京都生まれの天才画家、伊藤若冲。現代では日本美術に欠かせない存在として名をとどろかせているが、その魅力はまだ汲み尽くされていない。東京都美術館(上野)では現在、生誕300年記念「若冲展」が5月24日まで開催されている。本展は代表作を一挙に鑑賞することのできる、またとない機会だ。
人気とともに、近年ますます注目が集まる江戸時代の画家、伊藤若冲。今回の大回顧展では初期から晩年までの代表作89作品が一堂に会し、とりわけ同時展示は東京では初となる大作「釈迦三尊像」3幅と「動植綵絵(どうしょくさいえ)」30幅は見どころの一つとなっている。

若冲の鮮やかな写実の世界は、独学の絵画技法によって生み出されている。青物問屋の町人階級に生まれた若冲は30歳過ぎから狩野派に絵を学び、のちに中国の名画を模写したり数十羽の鶏を飼って写生し続けたりと独学で自由な絵画技法をつくり上げていった。いくつものマス目で描く構図の取り方や当時珍しい人工の青色プルシアンブルーを使う色彩のこだわりは、現在でも色あせない画面に定着されて見る者を驚かせている。
さまざまな技術が駆使された作品から感じられるのは、敬虔な仏教徒でもあった若冲の「生きとし生けるものへの愛」だ。また若冲は生前に「千載具眼の徒を竢つ(自分の作品を理解する人が現れるまで1000年待つ)」と言い残している。
若冲が1000年先まで伝えたかったものは何か? 本展で「釈迦三尊像」と「動植綵絵」の全33幅がぐるりと並べられた会場で若冲の描いた世界に浸りながら、そのメッセージを確かめてみてほしい。
会場:東京都美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園8-36
開館時間:9:30~17:30
特別展休室日:5月9日
2016年4月16日発売の『美術手帖』2016年5月号では、「伊藤若冲」を特集。さまざまな角度から若冲の実像に迫りつつ、紙面1.6メートルでたどる「若冲画年譜」では、若冲の画業を一望の下に見ることができます。