自らの目で見て、外に出ていかないかぎり、人を揺さぶる表現は出てこないのではないか。ひと筆ずつ身体を駆使して描き進めていく絵画は、時流からは外れているのかもしれないけれど、この時代に何かを生み出す可能性はあるように思えますね」。

マーケットに流れる一神教的価値観

 いっぽうで絵画は、たどってきた歴史の過程で何度も「絵画は終わった」などと宣言され、「殺されかける」目に遭ってきたのも事実だと、三潴は言う。
「例えば19世紀に写真術が誕生すれば、写実は写真のほうが正確なのだから、絵画はもう役割を終えたと言われた。ビデオアートやインスタレーションが盛んになれば、動きがなく平面でしかない絵画などもう死んだとされ、インターネットが市民権を得た現在でも、絵画はなんて弱い表現形式だと名指しされる。でも、何度殺されかけても、絵画は決して死なずに生き延びていく。そんな不思議な存在感に、興味が湧くんですよ」。

 では、アートマーケットにおけるペインティングの位置づけはどのようなものか。インスタレーションや映像作品に比べ、落ち着きを見せているのではないだろうか。
「そんなことはないですよ。いまだって確固たる地位を占めているとは思います。ただし、ある種の偏りは見てとれます。現在の絵画は、抽象表現が圧倒的に幅を利かせているのです。この理由ははっきりしていて、アートマーケットの中心が欧米だから。キリスト教にしてもイスラム教にしても、彼らの中心的な考え方は一神教的であって、偶像崇拝を嫌います。それに、新しい顧客層である金融関係のエスタブリッシュメントは、たいてい数字を追いかけて疲弊している。プライベートで触れるアートには意味や具体性を求めず、どちらかといえば漠然と眺めていられる抽象的な作品を好む傾向があります。私のギャラリーにいる会田誠や山口晃、天明屋尚といったアーティストは、面白い作家であるのは間違いないけれど、いずれも具象的な作品をつくります。世界のアートマーケットでいちばんの売れっ子に、なかなかなれない所以です」。

 だが、マーケットにおける潮目は変わっていくもの。日本の画家に、チャンスが訪れないわけではない。
「まさにそこで、世界は常に変化しています。英国のEU離脱に見られるように、統合の流れは早晩弱まる気配です。一神教的世界観が支配する世の中は、そう長くは続かないのではないか。改めて各国の地域性が見直されるようになるはずです」。
そのときにはアジアの持つ価値観がヒントになる、と三潴は示唆する。
「例えばインドネシアは、イスラム教なのに、ヒンズー教や仏教も根づいています。日本はもっと混沌としていますよね。いろんな宗教が混じり合う寛容さがある。そういうのは、すばらしい思想だと思うのです」。

後編では、アジアの可能性やこれからの絵画の方向性について、探る。

(聞き手・構成山内宏泰

PROFILE
みずま・すえお ミヅマアートギャラリー代表。東京生まれ。1994年にミヅマアートギャラリーを開設。会田誠や山口晃など日本を代表する作家を多く扱う。北京やシンガポールにも展開し、アジアを中心とする国際的なアートシーンに紹介している。

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アクリルガッシュ ビエンナーレ 2016
応募期間:2016年10月1日~11月30日 ※消印有効
応募資格:国籍、年齢、経験の有無は問いません。公募展での未発表作品に限ります。二次審査用実物作品を自己負担にて搬入出できる方
作品規格:アクリルガッシュまたはアクリル絵具を使用した作品。S100号以内。重量10kg以内。移動可能なもの
     [平面]100号( S・F・P・M )以内。変形作品は100号面積まで可
     [立体]床占有面積900mm×900mm、高さ900mm以内
応募点数:制限なし
出品料:1点5,000円、2点目より1点につき3,000円
審査員:会田誠(美術家)、三潴末雄(ミヅマアートギャラリー代表)、岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)
賞:[大賞]1名。賞金50万円。副賞30万円相当の絵具。大賞受賞者は、『美術手帖』2017年3月号で紹介
  [優秀賞]5名。10万円相当の絵具。
  [入選]15名。3万円相当の絵具。
  [佳作]30名。1万円相当の絵具。
  入選以上の受賞作品は、2017年2月にターナーギャラリー(東京)で開催される受賞作品展に出品されます。
応募方法:①WEBサイト(http://www.turner.co.jp/acrylgouachebiennale/)
     ②応募用紙(画材店などで配布)

