28年という短い時間のなかで、スキャンダラスな人生を送ったオーストリアの画家、エゴン・シーレ。その半生を描いた映画『エゴン・シーレ 死と乙女』が、2017年1月28日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開される。本作では、モデル出身で本作が長編映画主演デビューとなるノア・サーベトラが、瑞々しく人間味あふれるシーレ像を見せている。監督はチューリッヒやウィーンの劇場で舞台演出を多く手がけ、映画監督や脚本家としても活躍するディーター・ベルナー。
1890年6月12日から1918年10月31日まで。美術史に燦然と輝く画家、エゴン・シーレの生涯だ。その間わずか28年。19世紀末から20世紀初頭のウィーンで巨匠、グスタフ・クリムトと同じ時代を生き、クリムトに師事しながらも独自の画風を追求したシーレ。映画『エゴン・シーレ 死と乙女』では短い人生を駆け抜けた画家の人生が、史実に基づき、伝記的に描かれている。
その強烈な作風に加え、数々の女性たちとの浮名がつきまとうシーレ。なかでも本作のキーパーソンとなるのは、クリムトから紹介され、シーレが「ミューズ」として数多くの作品のモデルにした、ヴァリ・ノイツェルだ。シーレが未成年誘拐の容疑で逮捕、裁判にかけられたときも(結果は無罪)、常にシーレに寄り添っていたヴァリ。しかしヴァリはシーレの求めに応じ、「私は結婚を求めない」という誓いを立ててしまう。これが悲しい結末をもたらすことを、ヴァリはわかっていたはずだ。時は第一次大戦の最中。シーレは兵役に合格するや、図ったようにヴァリと決別し、中産階級の女性、エディット・ハルムスと結婚する。別々の人生を歩み出したかのように見えたシーレとヴァリ。しかし、ヴァリの存在がシーレの人生から消えることはなかった。

本作のタイトルでもあるシーレの代表作の一つ、《死と乙女》。これはヴァリとの同棲生活最期に、シーレが自身とヴァリをモデルに描かれたものだ。実は制作当初、この作品には別の名が付けられていた。だが、シーレはとある出来事をきっかけに、そのタイトルを書き換え、今に伝わる《死と乙女》となった。
世紀の変わり目を、何かに追われるように、劇的な人生を駆け抜けたシーレ。《死と乙女》で自らの存在を「死」に例えた画家が、28歳という若さで死に飲み込まれるというのはあまりに皮肉な結末だ。しかし、その作品は現在も後世へと語り継がれている。シーレ没後から約100年を経た今、あらためてその疾風怒濤の人生に目を凝らしたい。
編集部=文
(『美術手帖』2016年12月号「INFORMATION」より)
監督:ディーター・ベルナー
出演:ノア・サーベトラ、マレシ・リーグナー、ファレリエ・ペヒナー
配給:アルバトロス・フィルム
URL:http://egonschiele-movie.com/