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身体が語る政治性ーBODY/PLAY/POLITICS展開幕

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横浜美術館で10月1日より開催される「BODY/PLAY/POLITICS」展。これに先立ち9月30日、出品作家も参加する記者会見と内覧会が行われた。本展が紹介するのは、人間の身体や集団としての行動、超自然的な存在など、歴史を通じて作り上げられた身体が生み出すイメージの数々をモチーフに、それぞれの角度から作品化していく作家たち。インカ・ショニバレ MBE、イー・イラン、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ウダム・チャン・グエン、石川竜一、田村友一郎の6作家が小個展形式でそれぞれ作品を発表している。

 本展タイトルは「BODY」、「PLAY」、「POLITICS」という3つの単語から成り立っている。これについて担当学芸員の木村絵理子は「『BODY』は『集団的な身体』、『PLAY』は『社会的役割を演じること』という意味を込めた。つまり集団的な身体によって社会的役割を演じることの政治性『POLITICS』、という意味を表している。今の日本は保守化や言論の自由に関することなど、さまざまな面で窮屈になっていると感じる。そこで今の日本を、相対的に海外アーティストを通して再考したいというのがきっかけ」と語った。では各アーティストは身体と政治性に対してどのようなアプローチを試みたのだろうか。

アフリカ更紗で見るヨーロッパとアフリカ
インカ・ショニバレ MBE

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インカ・ショニバレ MBEの展示風景。奥の映像作品《さようなら、過ぎ去った日々》ではアフリカ更紗のドレスを着た黒人のオペラ歌手がヴェルディのオペラ『椿姫』のヒロイン、ヴィオレッタに扮してアリアの同じ一節を歌い続ける

 ロンドンに生まれながら、ナイジェリアで育ったインカ・ショニバレ MBEはアフリカの国々がヨーロッパから独立する際、アフリカ更紗を纏うことがアイデンティティの象徴となった一方で、アフリカ更紗の多くがヨーロッパで大量生産された輸入品だった、という事実に着目した作品を展示。立体作品《ハイビスカスの下に座る少年》、《蝶を駆るイベジ(双子の神)》と映像《さようなら、過ぎ去った日々よ》の3つには共通してアフリカ更紗が登場し、アフリカの民族性とヨーロッパとの関係性が表出する。

亡霊に託すフェミニズムの復権
イー・イラン

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イー・イラン《ポンティアナックを思いながら:曇り空でも私の心は晴れ模様》の展示風景。女性たちの髪の毛はウィッグ

 真っ黒な長い髪で顔を覆った女性たちが喋っている。現代社会における、文化、歴史的記憶の権力や役割の意味を問い直すような作品を制作しているマレーシアのイー・イランは、今回「亡霊」をテーマにした作品を発表した。この亡霊は東南アジアではよく知られる「ポンティアナック」で、「ポンティアナック」は妊娠中や出産中に亡くなったなど様々な言い伝えがあるのだという。

 本作についてイランはこう語る。「女性達の会話は即興で、人生やセックス、パートナー、あるいは猫などについて話している。マレーシアでは『子どもを産むべき』、『尽くさなければいけない』など、女性に求められるものが多く、またそれに応えるのが当然とされている。今回、妖怪となっているこの亡霊の存在を取り戻し、フェミニズムのイコンとすることで、フェミニズムを私たち(女性)の手に取り戻していく」。

炎に見る相反する関係
アピチャッポン・ウィーラセタクン

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グランドギャラリーに展示された《ナブアの亡霊》

 アピチャッポン・ウィーラセタクンが横浜で展示を行うのは5年ぶりとなる。本展では新作で日本初公開のビデオ・インスタレーション《炎(扇風機)》と2009年の《ナブアの亡霊》を見せている。両作には7年の時間差があるが、「いずれもタイにおける政治的な記憶を紡ぎ合わせたもの」とウィーラセタクンは語る。

 作品の舞台となっているタイ東北部はウィーラセタクンが育った土地であり、冷戦期に政治的に弾圧された記憶が強く残る場所。ウィーラセタクンは「炎は焼畑に使われるが、同時に、かつて軍によって自分の家が焼かれたと言う記憶も重なってくる。一見美しく惹きつけられるものにも、他の側面もある」と話しており、炎を通して物事の相反する関係を見つめることを問いかけている。