海と山と芸術が融合するKENPOKU ART 2016が開幕

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海と山、ふたつの景色を持つ茨城県北部は、都心からは1時間ほどのアクセスで、かつて岡倉天心や横山大観が創作活動の拠点にしていたアートにゆかりのある地域。そんな同地で「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」が9月17日から約2か月間開催される。「自然」との対話や「地域」との協力、そして「科学技術」の駆使をテーマに約100点のアート作品が展示される。

 海と山、両方の魅力を併せもつ、茨城県北部。明治初期、岡倉天心や横山大観が創作活動の拠点とした五浦海岸など、歴史的にもアートと深い関わりのある地域だ。この県北地域6市町の魅力を引き出し、新たな活力を創造するための芸術祭が開催される。

 作品数は約100点。設置場所は広範囲にわたり、海側の「五浦・高萩海浜」「日立駅周辺」、山側の「奥久慈清流」「常陸太田鯨ヶ丘」の4エリアに分かれる。「海か、山か、芸術か?」という芸術祭の標語には、「今日は海側を見ようか、山側に行こうか」という選択肢が秘められている。都心から約150キロメートル圏内で、日帰りも可能だ。

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イリヤ&エミリア・カバコフ 落ちてきた空 1995/2016
ロシアの世界的アーティストが高戸海岸にて、嵐によって吹き飛ばされた空のかけらが砂浜に突き刺さる様子を表現した大型彫刻を展開

 作品の特徴は、自然と対話するアート、地域と協力してつくるアート、科学技術を駆使したアートに光をあてる。この地域では古くから炭鉱や銅山が開かれ、研究学園都市、科学万博、総合電機メーカーの企業城下町といった背景のもと、高い技術力が培われてきた。それらのデジタルテクノロジーや、バイオアートなどの生命科学に言及した作品も加わる。

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落合陽一 コロイドディスプレイ 2012/2016
「現代の魔法使い」と呼ばれる落合は、旧美和中学校にて、シャボン玉の皮膜の上に、蝶が羽ばたく不思議な作品を制作

 芸術祭初の試み、他分野との共同制作「アートハッカソン」からは、例えば発酵食品を使うなど、数々の珍しいプロジェクトが生まれている。県下で20年以上続くアーティスト滞在プログラム「ARCUS」の出身者も集うなど、地元との結びつきも強い。

 新しい視点と実験に満ちた前代未聞の芸術祭。たくさんの驚きと発見を通して、現代の文明について考えさせられる体験になりそうだ。

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妹島和世 日立市新庁舎 © SANAA
写真は日立市出身の建築家・妹島和世が設計を手掛けている日立市新庁舎の様子。芸術祭のプロジェクトで妹島は、使われなくなった旧浅川温泉を再生し、初めて足湯の設計を行う

総合ディレクター・南條史生さんに聞くみどころ

 荒波が押し寄せる大海原と、緑豊かな里山の自然。県北地域はそれらを背景に独自の産業が発展し、日本の近代化を担ってきました。歴史と現代の対比もユニークで、展示場所に古い洋館や廃校なども選んでいます。場所性から作家を想定したり、プロジェクト自体を生み出したり、多様な視線が交差する複雑なパズルのように人選を考えました。作品のほとんどが新作。みなさんに驚いてもらえる仕掛けをたくさん加えたつもりです。


 さらには金砂郷の蕎麦、奥久慈の軍鶏など、美味しいものも豊富で、温泉巡りも楽しめる。現代美術の勉強ではなく、アートが発信するクリエイティブなメッセージを受け取りつつ、心から面白いと思えるものを発見しにきていただきたいです。

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チームラボ 小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々 2016
「茨城県天心記念五浦美術館」にて、初の個展を開催。岡倉天心が追求した「東洋の美」に、現代の視点から挑む

永峰美佳=文
『美術手帖』2016年8月号より)

KENPOKU ART 2016
茨城県北芸術祭
会期:2016年9月17日~11月20日
会場:茨城県北地域6市町 日立市、高萩市、北茨城市、常陸太田市、常陸大宮市、大子町
開館時間:各会場により異なる
休館日:各会場により異なる
入館料:一般 2500円【2000円】 / 学生・65歳以上 1500円【1000円】 / 中学生以下 無料(個別鑑賞券 300〜1000円程度) ※【】は前売

