35mmフィルムによるスライドショーという形式でのみ発表を続ける写真家・トヨダヒトシが、原美術館(東京・品川)で8月13日・14日の2夜限りの野外上映会(※荒天の場合は屋内での上映)を行う。第1夜は、2007年から16年までにトヨダが撮影した写真を編集したスライド作品《spoonfulriver ひと匙の河》を上映。第2夜は、2003年にこの世を去った日本の環境音楽の第一人者、故・吉村弘が撮影した写真をトヨダが約40分のスライドショーに編集した作品《for Nine Postcards》を上映する。
写真家・トヨダヒトシは、プリント作品や写真集という形で写真作品を発表しない。したがって、スライドショーの上映の機会に立ち会わなければ、基本的に彼の作品を鑑賞することはできない。当然鑑賞の機会は限られてしまうが、その作品に触れた人は、彼が守り貫いている発表スタイルの必然性にきっと納得することだろう。
カタン、カタン、というスライド映写機の音だけが響く静けさのなかで、目の前に立ち現れては数秒で消えていく写真の数々。ほとんどが写真家のごく私的な日々の一コマであり、そのささやかな瞬間の連続からなる映像日記に、多くの鑑賞者は生きることの切なさや愛おしさを感じ取るのではないだろうか。映写機にこもる熱気までを肌身に感じるような、その場かぎりの貴重な体験だ。

今回、原美術館で開催される上映会は、第1夜と第2夜で趣きが異なる。第1夜(8月13日)は、トヨダが一貫している作品発表のスタイルにならったサイレント作品の上映。第2夜(8月14日)に上映される作品は、故・吉村弘が撮影したスライド写真の中から、トヨダが写真を選びスライドショーに編集し、吉村の音楽を付した、吉村へのオマージュ作品である。吉村が遺した2,800枚のスライド写真の中から、トヨダがどのような日々の輝きをすくい上げ、一人の音楽家が生きた軌跡を描いているか、実に興味深い。第2夜は作品上映後に30分ほどのトークイベントも予定されている。
ちなみに、吉村弘と会場の原美術館との所縁は深く、吉村のファーストアルバム『ナイン・ポストカード』(1982)は、開館して間もない原美術館を吉村が訪れ強い感銘を受けたことが契機となって誕生した。来場者は、さまざまな巡り合わせに思いを馳せながら、夏の一夜を楽しむことになるだろう。

なお、両日とも荒天の場合は、原美術館内ホールでの上映会となる。上映会への参加は予約制となるが、荒天時の館内上映は席数が限られるため、現在は野外上映会が決行された場合(※)の参加という条件付きでの予約を受付中とのこと。野外上映の場合は当日券も発行予定。両日が好天であることを祈りたい。(※ 野外上映会の開催の可否は当日11:00までに原美術館HPにて発表)
内容:13日上映作品《spoonfulriver ひと匙の河》
14日上映作品《for Nine Postcards》
※上映後、水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)とトヨダヒトシによるアフタートークあり
会場:原美術館(中庭)
所在地:東京都品川区北品川4-7-25
電話番号:03-3445-0651(代)
料金:一般 1800円 / 学生 1600円 (予約制、当日精算、入館料込、全席自由)
申込み:原美術館受付、または予約専用メールアドレス toyoda-ticket@haramuseum.or.jp へ(「名前、希望日、人数、日中連絡可能な電話番号、原美術館メンバーは会員番号」をお知らせください。)