「ホンダ」が一番
ウダム・チャン・グエン

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ウダム・チャン・グエン《ヘビの尻尾》の展示風景。チューブはグランドギャラリーにまで延びている

「ベトナムではバイクといえばホンダ」と語るウダム・チャン・グエンは今回、実際にホンダのバイクを使った巨大なインスタレーション《ヘビの尻尾》と映像作品《機械騎兵隊のワルツ》を展示。《ヘビの尻尾》はバイクから排出された空気がチューブを満たし、生き物のように蠢いている。グエンはここに歴史上の神と人間をめぐるイメージを重ねあわせ、人間の発展に対する欲求と、そこに下る神々からの戒めをイメージしているという。

決まりごとはつくらない
石川竜一

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石川竜一《portraits 2013-2016》の展示風景

 ストリートで出会った人々のポートレートを制作してきた石川竜一。今回40点組で展示された《portraits 2013-2016》ではこれまで撮り続けてきた沖縄だけでなく、東京や大阪、石川、長野、北海道などで撮影した作品が含まれている。「僕はコンセプトがない。一つのテーマについてなにかやろうとすると、周りが見えなくなってしまう気がして。関係性で物事は成り立っているので、決まりごとはつくらないようにしている」。「言葉にしようとするととても個人的なものになってしまう」という石川だが、本展ではその個人的な関係性を、石川が《小さいおじさん》、《グッピー》と呼び、親交のあった2人を撮影した作品で見せている。

ボディビルとビリヤード
田村友一郎

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田村友一郎《裏切りの海》の一部。3台のビリヤード台はそれぞれ異なる意味を持つ

「最近ボディビルに興味がある」と語る田村友一郎は新作の映像インスタレーションを発表する。本展では近代ボディビル、三島由紀夫、第二次大戦中の横浜への空襲、GHQによる接収など様々なレイヤーを、3台のビリヤード台やバラバラにされたコンクリートの彫像、そして3つの映像によって繋げていく。(会期中ボディビルダーは会場に滞在しないので要注意)

BODY/PLAY/POLITICS
会期:2016年10月1日~12月14日
会場:横浜美術館
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
電話番号:045-221-0300
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)、10月28日は20:30まで開館(入館は20:00まで)
休館日:木休(ただし11月3日は無料開館)、11月4日
入館料:一般 1500円 / 大高生 1000円 / 中学生 600円
URL:http://yokohama.art.museum/special/2016/bodyplaypolitics/


【関連イベント】
アーティスト・トーク
出演:ウダム・チャン・グエン、アピチャッポン・ウィーラセタクン
日時:2016年10月1日 13:45~16:30
会場:横浜美術館円形フォーラム
参加費:無料
定員:100名(事前申込不要、先着順)

アジア・アートウィーク フォーラム
「波紋-日本、マレーシア、インドネシア美術の20世紀」
日時:2016年10月2日[第1部]13:00~16:00、[第2部]17:30~20:30
会場:[第1部]横浜美術館円形フォーラム、[第2部]高架下スタジオSite-D集会場
参加費:無料
定員:各部100名(事前申込不要、先着順)

ライブパフォーマンス
「野生派:curryなる3つめの事故(wifiじゃないから聞こえないっす)」
出演:野生派[石川竜一+吉濱翔+ミヤギフトシ+渡辺郷+ルーベン・キーハン+木村絵理子]
日程:2016年10月28日 19:00~20:30(当日、横浜美術館は20:30まで開館)
会場:横浜美術館グランドギャラリー
参加費:無料(事前申込不要)

夜の美術館でアートクルーズ
日程:①2016年10月26日、②11月26日 各日19:00~21:00
会場:横浜美術館企画展展示室
解説:木村絵理子(横浜美術館主任学芸員)
作家:①石川竜一 ②田村友一郎
対象・定員:18歳以上・各回70名(事前申込、先着順)
参加費:3000円

ワークショップ
日程:2016年12月4日予定
ゲスト:多田淳之介 × 田村友一郎

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