【参加アーティスト】
AKI INOMATA、イザベル・デジュー、イリヤ&エミリア・カバコフ、岩崎秀雄+metaPhorest、落合陽一、オロン&イオナ&マイク、ザドック・ベン=デイヴィッド、鈴木浩之+大木真人、力石咲、チームラボ、テア・マキパー、原高史、BCL、ピーター・フェルメーシュ、三原聡一郎、森山茜、和田永、ラファエル・ローゼンダール 他

【今月の1冊】「参加型」を考える、クレア・ビショップの話題作

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『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から注目したい作品をピックアップ。毎月、図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介しています。2016年8月号では、近年興隆を見せる「参加型アート」の意義を再考する、クレア・ビショップの著書『人工地獄 現代アートと観客の政治学』を取り上げました。

「関係性」から「参加型」へ
クレア・ビショップ=著 大森俊克=訳
『人工地獄 現代アートと観客の政治学』

 1990年代以降、世界各地で「参加」と「協働」を中核とする現代美術が増殖し続けている。しかし、いわゆる「関係性」以前から優れた芸術は必然的に社会に関与してきたのではないか。こうした問題意識に基づいて、本書は「参加」を「演劇やパフォーマンスという手立てによって、人々の存在が芸術的な媒体と素材の中心的要素となる」ものとして定義し、参加型アートの意義を再考する。

 ビショップは、主にヨーロッパ、ロシア、南米に焦点を当て、芸術が今日の「参加型アート」に至るまでには3つの歴史的転換点(1917、68、89年)があったと指摘する。最初の転換点として検討されるのは、イタリア未来派の「夜会」、ロシアの「プロレトリクト」演劇とマス・スペクタクル、そしてパリの「ダダの季節」によるイベントである。これらの運動は、挑発・演出・散策といった多様な手段を通じて観衆=鑑賞者に「参加」を促し、政治と芸術を接続した点で共通する。

 とりわけ、ビショップは「ダダの季節」とアンドレ・ブルトンによる事後分析(本書タイトルはここに由来する)との関係に注目する。なぜなら、それは参加型アートと批評の「より果敢にして情動的で、そして紛争を辞さない」緊張関係を表し、さらに「遅発的な触媒」として、未来の社会と共鳴する可能性を示唆しているからだ。つまり、参加型アートは、主体に温情・合意・抑制を課す「倫理的転回」によって規定されるべきではなく、錯綜・混乱・矛盾を経験する主体の自律性を包容し、芸術的な力動へ変換する「美学的体制」を獲得しなければならない。

 例えば、彼女はジェレミー・デラーの《オーグリーヴの戦い》(2001)の多義性――労働者と中産階級の遭遇、トラウマとエンターテインメントの並置、パフォーマンスと映像と書籍で表象されるイデオロギーの差異――を高く評価する。あるいは、芸術の社会的有益性=「有用芸術」を標榜するタニア・ブルゲラの《態度の芸術学校》(2002-09)を、作家自身の主張に反して芸術的想像力の観点から再評価しようとする。

 参加型アートを、社会的改善を強制する「政治的な正しさ(ポリティカル・コレクトネス)」へ縮減することなく、予断を許さない「委任されたパフォーマンス」として顕現させること。「参加」それ自体が目的化され、参加者が作家の志向につき従うだけのプロジェクトが蔓延する日本で、真の参加型アートが実現される日はやって来るのだろうか。

近藤亮介[こんどう・りょうすけ(美術家)]=文
『美術手帖』2016年8月号「BOOK」より)

クレア・ビショップ=著 大森俊克=訳
フィルムアート社|4200円+税

美術の「現場」から 『美術手帖』8月号新着ブックリスト

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『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から、エッセイや写真集、図録など、注目したい作品を紹介しています。2016年8月号では、映像作家からオークション会社の元社長まで、様々な立場からアートに携わる著者によって企画された4冊を取り上げます。

松本俊夫 著『松本俊夫著作集成Ⅰ 一九五三-一九六五』

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 映画監督で映像作家である松本俊夫の半世紀以上にわたる全著作を年代順にまとめた集成(全4巻)。第1巻は、東京大学在学中の1953年からPR映画監督として活躍していた65年までに書かれたテキスト124本を収録。共産党への共感と反発、勅使河原宏や大島渚ら同世代の作家に対する競争意識など、若き松本の自信と葛藤が滲み出る。参考資料として、高校時代に発表した切手蒐集論と東京大学卒業論文のヘーゲル美学に関する「問題提起」も収録。(近藤)

