数多く開催された2016年の展覧会のなかから、3名の有識者にそれぞれもっとも印象に残った展覧会を3つ選んでもらった。今回は美術評論家の清水穣編をお届けする。
「サイ・トゥオンブリーの写真−変奏のリリシズム−」
(DIC川村記念美術館、2016年4月23日~8月28日)

サイ・トゥオンブリーの写真展。一見すればピクトリアルでちょっと欲しくなる美しい写真群、トゥオンブリーの名前がなければ凡庸とさえ言えようが、そこに絵画と立体を並置することによって、トゥオンブリの作品自体がたんなる絵画ではなく、彫刻であり絵画であり写真(あるいはそのどれでもない)という三つ巴の存在であったこと、そこからトゥオンブリーの、抽象表現主義に対するオルタナティブとしての美術史的位置を考えさせる展覧会。
「トーマス・ルフ展」
(東京国立近代美術館、2016年8月30日~11月13日)
ベッヒャー・シューレの受容にはすでに蓄積のある日本で、初の大回顧展。あらためて、アイデンティティの技法としてのタイポロジーの政治性と、(アナログ、デジタル)写真というメディウムのアイデンティティに対する一貫した主題化、問題化が際立つ展覧会。(※現在、金沢21世紀美術館で巡回展が2017年3月12日まで開催中。)
トリシャ・ブラウン・ダンスカンパニー『Trisha Brown: In Plain Site』
(京都国立近代美術館、2016年3月19日〜21日)

美術館のロビーフロアを用いた、トリシャ・ブラウンの初期作品を中心とするささやかなパフォーマンスであったが、「規則」と「自由」が決して矛盾しないことを、しなやかな身体運動の連続的なコラージュで示してくれる、知的爽快さに溢れた公演。
PROFILE
しみず・みのる 美術評論家。1963年生まれ。主な著書に『プルラモン――単数にして複数の存在』『日々是写真』『写真と日々』。
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