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池袋にパルコミュージアムが移転オープン、安野モヨコ展レポート

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渋谷パルコの一時休業に伴い、池袋パルコに移転した「パルコミュージアム」。ファッション、デザイン、アートと、様々な分野の展覧会を企画し、ポップでエネルギッシュなカルチャーを発信してきた同施設の移転オープニングを飾るのは、マンガ家・安野モヨコの展覧会だ。安野モヨコのこれまでのすべてをさらす、というコンセプトを掲げた「STRIP!」展をレポートする。

 高校3年生で漫画家デビューを果たし、数々の人気漫画を世に送り出してきたマンガ家・安野モヨコ。代表作のひとつ『ハッピー・マニア』の連載開始から昨年で20年を迎え、現在も『オチビサン』(『AERA』朝日新聞出版社)『鼻下長紳士回顧録』(『FEEL YOUNG』祥伝社)などを連載中。少女漫画誌から青年誌まで幅広い読者層を持つが、とりわけ流行に敏感な若い女性たちの圧倒的な支持を得ている安野モヨコの展覧会は、新しい「パルコミュージアム」のオープニングを飾るにふさわしいと言えるだろう。

 会場入口では、展覧会のメインビジュアルにもなっている、女性の艶めかしい姿が入場者を迎える。その下には、彼女が脱ぎ捨てた下着。ここから安野モヨコの作品世界を惜しみなく展開しようとする展覧会の意気込みが伝わってくる。

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安野モヨコ展「STRIP!」入口の様子

 安野モヨコの活動の歩みをまとめた年表を眺めつつ、白いカーテンをくぐると、本展のための描きおろし作品を含む安野のイラストが展示されている。安野が描くコケティッシュな女性たちには、マンガ同様に綿密なキャラクター設定があるのだろうか。クラシカルな要素を持ちつつ、どの時代とも地域とも特定しがたいファッションに身を包んだ女性たち。作品の背後にどんな物語世界が広がっているのかと、想像をかきたてられながら、歩みを進めていく。

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安野モヨコ展「STRIP!」会場風景。色彩豊かな作品群が金縁の額と黒い壁面に映える

 続く小部屋には、現在連載中のマンガ『鼻下長紳士回顧録』(祥伝社)に関する作品が並ぶ。作中のセリフに由来する白黒の羽毛の装飾。ここから会場は、安野がこれまでに手がけてきたマンガのタイトルごとに区画を分け、展示の趣向を変えていく。『さくらん』(講談社)のブースでは、吉原遊郭をイメージさせる赤い格子越しに作品を展示。単行本未収録の第2章の原稿を展示したパネルは、まるで屏風のようだ。『シュガシュガルーン』(講談社)は、小さな回廊型の展示ブースで、パステルカラーに彩られた少女たちの愛らしい姿を1点1点丁寧に見ていくことができる。『働きマン』(講談社)は、巨大な雑誌に見立てたインパクトのある造作に作品を並べ、見開きページの左右で、主人公の仕事中の姿とプライベートの姿を対比させている。

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各マンガ作品の世界観を大切にした展示プラン。上から、『鼻下長紳士回顧録』『さくらん』『働きマン』。マンガの一場面が蘇るようだ

 限られた会場スペースの中で、時代も場所もまったく異なるそれぞれのマンガの世界観を丁寧に立体化した展示構成は、多くのファンの共感を呼ぶことだろう。また、マンガを読んでいない来場者も、展示されたマンガ原稿の登場人物たちの繊細な表情や、ずしりと心に響くセリフに、作品への興味が湧いてくるのではないだろうか。

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代表作のひとつ『ハッピー・マニア』は、コミカルなストーリーながら、登場人物のリアリティに思わず感情移入してしまう。98年にはテレビドラマ化もされた

 単行本の表紙を飾ったカラーのイラストはもちろんのこと、マンガ原稿の1ページ、1コマまで、見る者をぐっと惹きつける力強さを持っていて、会場を一周したところで改めて安野モヨコの仕事の質量の高さにうならずにはいられない。印刷工程を介する前の生原稿からは、安野の丹念な画づくりの様子がうかがい知れる。

 今回、展覧会の開催に合わせて刊行される画集 『安野モヨコ STRIP!』(小学館)の中で、安野は絵を描くことの喜びと葛藤について触れ、漫画とイラストレーションを描くこととを意識的に区別していると語っている。

漫画を描くのと、一枚絵のイラストを描くこと。同じ描くといっても、気持ちの面では違いがあります。漫画の場合、自分のなかにサービス精神がちゃんとある。(...) イラストのほうは、もうすこし自分のなかの「こういうのが描きたい」といった気持ちが前に出る感じ。(...)サービスの気持ちと、「これを描きたい」という思い。ふたつのあいだで、つねに揺れ動きながら描いています。 『安野モヨコ STRIP! PORTFOLIO 1996-2016』「描くこと」より

 読者へのサービス精神と自己の内面から湧き上がる表現欲、双方の間で揺れ動きながらも、着実に人々の心をつかんできた安野モヨコの作品世界。往年のファンもそうでない人も、展覧会会場で、プロの表現者としての彼女の活動を通覧することで、また新たな発見があるのではないだろうか。

 なお、会場出口では先に紹介した画集『安野モヨコ STRIP!』の先行発売のほか、各作品の単行本やオリジナルグッズの販売も行っている。かわいらしい文房具や雑貨に加え、「現代の浮世絵師」としての安野の実力をいかんなく発揮した木版画など、本格的なアートピースも。池袋駅直結で、さらに身近なアートスペースとなった「パルコミュージアム」の第一弾企画、ぜひ最後まで存分に楽しんでいただきたい。

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物販コーナーも充実。画集『安野モヨコ STRIP!』の表紙は、女性の口紅とマニキュア部分にUVインクのグロス加工、下着の跡にエンボス加工が施されたこだわりの仕様。江戸時代の浮世絵と同じ技法で制作された木版画といった、ファン必見のコレクターズアイテムも並ぶ
安野モヨコ展 「STRIP! PORTFOLIO 1996-2016」
会期:2016年9月1日~9月26日
会場:パルコミュージアム(池袋パルコ 本館7F)
住所:東京都豊島区南池袋1-28-2
電話番号:03-5391-8686
開館時間:10:00~21:00
入場料:一般 500円 / 学生 400円 / 小学生以下 無料 ※パルコカード提示による割引あり
URL:http://www.parco-art.com/


同時刊行画集:『安野モヨコ STRIP! PORTFOLIO 1996-2016』
出版社:小学館
判型:B5判
ページ数:224ページ(160ページ カラー)
定価:2500円(税込)


関連企画:安野モヨコ、喜多川歌麿 "浮世絵の遊女たち"
会期:2016年9月17日~9月25日
会場:AI KOWADA GALLERY
住所:東京都千代田区外神田6丁目11-14 アーツ千代田3331 2F
電話番号:080-4415-8322
URL:http://aikowadagallery.org/ja/aikowadagallery/


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