松本俊夫=著
森話社|6000円+税

大谷省吾 著『激動期のアヴァンギャルド シュルレアリスムと日本の絵画 一九二八-一九五三』

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 1920年代のフランスでアンドレ・ブルトンを中心に始まった芸術運動──シュルレアリスム(超現実主義)。それは日本でも多くの芸術家に影響を与えた。本書では、東京国立近代美術館で「地平線の夢 昭和10年代の幻想絵画」展(2003年)や「生誕100年 岡本太郎展」(2011年)などの展覧会を企画してきた著者が、第二次大戦前後の社会状況に注目しながら、日本におけるシュルレアリスムの受容と展開をたどり、その意義と独自性を再検討する。(近藤)

ARTISTS'GUILD+NPO法人 芸術公社 編『あなたは自主規制の名のもとに検閲を内面化しますか』

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 芸術支援の新しい可能性を模索する「ARTIST'S GUILD」とNPO法人 芸術公社が協働して企画・設計。「自主規制」というテーマのもと、5本のインタビュー記事を軸に、現代日本における表現の自由を問うた一冊。本書は、東京都現代美術館で今春開催された企画展「キセイノセイキ」の、出版という形態をとったもうひとつのプロジェクトとして位置づけられる。訳者の解釈を反映したレポート形式の英文を併記するなど、同展を多層的にとらえようと試みている。(松﨑)

ARTISTS'GUILD+NPO法人 芸術公社=編
torch press|1800円+税

石坂泰章 著『巨大アートビジネスの裏側 誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか』

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 著者は2014年までサザビーズジャパンの代表取締役社長を務めた人物。美術品の史上最高落札額を更新した12年のニューヨークのオークションから本書の物語は始まる。緊迫した会場の空気を伝える第1章、アートの資産性について解説した第4章、近年の世界的なアート産業の動向を俯瞰した最終章。アートビジネスの夢と現実をテンポ良い筆致でつづりながら、「肩書きとは関係のない個人そのものが試される」アートを「面白い」と結ぶ著者の半生が集約された新書。(松﨑)

近藤亮介[こんどう・りょうすけ(美術家)]+松﨑未來[まつざき・みらい(ライター)]=文
『美術手帖』2016年8月号「BOOK」より)

杉戸洋が豊田市美術館で個展開催 建築家とのコラボ展示も

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日本を代表する画家のひとり、杉戸洋の個展が豊田市美術館(愛知県)で開催中。これまでの作品を回顧的に展示しながら、新作を紹介する。愛知県出身の杉戸にとって、初となる東海地方での個展だ。

 1970年に名古屋市で生まれた杉戸洋は、ニューヨークで幼少期を過ごし、帰国後は愛知県立芸術大学で日本画を学んだ。1990年代半ばに画家としての活動をスタート。1998年には新人画家の登竜門として知られる「VOCA展」で奨励賞を受賞するなど、デビュー当初から注目を集めてきた。

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杉戸洋 無題 2015 キャンバスに油彩 31.8×41cm

 杉戸作品の特徴のひとつは、パステルカラーの柔らかな色合いで描かれる家や車、星空といったモチーフ、幾何学的な図や線を配置することで生み出される多面的な構図。その詩情あふれる世界は観る者の感性を刺激する。本展では、新作を中心にこれまで発表した作品の数々を振り返る。

 また、建築家ユニット、スパイダース(青木淳、大石雅之)とstudio velocityとのコラボレーション展示も見どころ。会場の空間からイメージを得て、絵画作品と構築物を共存させた空間をつくり上げている。

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杉戸洋 無題 2015 キャンバスに油彩、グリッター 53×65cm 

 本展は、8月11日から始まる「あいちトリエンナーレ」の特別連携事業でもある。3回目の開催となる今回は、「虹のキャラヴァンサライ  創造する人間の旅」をテーマに、アーティストたちが作品展示や街中でのパフォーマンスを展開。こちらもあわせてチェックしたい。

杉戸洋─こっぱとあまつぶ
会期:2016年7月15日~9月25日
会場:豊田市美術館
住所:愛知県豊田市小阪本町8丁目5番地1
電話番号:0565-34-6610
開館時間:10:00~17:00
休館日:月休
入館料:一般 1,000円、大高生 800円、中学生以下無料
URL:http://www.museum.toyota.aichi.jp/

会期中に下記のイベントを開催します。

【関連イベント】
対談「青木淳×杉戸洋」
日時:2016年9月25日 14:00〜15:30(開場13:00)
会場:美術館1階講堂
参加費:無料 ※先着172名
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